ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第二章 運命

39、発情 9 ※

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 つがい制度が始まってしまったみたいだ。

 オメガは喜ぶらしい、アルファの問題行動をベータ達は密かにバカにし、もしくは恋愛に夢見る一部のベータには、憧れの行動らしく萌えとか言って人気がある。

 普通の人間にはない感性でよく裏で話題にされている問題行動とは、いわゆるアルファによるオメガへの束縛、よく言えば溺愛。

「ほら難しいことは考えないで、良太はもう寝ちゃいな。明日またいろいろ話そうね」
「明日? 明日じゃダメです、早くしないと!」
「岩峰の所に、発情開けたら一日も待てずに行こうっていうの? 発情期中に助けを求めたような男の家に今後行かせると思う? これ以上俺を怒らせないで、良太には優しくしたいんだ」

 やばいスイッチがまた入った!

 怒らせるなって、なんでそんなに上からなんだよ。またあの怖いフェロモンを浴びせられるのはごめんだ。

「先輩! 岩峰先生にはご恩があります。保護者代わりだから一番に報告しないと! 助けを求めるっていうのも、僕は未成年で勝手にいろいろ決定する権利がないんです……」
つがいになった時点で、決定権はつがいのアルファにあるし、俺から連絡するから大丈夫だ。それに良太のお爺さんにも、俺の家が連絡をいれたからそこも問題ないよ」

 なに? 今、お爺さんって言ったか?

「お爺さんって……。なんの、ことですか? なんで先輩がそんなこと」
「もう隠さなくていい。俺も一応、大きな会社の跡取り息子だ。自分のつがいのことは調べ上げているに決まっているだろう。お前の本物の身内くらいはすぐに調べがついた」
「僕の正体、知っていたんですか?」
「ああ、だから俺に全て任せてくれたらいい、お爺さんには一緒に挨拶に行こうね! 発情期が開けたら二人で伺いますと伝えてあるよ」
「っ!」

 なんてことだ。こいつ、何を勝手に。

 猫を被るのが難しくなってきた。本気で怒ると人は演技なんかできなくなる。でも、まだ、まだだめだ。

 だって調べたのだって、全てではないはず。薬のことや、絢香のこと、借金のこと、自分から墓穴を掘る必要はない。まだ、様子を伺わなきゃだめだ。でも……どうしたって、目の前の男が……憎い。

 ジジイに知られた、もう終わりだ。

 こいつの声、聞きたくない……。

 だめだ、俺はどうしたって疲れている。そもそも、発情期が開けてから、なんでこんなにこいつと話し続けなくちゃいけない? もう限界だ、だけどこの男はまだ話を続ける。

「俺の母もオメガ男性だから、良太の支えになってくれるよ。これから俺の子供を産んでもらうことになるし、良太の実家への挨拶がすんだら、うちにも行こうね。両親が良太に会えるのを楽しみにしているよ」
「……っ ふざけるな」

 ダメだった、無神経なこの男の浮かれた話し声に苛立ちが隠せなかった。

「え、良太?」
「あんたになんでそこまで……っ! いい気になるな! 発情に狂ったオメガを抱いただけで、そこまで人の人生に関わる権利なんてない」

 俺は精一杯の怒りをぶつけた。いや、これでも少し抑え気味だ。

「良太……怒っているの? 俺が良太の了承もなくいろいろ調べたこと? でもそれくらい世の中あたりまえだよ。そんなぬるい世界に良太だって生きてないでしょ?」
「違う! いや、いろいろ曖昧にしたのが悪かったです。はっきり言わせてもらいます、あなたと今後一緒にいるつもりはありません」
「………」

 俺の怒りが通じたのか、流石に黙って聞いている。

「僕はあなたが嫌いだ。つがい以前にこちらにも事情があります。だから今後、僕と関わることは諦めてください」
「……良太! どうして……? あんなに愛し合ったのに」

 愛し合っただと? 

 そもそも俺の意識のない時に、好き勝手に俺の体を自由にしただけだろう。先輩が触ろうとしてきたので、すぐに拒否をして手を払った。

「触るな! あんたとはもう話したくない」
「……良太」

 そこからもうこの男を視界に入れるのはやめた、精一杯の拒否を態度で表した。

「……わかったからそんなに興奮しないで。今はこれ以上はやめておこう、どっちにしてもまだ動けないから、ここから出るのは無理だよ。とりあえず休もう? それに、良太がいくら怒ったからってこの部屋からは出さない。それだけはだめだから」

 一応、俺に触ることを躊躇して部屋を出ていった。

 俺は体がうまく動かない今は逃げられないであろうことを覚悟したので、これ以上なにか行動を起こす気にもなれず、ただベッドの中に潜り込んで一人涙を流した。

 怒りと、突然の抱えきれない出来事に精神疲労のピークを超えていた。

 現状を悟って、布団にがんじがらめに丸まった俺はそのまま眠りについてしまったらしい。

 セックスは想像した以上に快楽を与えてくれた。あんなになんとも思っていなかった相手でも、体の欲は違うらしい。俺はどうあがいても肉欲に溺れるオメガだと今回の発情で知った。

 いくら薬で発情を遅らせたからといっても、やってしまえばこれまでの禁欲が嘘のように体が快楽を探し出す。

 俺は寝ているはずなのに、まだセックスをしているような快楽を味わっていた。ん、違う? 本当に快楽の波が押し寄せいている。

 えっ、体が上下に揺れている? 揺すられるたびに、自分からはぁはぁと息が漏れる。

「ん……ん あっ あっ……」

 自分の甘い声に不快に思う、その違和感で目が覚めた。

 目の前には先輩の顔。ぼうっとする意識の中、腹の中には先輩の剛直がキチキチの収まっていたのを感じた。

 出し入れされる振動で俺の体は揺れている。その揺れにあわせて自分は無意識に、喘いでいた。そして意識した途端すぐさま快楽を拾ってしまい、俺の後方もキュンっとなった。

「……! ああっ、なっな、何をっ!?」

 寝ている相手に無体を働くとか、さっきの会話で俺が全身で拒否したのすら理解できないのか? それ以前になぜまた体を繋げているのだろう、あっ、ダメだ。

「あん、あぁ、あっ――」

 俺が覚醒したのを見届け、先輩は俺の中に熱いものを吐きだし、俺もそのままイッた。

「はぁっ はぁ はぁ……んんっ……」

 アルファの長い射精が終わり、ズルっと入っていたものを抜けた時、ゾワっとしてまた声が漏れてしまった。

「はんっ、」
「良太、愛してる……」

 荒い息遣いのまま頭に手を触れて撫でてくる。

「……いいか……げんにしろ! もうあんたと話すこともないし、勝手に触るな。こんなの……レイプだ」

 俺は目をそらして横をむきながらそう言った。

「良太だって気持ちいいだろう? 寝ていてもお前はフェロモンで俺を誘ってきたんだ、止まらないんだよ。俺のせいみたいに言うけどフェロモンはお互い様だ」

 俺はその言葉にキっと目線を起こして睨んだ。

「っ! 勝手につがいにして、勝手に人のこと調べて、あんたの所有物になるつもりはないし、本気で迷惑だ……」
「あんた……ねえ。そうやって俺と線を引いて嫌われようとしているの? 呼び方を変えたくらいで牽制できたと思っているの? やっぱり所詮はオメガだね」

 馬鹿にされた! 

 今までは俺を手に入れるためにいい人を演技していたのか? こんな風にオメガを馬鹿にする奴だったんだ。

「どんなに強がったって、違う一面が見えてますます可愛いだけなのに、俺に素を見せているって思うと、たまらないよ? 体は相変わらず正直で俺を欲しがっているし」
「……っ」

 かっと顔が熱くなったが、再び俺は黙った。

 目の前の男とは意思疎通はできないと悟った。そうすると懐柔されたとでも思ったのか? にっこりと笑って、このアルファ様はまた俺を抱き始めた。

 愛撫としつこい口淫と、もう目を閉じてそれに耐えた。たまに耐えきれず声は漏れたが、それでも好きにさせた。

 明け方まで抱かれ続けたが、俺はついに力尽きて意識を失った。
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