ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第三章 幸せへの道

46、上條桜 6 (桜 side)

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 役得だと思いずっと触れたかった彼に初めて触ってしまった。彼の両腕を掴んで必死に説得にあたってみる。

「桐生君、確かに俺の部屋は汚部屋だ」
「えっ? お、汚部屋?」
「同居して部屋を片付けてくれないか? 勉強の邪魔もしないし、嫌ならしなくてもいいけど。誰かが一緒にいてくれたら、俺は部屋を綺麗に保てるかもしれない」

 良太は俺の言葉に驚いている。その戸惑った可愛い声もたまらない、俺は真剣な顔で話を続けた。

「それに奨学生でベータの君なら、誰からも反感は買わない。華美というほどの部屋でもない。一度部屋を見てから決めてみてくれないか?」
「で、でも、誰かと一緒だと緊張するし……。寮を修復する間くらいなら、寝袋生活の方が気兼ねないといいますか……」

 このままじゃだめだ、忍! なんとかしろ、と視線を送る。すると忍が、ハイハイという面倒くさそうな視線を俺に返した後、良太に向き合って説得を始めてくれた。

「桐生君、君が野宿をしたらそれこそ反感を買うことになるよ? みんないいとこの出だから、君の控えめな行動を逆の意味にとってしまうよ。例えば人の気を引いているとかね」
「そ、そんな……」
「それに寮の管理を怠った失策には、生徒会長自らが首席の子と同居するのに意味がある。君に首席を保ってもらうのも、生徒会としては重要課題だ。ここは俺たち生徒会に免じて、頼まれてくれないかな? これが一番いい方法だ」

 良太はしっかりと忍の目を見て一瞬、面倒くさそうな顔が見えたが諦めたように頷いた。

 忍をそんなに見つめるな。早く俺だけを見つめてくれ、心の中でそう思いながら、良太が納得してくれたことに安心した。

「さあ、桐生君。これで君は俺の同室になった。改めて宜しく頼む」
「……はい、生徒会長。なるべくお邪魔にならないように気を付けますので、無理なら遠慮なく追い出してください。よろしくお願いします」

 改めて、良太と握手をした。良太の手に初めて触れることができて、俺は密かに歓喜した。

 忍に目で合図して、ミッションに取りかかれと言わんばかりに、こっそり部屋のキーを握らせた。さすがは忍だ。

 忍がその後、良太にこっそり話していた。

 俺がアルファのくせに生活力のないダメな人間だから、部屋が汚いというのは内緒にしてやって欲しいと。そして他四人に向かっても同居についての話をして、慌ただしく出ていった。

「じゃぁ俺は仕事あるから、これからの君たちのことは生徒会長から聞いてね!」

 そうして忍は午後の授業をさぼり、急いでゴミをかき集めて、俺の部屋を汚部屋に工作したのは言うまでもない。

 汚部屋というのは生徒会と俺のセフレ達の中では有名な話だが、決して汚くはない。そういう噂を流すことで、俺の部屋に気軽に遊びに来られないようにしただけである。

 言っておくが、俺は綺麗好きだ。

 やっとだ! ついに念願の同棲、もとい同居が始まった。まず初めにお互いの生活スタイルを話して決まりごとを決める、というより俺が良太を深く知る作業を始めた。

 良太の習性を一通り聞き食事習慣には驚いたが、心配というか一緒に食事がしたくて、強引に俺が奢るからカフェテリアへ行こうと誘ったら、危うく同室を解除されそうになった。

 良太は人に頼るのが本気で嫌みたいだった。

 施しをくれてやる、みたいにとられてしまったのかもしれない。

 俺は焦って、良太への干渉は極力控え空気のように接し、合間、良太が休みたそうだなって時だけお茶を飲むふりして良太もどうだ? ついでだが? みたいにした。

 あくまでもお前ためという態度は出さないように、ついでに自分も休むからというスタンスにしたらすんなり受け取ってくれた。

 彼はシンプルで、煩わしくなければ問題なさそうだった。学業と副業であるプログラミングの仕事さえできれば、他はどうでもいいのだ。

 つまりその二点以外には一切関心がない。食事もそうだが、寝る所だってなんなら気にしない。自分のやるべきことを邪魔するものは全て排除。

 拒否する理由は、最終的に面倒くさい、多分それだ。うん、シンプルだ。それさえわかれば簡単だった。

 アルファ特有の性格を出すのもダメ、自分に構ってくるものは排除。

 基本自分に構わずにいてくれるのなら、側に置いてくれる。だからといって猫みたいに気まぐれに近寄ってはくれないから、やはり微妙な距離感を保ちつつ、こちらから近寄るしか接点は持てない。

 無理やり食事に誘った、失敗したのはそれだけだった。

 俺は優秀なので人柄はそこから見極め、少しずつ、本当に少しずつ、時に嫌と言わせない理由を述べて強引にパーソナルスペースへと侵入していったのだった。

 一緒のベッドで眠る、というミッションは初日にコンプリートだ。一緒のベッドに寝ないと抱きしめる口実がない、すなわち俺のフェロモンを毎日少しずつつけるというマーキング、そこは譲れなかった。

 五月はそんな感じで一ヶ月を費やした。彼はとても可愛い、そのメガネの下の素顔は俺しか知らない。

 自分の容姿を隠したのだというのもすぐにわかった。なぜなら、メガネは伊達だし、目の下のクマはなんとメイクだったのだ。疲れ切った奨学生を演じるためのツールだ。

 きっと自分の可愛さを知っているからこその行動、その天使の素顔をさらしたらみんなが良太に関心を持ってしまう、人から構われない仮面なのだろう。にしては可愛いと言うと否定するし照れる、なんだろう? このギャップは。俺は毎日試されているのだろうか。

 風呂上がりの良太は、表現ができないほど愛らしい。もちろんその演出されているクマも消えているし、部屋にいる時はメガネを取る、俺の前では警戒心を忘れたみたいだ。

 俺しか見られない本当の良太の素顔。

 俺は自分の高まる欲求を抑えるのに必死で、先に良太に風呂を使ってもらい良太が風呂から上がってから、風呂で抜いていた。

 しょうがない。良太に出会ってからは誰も抱いてないのだから、解消するのは自分でしかできない。それでも他の誰かを抱きたいなどとは思わなかった。俺の欲望は良太でしか癒せないのだ。
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