契約結婚の裏側で

riiko

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1 プロローグ

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「……んっ……」

 唇をこじ開けて入ってきた熱が、縦横に口内をうごめくのを目を見開いて受け止める。

 どうして? なんで、キスされてるんだ?

「せ、先輩? あの……」

「好きだっ」

「……っ」

 え? 聞き間違い? 今、好きって聞こえたような……。

「好きだ。好き。好きなんだ」

「……あ……せん、ぱい?」

 聞き間違い、じゃない。すごくたくさん、『好き』って言われてる。

「真南っ、お前が好きだ!」

 とても熱烈で、まるで愛の告白みたい。

「俺のほうが、好きなのに。どこの誰よりも、お前を……お前だけを! 俺がっ」

「ん……ふ、ぅ」

 激しい口づけの合間に落とされる、俺を震わせる熱い言葉。

 これ、信じていい? 信じてもいいんだろうか。

 俺、どうしたらいい? だって先輩、ついさっきまで俺にのろけてたんだよ。あの女性が有能で頼りになるんだって。

 まだ好き、とも言ってた。苦しそうに、切なげに、そう呟いてた。

 ほんの数日前には、きつく抱きしめてる姿だって見せられてる。先輩にはあの女性がいるのに、俺に『好き』なんて言うわけないよな?

 それに……それに俺! 男! なんだけど?

 先輩と同じ、男! なんだけどっ?

「せ、先輩?」

 脳内では、同時に色んな声が飛び交う。戸惑いと否定、混乱で、思考はぐちゃぐちゃだ。

「あの、ですね。俺……」

 なのに、俺の唇は意識に反して勝手に動く。動いてしまう。

「俺も、好き」

「……っ……真南」

 大きな背に手を回し、力の限り、ぎゅっと抱きしめ返す。

「先輩が、好きです」

 嘘でもいい。

 からかわれてたとしても、構わない。

 例え、ドッキリでも。

 一時の気の迷いでも、許容範囲内だ。

 ふた股……は、ちょっと嫌だけど。

 先輩が俺を好きだと言ってくれるなら、俺はそれに応えたい。

「大好き。ずっとずっと、あなただけを想い続けてきましたっ」


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