6 / 237
第一章 生い立ち〜出会い
6、桐生良太 5
しおりを挟む「はぁはぁ、はあ、はっ」
「はぁぁ。良、大丈夫?」
「うん」
俺たちは走れるだけ走って逃げた。そして身を隠すためラブホに入り、ぶたれて腫れている絢香の頬を冷やしていた。
「良、ごめんね。こんなことに巻き込んで。私は番解除される、もしかしたらあと少ししか生きられないかも。あなたにまた同じ思いをさせることになる。ほんとにごめんね。雪華さんと同じ最後になるなんて、なんか皮肉よね。ううっ……」
俺は泣きだした絢香を抱きしめた。
「絢香、俺こそ絢香の人生台無しにして、何を言ってももう遅いけど、俺さえいなければ運命と幸せになれたのにっ……ごめん、ごめん、ごめんなさい、ごめんなさいっ」
俺は泣きながら何度も謝った。
いつもは俺が絢香を抱きしめて慰める役なのに、絢香は死が決まっているにもかかわらず、まるで聖女のような優しさで俺を包み込んでくれた。
「良、私の人生はあなたがいてくれたおかげでとても素晴らしかった。それにあんなクソ男となんて幸せになんかなれない」
俺はずっと泣いている。こんな時にまで俺のことをそんな風に言ってくれる絢香が、愛おしすぎる。
「アルファってほんとクソよね、聞いた? 性奴隷って。番にもそんなことしか言えないなんて、哀れな生き物としか思えない」
「そうだね……」
「良、あなたには酷だけど私の最期の時まで一緒にいて、それから、これからのことは心配しないで。お金はだいぶ溜め込んだから大丈夫、あなたはそれで生きるのよ。あなたみたいな素晴らしい人には、これから素晴らしい人生が待っているわ」
俺は涙が止まらなかった。ただひたすら頷くだけ、ひたすら絢香の名前を呼び続けるだけ。それしかできなかった。
俺は弱い。
俺はまた大切な人を失う。決意はすぐに固まった、絢香を看取ったら俺も後を追おう。そうして幸せだった記憶とともにこの世を去ろうと。
しかしそんな穏やかで、最良の最後さえも俺には許されることはなかった。
絢香とラブホを出た途端、拉致された。
怒り狂った絢香の番は俺たち二人を売り飛ばした。絢香に完全に拒否された悔しさからなのか、絢香を囲うのではなく、他の人間に売ることにしたらしい。
売られた先は【オメガオークション】金持ち達がオメガを買う場所だった。
輸送中にバイヤーが絢香に話しかけた。
「あんた、番に売られるなんてよっぽどのことしたんだな。安心しな、番解除はされないよ。そこは買い取った時にきちんと契約結んだから。売った途端死んだらこっちの立場が危ないからな、うちは安心安全、誠心誠意を込めた取引しかしない」
胸糞悪いことを言っている。
「ここはほんの一握りの人間しか利用できない。番以外の人間とのセックスは死ぬほど辛いらしいが、その顔を見ながら性行為を楽しむ変態も世の中にいる。どんなオメガでも需要はあるもんだ。そっちの坊主もまだ若いが、発情前の純オメガ処女! 一番の人気商品だ。お前はかわいい顔しているし、すぐに買い手がつくだろう。くっくっ」
オメガオークションの主催者は楽しそうに俺たちに話してきた。俺はすぐに養護施設の園長を思い出し気持ちが悪くなった。
人を売り買いする、そんな人間が存在する。絢香は泣きながら怯えて、でも良は私が守ると言いながらも、しっかり俺を抱きしめていてくれた。
俺たちはすぐに売られることは無かったが、オークションにかけられるまでは地獄だった。オークション前にお試しでオメガたちを楽しめる、そんな高額サービスもここでは売り物だった。
都合のいいオメガを見繕い、まずは試せるというのも魅力のオメガオークションだと、そこの支配人は言った。
試すといっても一回百万単位だ。そして肝心のオークションは億単位。だからよっぽどの人間しかここには来られない、秘密は必ず守られる。そういう特別な場所であった。
俺は処女で売り物としての価値があったから、まだ待遇は良かった。発売前に後ろは使えないということで、口での奉仕を仕込まれ何度も客たちの肉棒を口に押し込められた。
絢香はもちろん、連れていかれた。
高級クラブのナンバーワンホステス、以前の客も中にはいたらしい。絢香は薬で朦朧となっているところを抱かれたそうだ、売る前に精神が壊れてしまうからわからない内に抱かれる。
でも絢香はすでに壊れかけていた。あのまま絢香は死んだ方がマシだったのではないだろうか。俺は性行為を終えた疲れきった絢香を抱きしめることしかできなかった。
絢香と一度は試したいと、お試しの人気はすごいもので数回客たちとの性行為に出されたが、絢香の体調がすぐに限界になり、途中からは酷使されなくなり絢香は売られるのを待つだけの身になった。
あまりの拒否の仕方に絢香を抱いたアルファたちは、試すにはいいが番持ちは買えないなとこぼしていった。
それを聞いて、俺は支配人に絢香とセットで売ってくれと頼んだ。そうしないと今すぐ俺のケツにこいつを突っ込んで、処女アナ楽しめないようにしてやる! と脅した。
それとは卑猥な大人のおもちゃだ。オークションに売られたオメガたちの部屋には、自分で発情を抑えるための道具がいくつもある。
売れ残るくらいならそれでもいいだろうと支配人がそれを許した。
俺たちはこのオークション会場で苦痛にまみれた数ヶ月過ごした後、売られていった。
俺には史上最高の十億という金額がついたと後で言われた。どこの変態が買い取ったのか知らないが、やはりアルファはクソだと思った。
応援ありがとうございます!
17
お気に入りに追加
1,714
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる