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最終章 閨係の見る夢は
99、王太子専属閨係の見る夢は
しおりを挟むいつか見た夢、それはディーの隣にいること。
それが叶ってしまった。
そんなまさかのことが起きた。ただの閨係が、閨の相手をしてもらえず、王太子妃になるなんて。
初めはただ、王都で閨係をしながら、学びを得てそれを持ち帰り、弟のためになることを領地で発揮できればいいなって、それだけだった。領地に帰って弟を支えることが俺の夢だったはずなのに、いつの間にか、この国の王子に愛されることを夢見てしまった。
ひとりで悩んで、沢山の人に支えられて、俺はこの地位になった。王太子妃は望んでいたわけではない、俺が望んでいたのは愛しい男の隣にいること。それがこの王太子妃の立場だっただけだ。だけどそうは言っていられない。
ディーの隣に立つからには、ディーが愛するこの国も一緒に支えていきたいって心から思えるようになっていった。結婚後も、リアナ様からの教育や、ゼバン公爵も時々俺の勉強を見てくれる。そんな人たちに教えてもらうディーの国は、田舎の領地から見ただけでは何も見えていないんだって分かって、意欲が湧いて、どんどんたくさんのことを吸収していく喜びを得てしまった。
ディーを支えていく、この国で、この男を。俺の唯一のアルファを。
俺の夢は叶った。
ディーと結婚して、王太子妃として国のために仕事をさせてもらっている。しいては俺の領民が少しでもより良い生活ができるように、道路整備や森の活用法、王都から遠く離れた地方整備も、今後は視野に入れた。
ただの地方領民でいるよりも、よっぽどできることが多くあって、とても嬉しかった。
貴族社会、上位貴族としか触れ合わない王族はそこまでの話が耳に入らないのは仕方ないし、王宮に当たり前の顔で居座る上位貴族が国を動かすのも分かる。でも金が有り余って贅沢が普通だと思っているお貴族様は、地方領民の生活が想像できるはずもないから、整えようがないし、平民たちが何に困っていて何が得意だとかそういうことを知る機会も少ない。
お互いにお互いを知らないから仕方ないことだけど、だからこそ平民みたいなところ出身の王太子妃ができることはしたい。
ただあまり表に出ると、貴族はいい顔をしないだろうし、そんな奴らを見たディーが嫁をバカにしたと怒って酷い制裁をしないとも限らない。俺も王太子妃という立場をかざしてディーを動かすのは嫌だから、俺は俺のできることを進めたい。
王家に嫁いで、そんな考えが自然に備わってきた。
子供を育てながら、仕事も頑張った。そういうもんだ。平民ならそれが当たり前だったから、子供を自分の手で育てて乳母もつけなかった。慣例をないがしろにし過ぎたとの声もあったけど、ディーが周りを説得……というかよっぽどのことを俺がしない限りは、他の全てを黙らせてくれた。
そのおかげで親子三人とても仲良く過ごしている。
そして俺は王太子妃として、ディーが表舞台に立つときはいつも側にいる。俺の内面を出すわけにはいかないから、微笑んで相槌を打つ程度にしていたら、いつのまにか微笑みの天使と言われていた。しゃべらないと得する世の中らしいよ。
そんな穏やかな表舞台とは別に、王太子妃として孤児院の設立や平民の支えになるように動いていた。木こりになるより、やりがいはある。でも夢だった木こりも捨てがたいので、お忍びで実家に帰っては、昔の仲間と森に入っていた。それが俺だからな。
弟が今後治める領地を、あのオジサンと共に一緒に支えた。狸オヤジは仕事から足を洗わせた。あいつは動かない方が領民のためだからな。名ばかりの領主として妻と仲良く家で家庭菜園をしている。オヤジも自分の商才のなさを知ったようで、こんな生活も悪くないと、のほほんと相変わらずのデカい腹でそう言っていた。
まあ、害がないならそれで良しとしよう。妻と息子たちを想う心優しい父親であることを、ディーと挨拶に行ったときに知れたから、もうオヤジについてはなんていうか、害がなければいいかなって。
そんな感じで俺は、オヤジに売られて王太子専用の男娼になったが、いつの間にか王太子妃になったというわけだった。
それでも俺の本質は変わらないから、こんな感じだけどな。理解のある旦那で助かる。これから先、もっとディーの側にいていろんなことを吸収する。
俺は、この国で、ディーと息子を守り、支え、もっともっと幸せになる! ディーを寝室で待っている間、懐かしいことを思い出していたら、ディーが俺の隣に入り込んできたことに気が付かなかった。
「シン?」
「あ、ああ、フランディルはもう寝た?」
「今日も元気に過ごしたみたいで、ぐっすりだった」
今日も可愛くて愛おしい我が子と最愛の夫は、一日の終わりを共に過ごしていた。
俺とディーの息子フランディルは、親の俺が言うのもなんだけど、とてもつもなく賢くて可愛い。生れた時からディーの遺伝子が強くて、とにかくそっくりな顔の父と息子。そんな二人を眺めるのは、妻であり母である俺の楽しみだった。しかし夜の寝る前の時間だけはそれが許されなかったから、俺はベッドの上でひとりディーを待っていたんだ。
「まさか、王太子殿下が寝かしつけまでするとはね!」
「最愛の妻が産んだ、最愛の息子が瞳を閉じる時は一緒にいたいんだ」
「いいお父さんだね、ディーは」
いいお父さん、それもあるけれど俺と息子が添い寝をするのを嫌がる嫉妬深い夫でもあるみたい。だから、夜だけはディーに息子のフランディルの世話を任せている。二人が仲良くて嬉しいけど、ちょっと寂しい。その寂しさでディーを求めちゃうから、結果ディーにとっては嬉しいみたいだけど? まぁ、日中のフランディルの全ての時間は俺と共に過ごしているから、文句は言えないけどね。
ディーが寝床に入ってきて、俺にキスをする。そして自然と肌を合わせる、そんな穏やかで当たり前の日常が俺の今、王太子妃としての日常だった。
「ディー、大好きだよ」
「シン、愛している。可愛い子供と美しい嫁がいて、私は王国一幸せ者だ」
「ふふ、それは良かったな! 俺は王国一幸せな嫁で母親だけどな!」
二人で笑い合って、瞳が閉じるその時まで、今夜も体を合わせて幸せな眠りについた。
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