ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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第一章 生い立ち〜出会い

17、同居スタート 3

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 学園での生活は一人暮らしじゃないという点で少し変わったけど、俺の生活リズムは基本ほとんど変化なかった。

 むしろ以前より時間をうまく使えて、睡眠もよくとれている、そして三回のティータイムとおやつの時間まで増えてしまった。

 先輩との共同生活はとても居心地が良くて驚いた。アルファだし先輩だし色々気を使ったりするのだろうと思っていたが、俺の生活に入り込むこともなく適度に放っておいてくれるし、そして適度に構ってもくれる。

 全くもって不快感も無く、世話も焼いてくれるので助かることばかりだった。ついでに勉強も見てくれる。なんだ? これ、こんな楽な生活今までなかったから正直とまどう。

 当初の感じだと部屋に居候させてもらう代わりに、汚部屋の住人の世話をして馬車馬のようにアルファにこき使われるのではないか? そんな不安もありつつの同居だと思っていたが、非常に楽な毎日だった。

 一度、大掃除をしてからは全く汚れていない。むしろあの時、何かあったのだろうか? 先輩を見ていても綺麗好きに見えるし、よっぽど忙しくて立て込んでいた時期だったのかな?

 今はそんなこんなで、余裕ある毎日を送れている。ただスキンシップが異常に多いという点を除いてはだけど。

 同居するにあたって、初日はお互いの簡単な自己紹介とかもした。まあ、だいたいは知っていたけど一応、知らないふりをして話を聞いた。

「さっき生徒会室で言ったけど、俺は上條桜。生徒会長の仕事があるから寮で過ごすことは短いかな? 実家がちょっと面倒で、学園の皆は俺に近寄り難いところがあるみたいだけど気にしないで気軽に接してね」

 爽やかな笑顔で言う、そしてまたしっかりと俺の目をとらえる。
 
「ここは会社の跡取りが多いから、仕事絡みもあって気が抜けないんだ。それと、生徒会長だから生徒の事情は把握していて良太のことは多少知っているんだ、気を悪くしたらごめんね。でも良太はこの学園で家柄が絡まないから俺に対して忖度が無い人種だってことで俺は安心しているんだけどね」

 なるほど、そういう事情が近くにいてもいいかどうかの基準だったのか。

「いえ、僕も先輩のことはなんとなく知っていました。あっその、かっこいいとか、上位種アルファとか色々周りで言っているのが聞こえただけですけど、僕はアルファやオメガの常識もないので特にはわかりませんが。ところで僕のことはどこまで知っているか聞いてもいいですか?」

 俺のこと噂でも、知っていてくれて嬉しいなぁとか言いながら、真面目な顔して向き合ってくれた。

「えっとね、ご両親が亡くなっていて天涯孤独。今は岩峰総合病院の副院長が後見人で、この学園には入学金、授業料の一切を全額免除という奨学制度で入学。条件としての首席入学だったね、さらに生活費のために土日は岩峰家で家庭教師の仕事をしているということで特別に許可された外泊、というところかな?」

 やっぱり対面的な家の事情は一生徒であるにも関わらず、生徒会長だから全て知っているのか。

「亡くなった母の知り合いだった岩峰先生が、力を貸してくれてここに来ています。本来の僕は貧しくて、こんなところに入れる人間じゃないんです。先輩は優しいから、こんな卑しい身分の僕を、無理やり押し付けられたんじゃないのですか?」
「違うよ。俺が君を預かりたいって言ったんだ。言っただろう? 俺に対して忖度ない人間は少ないんだ。失礼だったと思うけど君ならご両親がいないからまず大丈夫って思った。それに生まれる環境は誰も選べない、俺は育ちで人を判断しないよ」

 なぜか力を込めて話してきた。

「それから岩峰家は理事の親戚筋で、彼の家の病院が学園の医療関係を任されている。その人が認めた子を諌めるなんて誰にもできないよ? 後見人は生徒会しか知らないけど、奨学制度がとても難関で身元は確かじゃないと学園には入れないことは皆知っている。良太が家のことで何か言われたことなどないだろう? ここの学生は生まれながらに上下関係を理解している」

 そこまで先輩は説明してくれて、俺はまた無知であったことを知った。

「でも疑問だけど、岩峰ほどの後見人がいながらなぜ良太は働いてまで生活費を稼がなければいけないの? 彼はどうして養ってくれないの? その……恋人でしょ?」
「えっ? ええぇぇぇ!? な、なんですか? それ! 僕、男ですよ? ベータですよ? なんで恋人になるんですか?」

 俺が大声で本気の否定をしたことに、先輩は若干驚いたような安心したような顔をした。

「あれ? 違うの? ほら、前に寮の廊下で二人が一緒の時に会ったのを覚えている?」
「あっ、ありましたねっ」
「うん。その時、良太がすごく彼に甘えた声を出していたのが印象的で、奨学生は真面目な優等生って聞いていたから気になっていたんだ。良太、我慢できないってしがみついて、二人は、もしかしてそういう関係で、良太が欲情しているみたいに見えたし、早く二人きりになりたいアピールをしているように見えたから」

 えっ、えぇぇ! ないない! しれっと変なこと言っているよ、この人。

 ちょっと恥ずかしいんだけど、あれはおしっこ我慢していた時の訴えじゃん? それを、あっちを我慢みたいな!? アルファの脳は恋愛しかないのか? エロいことしかないのか!?

 仮にも男同士で、どうしてそんな関係になってしまうんだろう。もはや感覚ってか価値観? 考え方、ものの捉え方? とでもいうのか、それが根本アルファは違うものだと思った。

 そもそも三つのバースは、物の見方や考えが全く違うみたいな感じで、理解しあえないのが当たり前と思った方がいいのかな? 喋る言語も違うって捉えた方がいいのかもしれない。俺は赤い顔して全否定した。

「先輩には甘えるっていうのが、そういう関係に思ってしまうのかもしれませんが、ベータの男同士では恋愛は成立しません。いや、そういう人もいるかもしれませんが、僕はノーマルです! 女の子が好きです」

 俺の普通の性癖をこんな力説しているのも可笑しいが、勇吾さんの名誉のために言わなければと思い興奮してしまった。先輩がきょとんとしている。

「先生は僕にとって家族みたいな人で、あの時はトイレ我慢していて、限界で切羽詰まっていただけで、男に欲情するとか、絶対ないですっ。もしかしてずっとそういう風に見られていたんですか? 絶対ないですから……っ! 先生はなんでも買い与えてくれるし大事にしてくれています。多少はしょうがないけど、自分でできる範囲のことはしたくて、無理言って自分で働くことを許してもらっていますっ」

 先輩は俺がこんなに沢山の言葉をしゃべっていることに驚いている? 俺の反応にひいた? でも男に欲情する男って思われたくないし。先輩も自分が欲情されるのはちょっと困るみたいな感じの牽制だったら、大変申し訳ないし。

「あっ、ごめんね、そんな必死に否定しなくても。なんか変な勘違いして悪かったね、じゃ恋人じゃなくて、ただ自分でなんとかしたいからバイトして生計を立てるということだね? やっぱ真面目だね」

 俺が必死に頷くと嬉しそうに笑っていた。

 本気で否定するとか笑えた? でも納得できたみたいで良かった。ベータホモ疑惑とか早めに訂正しておかなければ、俺と勇吾さんの名誉にかけて、うん。

「信じてもらえて良かったです。これ以上先生に迷惑かけられないので、それに僕なんかがそんな相手なんて思われていたら可愛そうですよ」
「そう? 良太は凄く可愛いから、彼が恋人じゃないならこれから気をつけないとね」
「?」
「この学園はアルファオメガだけが恋人同士なわけじゃないよ。君がそんなに可愛くよく喋る子だって周りが知ったら襲われかねない、気をつけるんだよ」
「ベータですよ、男ですよ?」
「恋愛は自由だからね」

 まじか!? この学園無秩序じゃねぇか、こえぇな。

「僕なんかにそんなことを思う人は居ないと思いますが、忠告ありがとうございます」
「困ったことがあればなんでも言うんだよ」
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