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第一章 生い立ち〜出会い
16、同居スタート 2
しおりを挟む先輩は朝起きたら学園寮に入っているカフェテリアへ行き、朝食を済ませてから一旦部屋に戻ってくる。朝に弱い俺はギリギリまで眠るけど、ちょうど目覚ましをかけた時間に帰ってくるみたいで、目覚ましをなかなか止められない俺を優しく起こしてくれる。
寝起きの目には眩しいくらいの整った顔が近くにきて、毎朝俺の心臓はドキっとしてしまう。
眠いながらも朝の定番シリアルを食べて血糖値をあげる。そのシリアルすら先輩が後は食べるだけってところまで用意してくれて、さらにモーニングコーヒーまでいれてくれる。
先輩は食後のコーヒーはカフェテリアではなくて、自分のお気に入りを入れて部屋に帰ってからゆっくり飲みたいんだって。
だから俺がシリアルを食べている時、新聞を読みながらコーヒーを優雅に飲んでいる。その姿も眩しいな、まるでドラマでも見ているような光景だ。イケメンの威力はやばい、こんなのを毎朝拝まなければいけないなんて。
やはり心臓に悪い。
そして夕方、授業が終わると図書館で勉強してから部屋へ向かう。先輩は生徒会で帰りは遅いので、帰ってくる前に部屋の掃除とか洗濯物をたたんだりとかして、一通り家事と呼べるものが終わるとリビングを使わせてもらって勉強をする。そうこうしていると、先輩が一度寮へ戻ってくるのでお茶を入れて少し話をして、先輩は夕食を食べにカフェテリアへ行ってしまう。
その際も部屋が片付いているのを褒めてくれたり、洗濯物が綺麗になっていることにお礼を言ってくれたり、とにかくできる男はよく気がつくし、いちいち何かするごとに関心を持ってくれたり労ってくれたりとフォローがすごい。
世の女性は、こんな男と暮らしたら毎日幸せだろうなって思うし、きっと離婚問題なんかも起きないだろう。
そしてキッチンは自由に使っていいと言われているので、俺の夕食は炊きたてご飯と卵でTKGを食べる、安定のディナーだ。
先輩が戻ると、風呂を使わせてもらう。さすがに部屋の主より先に風呂に入るのは気がひけるし、ベータ寮に行けば大浴場があるのでそっちに行くと言えば全力で止められた。
無防備に他人に裸を見せないで? と。俺の体そんなに貧相なのかな……。ちょっとへこんだ。
生徒会長の部屋で世話になっているのに風呂も入らせてもらえないとか、噂になったら困るとか、そっちかな? よくわからないが、懇願されるので先にお風呂はいただくことにした。
交代で先輩が入る。先輩の風呂は長い。あんなにイケメンだからお風呂でいろいろお手入れしているのかな? とか色々考えながら、今度は仕事に取り掛かる。
勇吾さんがタメになるからと専門の家庭教師までつけてくれて、習得したプログラミングの仕事だ。仕事は勇吾さんの知り合いが持ってきてくれている。学業との両立だから沢山はできないけど、期限内にちゃんと終わらせる計画をたてて取り掛かっている。
夢中になると全く周りが見えなくなるので、いつのまにか風呂から上がった先輩にじっと見られていて、また焦る。風呂上りのやたらと色気を増したアルファ様だ、俺なんかが目を合わせてはいけない気がする。
そわそわとして、捕食されてしまう小動物のような気分になってしまう。極力一緒に居たくないけど、居候だし、しょうがない。
「良太、一息ついたら? ココア入れたから一緒に飲もう」
テーブルに暖かいココアを置いてくれた。
俺は地べたに座ってソファを背もたれにしてテーブルにパソコンを置いて作業をしていたので、あわててソファに座りなおすと、またすぐ隣に先輩が腰をかけて、俺の頭を撫でた。
「ありがとうございます! あっ、マシュマロが入ってる!」
目を輝かせて喜んでいると、すかさず先輩は可愛いなって言って、甘い目で俺の顔を横から覗き込んで笑った。あっ、子供っぽすぎたかな、あわてて俯いて甘くて優しい香りを嗅いで、ゆっくりとココアを飲んだ。
先輩は決して俺の邪魔はしないけど、気にはかけてくれる。そうやって一日三回は先輩とお茶をする。
そして先輩もパソコン見たり、お家関係の仕事をしたりしていて、俺も自分の仕事を進めている。そんな静かな夜の空間についつい集中してしまうが、俺と先輩の仕事が終わるのがほぼ同じタイミングで、そのまま睡眠時間へと入るのも同じ時間だった。リズムがすごく似ていて、心地よい。
先輩との時間はそんな穏やかな感じで更けていくのだった。
そして、初めての夜はやはり緊張してしまい、思わず寝袋を出してしまった。
さすがにこのイケメンと寝る度胸など俺にはなかったみたいだ。エロい意味じゃないよ? ベッドは確かに大きい。なぜ一人暮らし用の寮なのに、クイーンサイズ?
生徒会長っていうのは贅沢の極みだな。先輩が言うには、歴代生徒会長は代々、番がこの学園にいたから番との生活を考えてリラックスできるようにクイーンサイズにしているんだって。
なにせ発情期をずっと一緒に過ごす空間だからベッドは大事だって……。俺はなんとも理解できなかったが、番との心地いい生活ができる部屋になっているんだってさ。
お布団にお邪魔するのは気が引けて、ベッドの下に寝袋を出したら秒で阻止された。
「良太、俺と同じベッドで、って話したよね? なんでソレ出しているの?」
「よく考えたら、僕すごく寝相悪いんです。こんなに大きいベッドだと、いっぱい動いて先輩を蹴っちゃうかもしれないし、寝ている間にベッドから落ちちゃう可能性があるので、事故を防ぐにも下で寝たほうがいいかなって思って。同じ部屋は使わせてもらいますが、僕は下でいいです」
「そんなに寝相悪いなら、しょうがないね? 抱きしめて寝てあげるから大丈夫だよ。ほら、こっちおいで?」
「?」
「ねっ?」
ね? じゃない。嫌だ、何言っているんだ? なんだ、こいつ頭おかしい。なんで俺がアルファと添い寝しなくちゃいけないんだよ。
「あの、先輩、僕、男ですよ? 抱きしめるとか気持ち悪いじゃないですか? ほんと気にしないでください」
「だめだよ。俺と同じ部屋にいて、良太の顔色が悪くなったり、体が痛んだりしたら、俺が良太に無理させているって他人に疑われちゃうでしょ? それに良太は可愛いから気持ち悪くないよ、もう寝よう、あんまりグダグダ言っていると寝不足になっちゃうよ」
無理をさせている? なんだ? アルファの考えることはわからない。それに気持ち悪くないと言われてほっとする自分がいた。すると俺を抱えてベッドに入れられた。
「……!」
お姫様抱っこなんかされて、驚いてびびって何も言えず固まっていると、布団に体を入れてそのまま抱きつかれて眠る大勢になった。
「良太、抱き枕みたいで気持ちいいなぁ。俺も安眠できそうだ、おやすみ」
俺の頭の下に先輩の腕を入れて、そのまま抱えるように先輩はスヤスヤと寝息をたてて眠ってしまった。
早っ! 即寝?
しかも男の俺に腕枕しているし、なんなのこの人。なんの抵抗も、言葉すら発するタイミングをつかめずに呆然とした。でも先輩の寝息を聞いていたら俺も眠気が襲ってきてそのまま落ちてしまった。
そして俺は一回も覚醒することなく熟睡し、朝になり起きたら超絶イケメンが身支度整っていて、俺を優しく起こしてくれる。
そんなルーティンがいつの間にかできあがっていた。
一人部屋の時よりも熟睡度が高いことに驚いた。アルファと同じベッドで寝てもこんなに熟睡できるのにも不思議だったが、たしかに抱きしめられても不快感などなく、むしろ安心して力が抜けきってしまうくらいだ。
この部屋で先輩と過ごすことに安心しきってしまった。むしろ授業中や学園にいる時の方が気を抜けなくて、部屋に戻ると脱力してしまっている。
そんな俺の変化に先輩は喜んでいた。当初から部屋ではリラックスしてと言われていたから、それができていることに生徒会長としての仕事をこなせたと満足している模様だった。
先輩って意外に真面目だなと、俺はのんきにそんな結論に至っていた。
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