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第六章 愛になった
90、愛を紡ぐ
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式の後は賑やかなパーティー、たくさんの美味しい料理と大好きな人たちに囲まれて二人の式は行われていた。ディーも式の途中に駆けつけてきて、久しぶりに親友が集ったとアストンも大喜びだった。なんと、ダイスも姫を連れて来ていたのだ。
「うおぉ、ディー戻って来たんだな。楽しんでるか?」
「ああ、おめでとう。アストン、フィオナ」
「ありがとよ!」
「殿下、ありがとうございます」
この国の重要人物、ここに揃いすぎじゃない?
もともとここは貴族たちの保養地として有名な場所だから、いつなんどきお忍びで高貴な方が来てもいいように王宮騎士団が常に駐在しているらしい。そしてアストンが王太子の友達だということは、この領地ではすでに有名だった。そのアストンの結婚式だけあって、この領地にいる騎士団が集まり、警護に当たっていた。だから安心だとディーは言ったけど、王太子に公爵に隣国の姫までいる結婚式って凄くない!?
「あら、あなたがディートリッヒ様のお相手だったのね! ずっとお会いしたいと思っていたのよ、まさか会っていたなんてね!」
「えっ、シン君はカロラインに会ったことあるの?」
姫とダイスがいつの間にか俺達のテーブルに来ていた。
「ええ、姫様、お久しぶりです。この度は番契約おめでとうございます」
「ありがとう。わたくし達の式は、あなたとディートリッヒ様の式の後に行うことになったんです。そのときはぜひ、ご参加くださいね」
「あ、ありがとうございます! それにダイスもおめでとう」
「シン君、ありがとう。君には今まで隠しごとをたくさん悪かったね、それでもディーを受け入れてくれてありがとう」
案外あっさりと二人はこの場所に馴染んでいた。アストンはさすがに一国の姫に会ったら、畏まっていた。ちょっと面白かったけど、みんなで楽しくお祭り騒ぎだった。
ゼバン公爵一家も久しぶりに家族で楽しんでいる様子だし、アストンの同郷の友人たちや屋敷の使用人たちも楽しそうに踊っている。
昼から始まった宴はいつの間にか、松明の照らす時間へと変わっていったが、音楽が鳴りやむことなくずっと、ずっと、この楽しい時間が続いていくかのような、そして二人の門出が、これからの人生がずっと明るく照らされていくかのように、屋敷一面が穏やかに照らされていた。
ディーとダイスとアストン、三人は特に楽しそうだった。遠くからアルファたちの楽しそうな笑顔を見ていて、なんだか不思議な気分だった。
「あの三人、とっても仲がいいよね」
「ああ、そうだな。見ているこっちが楽しくなるよ。フィオナ、今日は疲れただろう? とても綺麗だったよ」
「ふふ、ありがとうシン君。一生に一度の結婚式ってこんなに楽しいモノなんだね」
あれ、フィオナって二度目だって言ってなかったっけ? 俺はふと考えこむとフィオナが笑った。
「一度目はね、もう相手がとてもお年を召していたから、ただ嫁入りしただけだったんだ。特にめでたい結婚でもなかったしね」
「そ、そうか」
「僕は結婚するためにこの地に連れてこられてね。でも本当は見ず知らずの老人になんて嫁ぎたくなくて、少しひとりにしてほしいって言って、父から離れたんだ。あの森に入ってひとり泣いていたの……そしたらアストンに出会った」
「え」
少し離れたところに森が見えた。そんなところでフィオナはひとりで泣いていたんだ。当時のフィオナは確か今の俺と同じ年。俺はただディーに愛されてこういう結果になってなんの苦労もしていないけれど、フィオナは初めからそんな辛い経験をしてきたんだ。今日という日をアストンと共に待った。そんな大切な日に、昔の辛い話をさせてしまって、いいのかな。でも今のフィオナはとてもいい顔をしていた。
「アストンと出会ったとき、僕の心が飛び跳ねたの。うまく言えないけど、彼を見て、話して、自然と恋に落ちたの。出会ってすぐだったけど、お互いに初めての口づけを交わしたんだ」
「そんなことって、あるんだな」
「殿下だって僕たちと同じじゃない? 初めてシン君を森で見て、恋に落ちたって」
「そんなこともあったな」
フィオナはとても美しい顔で俺に言った。
「始まり方なんて、ほんの些細なこと。そこから紡ぐ僕たちの想いが愛になって、そして結ばれていくんだ」
「愛になって……」
「そうだよ、僕たちの恋は愛になったんだ。シン君。僕とアストンの物語は結婚式を迎えて最高の時になった。次はシン君だね、僕がこれからも君の支えになるって忘れないで。何も心配せずに、殿下との愛を紡いでいって」
フィオナはそうして美しい手で、胸に飾ってあった白い花を、俺の髪に挿した。
「綺麗だよ、シン君。幸せにね」
「うん、フィオナこそ綺麗だ。お前もアストンと幸せになれよ」
いつの間にか松明に火が灯され、辺りは幻想的な夜の闇と火の光の世界になっていた。周りを見るとみな楽しそうに笑っている。フィオナとアストンの新しい始まりを祝すかのように、穏やかな風と花が舞い散っていた。
俺の生涯の親友が今日、嫁に行った。
「うおぉ、ディー戻って来たんだな。楽しんでるか?」
「ああ、おめでとう。アストン、フィオナ」
「ありがとよ!」
「殿下、ありがとうございます」
この国の重要人物、ここに揃いすぎじゃない?
もともとここは貴族たちの保養地として有名な場所だから、いつなんどきお忍びで高貴な方が来てもいいように王宮騎士団が常に駐在しているらしい。そしてアストンが王太子の友達だということは、この領地ではすでに有名だった。そのアストンの結婚式だけあって、この領地にいる騎士団が集まり、警護に当たっていた。だから安心だとディーは言ったけど、王太子に公爵に隣国の姫までいる結婚式って凄くない!?
「あら、あなたがディートリッヒ様のお相手だったのね! ずっとお会いしたいと思っていたのよ、まさか会っていたなんてね!」
「えっ、シン君はカロラインに会ったことあるの?」
姫とダイスがいつの間にか俺達のテーブルに来ていた。
「ええ、姫様、お久しぶりです。この度は番契約おめでとうございます」
「ありがとう。わたくし達の式は、あなたとディートリッヒ様の式の後に行うことになったんです。そのときはぜひ、ご参加くださいね」
「あ、ありがとうございます! それにダイスもおめでとう」
「シン君、ありがとう。君には今まで隠しごとをたくさん悪かったね、それでもディーを受け入れてくれてありがとう」
案外あっさりと二人はこの場所に馴染んでいた。アストンはさすがに一国の姫に会ったら、畏まっていた。ちょっと面白かったけど、みんなで楽しくお祭り騒ぎだった。
ゼバン公爵一家も久しぶりに家族で楽しんでいる様子だし、アストンの同郷の友人たちや屋敷の使用人たちも楽しそうに踊っている。
昼から始まった宴はいつの間にか、松明の照らす時間へと変わっていったが、音楽が鳴りやむことなくずっと、ずっと、この楽しい時間が続いていくかのような、そして二人の門出が、これからの人生がずっと明るく照らされていくかのように、屋敷一面が穏やかに照らされていた。
ディーとダイスとアストン、三人は特に楽しそうだった。遠くからアルファたちの楽しそうな笑顔を見ていて、なんだか不思議な気分だった。
「あの三人、とっても仲がいいよね」
「ああ、そうだな。見ているこっちが楽しくなるよ。フィオナ、今日は疲れただろう? とても綺麗だったよ」
「ふふ、ありがとうシン君。一生に一度の結婚式ってこんなに楽しいモノなんだね」
あれ、フィオナって二度目だって言ってなかったっけ? 俺はふと考えこむとフィオナが笑った。
「一度目はね、もう相手がとてもお年を召していたから、ただ嫁入りしただけだったんだ。特にめでたい結婚でもなかったしね」
「そ、そうか」
「僕は結婚するためにこの地に連れてこられてね。でも本当は見ず知らずの老人になんて嫁ぎたくなくて、少しひとりにしてほしいって言って、父から離れたんだ。あの森に入ってひとり泣いていたの……そしたらアストンに出会った」
「え」
少し離れたところに森が見えた。そんなところでフィオナはひとりで泣いていたんだ。当時のフィオナは確か今の俺と同じ年。俺はただディーに愛されてこういう結果になってなんの苦労もしていないけれど、フィオナは初めからそんな辛い経験をしてきたんだ。今日という日をアストンと共に待った。そんな大切な日に、昔の辛い話をさせてしまって、いいのかな。でも今のフィオナはとてもいい顔をしていた。
「アストンと出会ったとき、僕の心が飛び跳ねたの。うまく言えないけど、彼を見て、話して、自然と恋に落ちたの。出会ってすぐだったけど、お互いに初めての口づけを交わしたんだ」
「そんなことって、あるんだな」
「殿下だって僕たちと同じじゃない? 初めてシン君を森で見て、恋に落ちたって」
「そんなこともあったな」
フィオナはとても美しい顔で俺に言った。
「始まり方なんて、ほんの些細なこと。そこから紡ぐ僕たちの想いが愛になって、そして結ばれていくんだ」
「愛になって……」
「そうだよ、僕たちの恋は愛になったんだ。シン君。僕とアストンの物語は結婚式を迎えて最高の時になった。次はシン君だね、僕がこれからも君の支えになるって忘れないで。何も心配せずに、殿下との愛を紡いでいって」
フィオナはそうして美しい手で、胸に飾ってあった白い花を、俺の髪に挿した。
「綺麗だよ、シン君。幸せにね」
「うん、フィオナこそ綺麗だ。お前もアストンと幸せになれよ」
いつの間にか松明に火が灯され、辺りは幻想的な夜の闇と火の光の世界になっていた。周りを見るとみな楽しそうに笑っている。フィオナとアストンの新しい始まりを祝すかのように、穏やかな風と花が舞い散っていた。
俺の生涯の親友が今日、嫁に行った。
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