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第二章 運命
26、6月の憂鬱 7
しおりを挟む「桐生君、生徒会長との生活はどう? 困ったことない?」
クラスメイトの……えっと誰だっけ? 名前は覚えてないけど、同じく部屋を雨漏りで追い出されてしまったうちの一人だった。
「何も問題ないよ。生徒会長はほとんど仕事でそんなに部屋にはいないし、週末は僕が出かけているから」
と答えた。で、この人名前なんだ? と少し怪訝そうにしてしまった。
「あっ、ごめんね、俺と話したことないね、俺は片岡優。俺もあの雨漏りの被害者で、同室者はサッカー部の先輩アルファだ。俺たちベータって努力次第では上へ行けるけどアルファは初めから優秀じゃん? だから、俺結構へこむことも多いけど桐生君はどうなのかなって思って話してみたかったんだ」
「どうって、どうも何もないかな? 僕は自分のペースで生活しているだけだし、生徒会長が優秀なのはわかっているから、同じ土俵で物事考えたこともないし」
「桐生君って、なんか壁がある……」
冷たかったかな? 逆にお前はなんでそんなに親しげだ? と言いたかったが、言わない。お前みたいな脳筋が何にへこむんだよ、別に知りたくないけど一応聞き返そう。
「ごめんっ、僕友達いないからうまく話ができなくて」
「えっ、そうなの? 俺サッカーばかりであんまクラス居なくて、サッカー部の奴らとばかりつるんでいたから知らなかった、じゃ、俺友達一号な! これからよろしく!」
簡単に友達ができてしまった。
「あっ、うん、よろしく? で、片岡君は何か悩みがあるの?」
「俺のとこは面倒見が良すぎて、息詰まって友達の部屋行って朝帰りしたんだ。そしたらさぁ、罰で一週間部屋から出してくれなかった。ずっと一緒にいると、距離感わからなくなるし、桐生君のところも同じアルファとベータじゃん? だからどうやって生活しているのかなって、何やってもかなわないし、逆らえないし……」
「……」
怖っ! なにそのアルファ! こいつ大丈夫か? なんで外泊しただけで、というか同じ寮にいたのに、罰与えられているの? しかも一週間監禁って……。それってアルファとオメガの関係性じゃ?
「あの…片岡君、そのそれは、つまり大丈夫? えっと、いじめにあっているとか? アルファとベータだから、番とかにするそれじゃ無いと思うけど、それはちょっとおかしな関係性だよね? 何か弱みでも握られているの? ベータが監禁、いや軟禁に合うとか聞いたことないけど……逆らえないって何か要求されているの?」
「えっ! いや、そんなんじゃ、桐生君のところは? そういうことない?」
言いながら、真っ赤な顔をしている。なんなんだ?
「僕のところは特には。話すのは基本夜だけだし、生活が前より楽になって確かに自分のことしなくなったかな? 生徒会長はすぐいろんなことに気がついてくれるから、僕がやるより先に終わっているとかはよくあるよ」
「生活が楽って? 体洗ってもらえるとか? マッサージしてもらえるとか? 桐生君のところはどんなことシテル?」
えっ? 体洗ってもらっているの? あっ、確かに面倒見がいいから、前に俺の体調が悪い時、というか寝汗すごくかいて先輩も俺の汗がついてそのまま一緒に風呂には入ったな……。なーんだ、アルファってそういうところあるのか、むしろこいつの話を聞いて安心したわ。
「僕は勉強教えてもらうかな、あとはお茶を出してもらう。体調悪い時はお風呂に入れてくれたけど、片岡君も体調悪かったの? アルファって面倒見がいいんだね。僕もアルファの人と一緒に過ごすのは初めてだから、片岡君の話し聞けて良かった」
「えっ、そうそう、そうだよね、やっぱりそういうことだよね? 桐生君とこもうまくやっているね、アルファは誰でも面倒見がいいのか! なるほど! でも生徒会長って飛び抜けて美貌やばいじゃん? あんなにかっこいいとドキドキしない?」
「……?」
俺がクラスメイトと話いていると、ちょうど番のところに遊びに来ていたオメガがこちらの会話が聞こえたみたいで入ってきた。
「優は気付いていないフリしているけどさ、サッカー部エースは優にメロメロだよね。いい加減認めちゃいなよ! アルファの執着をなめちゃいけないよ」
「めろめろ……」
俺はこの可愛いオメガが言った言葉を復唱してしまった。そういうことか、エースと付き合っているから、俺に探りいれてきたのか。オメガは続けて話した。
「ふふ、それに桐生君だって生徒会長直々に同室だし、毎日そんなに匂いさせて、僕らオメガにはもう付き合っているの、バレバレだよ! あっ僕、相原光希、このクラスには僕の番もいるからよく遊びにきているの! 桐生君と話してみたかった、よろしく」
俺に握手してきたから、なんとなく俺もよろしくと言った。付き合っているとか思われているのか? 一応俺はベータで通っているはずなのに……俺より先に片岡君が自分の話に過剰反応した。
「めろ!? 光希みたいなオメガだったらあり得るけど、俺ベータだよ? でも先輩が、桐生君のことについてはそんなこと言っていたから気になって」
「いや、僕もベータだよ? アルファと、しかも男と付き合うなんてない」
「えっ……でも桐生君。あの生徒会長がそこまで匂い付けしているのは、そういうことをしているんだよね?」
「そういうこと?」
相原光希が、意味不明な言葉を発した。
ああ、そうか、律が言っていたな。オメガには先輩の匂い付けがわかるし、匂い付けイコール俺のもの的なやつだっけ?
そろそろ、その匂いとやらを付けるの、やめてもらおうかな。色々面倒くせぇな。あっ、でも匂いって一緒のベッドで寝ていると付くんだよな? だったら朝シャワーをすればいいだけか。うん、明日から朝シャンしよう!
「匂いがつくのは、生徒会長がわざとだって言った。特別な関係性ではなくて、奨学生の僕が生徒会長に保護されていると、妬まれるとかあるかもしれないからって」
「なんだ、付き合ってないのか! でも仮に男でも、誰もが振り返るほどの美貌をもった生徒会長だよ、付き合いたいって思わない?」
片岡は、恥じらいながらも自分と同じ感覚でいて欲しいのか、同意を求めてきた。
「それなら、僕にはもう大切な女性がいるから、そういう意味で生徒会長に惹かれることないよ」
「「………‼」」
またまた二人して驚いているよ。ほんと失礼だな! でもそういう意味の大切ではないけど、絢香のことは世界一大切だから、まぁいっか。
先輩とのことは別に誰に誤解されてもいいって思っていたけど、先輩を好きなオメガ達から見たら俺の存在を疎ましいと思うだろう。少しでも目立ちたくないし人から反感を買うのも嫌だ。完璧に男に興味ないところ見せといた方がいいかもしれない、そう思った。いちいち付き合っているの? とかウザイし。うん、これからは誤解を解こう。
「えっ、それ生徒会長は知っているの?」
相原君が小声になった、なぜ?
「知らないよ、特に聞かれたことないから。生徒会長は僕の恋愛事情まで興味無いだろうし」
「そう……」
片岡君、ごめんね? へこむなよ。俺ホモじゃねぇし、でも偏見は持たないようにするから、お前そのエースと堂々と付き合っちゃえよと心の中で思った。そしてオメガが俺に忠告とやらをしてきた。
「あのね、僕からの忠告だけどね。その彼女のこと今は黙っていた方がいいと思うよ。穏やかに過ごしたいでしょ? 自分が面倒みている子が他に大事な人がいるとか、アルファは許してくれないと思うよ?」
「そういうもの? 別に自分から話すことはないから大丈夫かと、でも忠告ありがとう」
このオメガの意見は正しいかもしれない。自分はまだ番がいないのに、同室の格下ベータに彼女とか、そりゃ気持ちいいわけないか?
それより片岡君はアルファに迫られているのか、可哀想にご愁傷様。ごめんね? 片岡君、俺、君と同じじゃなくて、と心で謝っておいた。
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