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第一章 生い立ち〜出会い
5、桐生良太 4
しおりを挟むある晩、突然鍵を開ける音がした。
日付も変わらない時間、絢香はまだ仕事中のはず、どうしたんだろう。体調でも崩したのかな? 俺はリビングのドアを開けて玄関の方へと向かった。
「絢香? お帰り、どうしたの? 具合悪くなった? っ……だ……だれ?」
見知らぬ男たちが入って来た。
「お前か? 絢香が飼っているペットは」
いかにもアルファらしい大きい男が、玄関から靴も脱がずに上がり込んできた。
「……あんたは、絢香の番? なんで勝手に?」
その大きな男は俺を汚物でも見るような目で見てきた。この感覚には覚えがある。母さんの番がおんなじような目をしていた。
「ペットは礼儀もない。俺の番にまとわりつくな。カバンに盗聴器をつけといて正解だったな、お前みたいなクズを飼っていたなんて」
は? 盗聴器?
「お前を連れて逃げるって絢香が言うのが聞こえたんだ。俺はとんだビッチを番にしたが、あれは運命だから手放せない。お前さえいなければ問題は解決だ」
まるで虫けらを見るような目で、俺を見てから恐ろしいことを言い後ろの黒づくめの男たちに始めろと言った。
俺は呆然とした。そいつらは手際よく部屋の荷物を片付け始めた、それは夜逃げのような光景だった。
「お前のこともあれから絢香から聞いた。だが番以上に大切な存在など許すはずないだろう? お情けで解放してやる。絢香は俺の家で囲うから、お前は自分の荷物まとめて出て行け。今後、絢香は家から一歩も出さないからお前が近づくこともできなくなる」
何を言っている、この男。
「……あんた、絢香を閉じ込めるつもり? 愛しているんじゃないの? 嫌がることするの?」
面倒臭そうに俺を見ていた目が怒りに変わると、突然腹に蹴りをいれられ、俺は床に這いつくばった。
「くそガキが! 気安く話しけるな、絢香は俺の番だから一生誰にも見せずに家に囲うんだよ。オメガなら泣いて喜ぶ待遇だ。お前その歳でヒモなら、ロリコンの男色野郎を紹介してやろうか? お前も絢香見習って自分の体で男でも誘って生きていけ、うまくいけば俺みたいな金持ち捕まえられるだろ?」
絢香の好きになった人だから、まともな人だと思っていた。だがアルファなんて所詮こんな奴だった。
こいつで絢香は幸せになれるのか? でも男もバカじゃないなら絢香の前でこんな本性見せないはず。知らなければ絢香は幸せを感じて生きていけるかな? 俺は痛い腹を抱えて起き上がろうとした。その時、見知った香りがしてきた。
「りょう! 正親さん……どういうことなの? 良に、何しているの!?」
絢香は俺の腕をひき、抱きかかえた。
「絢香、お前……仕事は?」
そこにいるはずのない、絢香の姿にアルファは驚いて声を出した。
「今日は最後の挨拶をしてきただけ。あなたがすぐに仕事を辞めろというから終わらせてきたの。ねえ、なんで勝手に荷物が運ばれているの? それにこんな仕打ちするなんて、なんの権利があってこんなこと!」
絢香の怒っている声、初めて聞いた気がする。
絢香は何があっても声を荒げることも怒鳴り散らすこともしなかったから、初めて絢香の怒りを見た。俺は絢香の胸に抱きこまれながらそんなことを思い、愛しい香りに包まれて、安心して涙が出てきた。
「権利って、俺はお前の番だ。お前こそ失望したぞ。俺よりこいつを選ぶとか、どうかしている。お前は俺と結婚するんだからもうこの家も要らないだろう。ガキも追い出せ、今なら全て許してやるから、な?」
絢香は俺をさらに強く抱きしめた。
「……良、ごめんね。私がこんな奴と番になったせいで、あなたにこんな仕打ちを。ダメね、あんなに夜の世界で男を見てきたのに、結局見極められなかった。あぁ痛かったわね、可愛そうに」
絢香はアルファを睨みつけて続けた。
「正親さん、あなたと一緒になるなんて吐き気がするわ。気の迷いでした、私のことは忘れてください」
「はっ? 何言っている! オメガが俺を拒否するのか!? 番解除をしてもいいのか? お前死ぬぞ」
「あなたみたいなクソアルファと番ったのは汚点です。あんたと添い遂げるなら死んだ方がマシよ。早く出ていって!」
アルファは怒りすぐさま絢香の服を掴んで殴り、絢香は床に崩れ落ちた。そして次に俺の方に来て俺を見下す。
「やっぱりお前はだめだ、さっきまでなら逃してやるつもりだったが」
血が出ている絢香に向かって、アルファが怒鳴り出した。
「絢香、許されると思うなよ。お前は一生檻の中だ。俺の性奴隷として飼ってやる。だがこいつは始末させてもらう。お前への仕置きだ、こいつの死ぬところをそこでしっかり見とけ」
俺はここで人生が終わるんだと思った。
せめて絢香に幸せになってもらいたいのに、俺のせいで絢香のこれからが壊れてしまう。俺はなんて取り返しのつかないことをしたのだろう。
倒れていた絢香はその時、アルファに気づかれないようにそっと起き上がっていた。後ろからそのアルファを近くにあった花瓶で殴ると、すかさず、すぐに胸にしまっていたアルファ撃退スプレーをそいつにかけた。そいつは呻いてのたうちまわっている。
「良! 行くよっ、早く!」
俺の手をひっぱって連れ出した。
アルファが叫んでいる。あのスプレーは本当によく効くからしばらくは起き上がれないだろう。俺たちは夜の街を走り出した。
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