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第六章 愛になった
84、ムスタフ伯爵夫妻
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応接間に行くと、そこには俺の見知った人がいた。
「王太子殿下、お呼びとのことで参りました」
「ああ、ムスタフ伯爵に夫人、遠いところありがとう」
ムスタフ伯爵夫人は知っている。だって、後宮の専属医師だったから。彼の隣にいるイケオジがその旦那さんか。
「シン殿、お初にお目にかかります。妻のアルフレッドがいつもお世話になっております。私は殿下の幼い頃より王家専属医師として王宮に仕えている、ムスタフ伯爵家のアダムと申します。今後妃殿下のお生まれになるお子様も私が担当させていただきますので、以後お見知りおきを」
「ひ、妃殿下!? お子様?」
「そうですよ、あなたが次期王太子妃なのですから。あなたはこれから妃殿下と呼ばれるお立場になります。ですが、まだあなたの存在は公爵家に入るまでは隠されることになるので、今はシン殿と呼ばせていただきます」
「そ、そうですか。むしろ伯爵様なら呼び捨てでもいいくらいです。奥様にはいつもお世話になっております。ムスタフ伯爵も、よろしくお願いします」
うっひょー、他人から妃殿下なんて言われると、大層な身分になった気がしてしまう。っていうか妃殿下って大層な身分だよな? 本当に俺でいいのかよ。
俺はじとっとディーを見たら、ニコッと笑った。クソっ、笑顔が眩しいぜ、俺の旦那……、旦那って心の中で言ってしまったぁ、ああ、照れる! そんな俺の心情は知らないだろう伯爵夫人が俺に声をかけた。
「シン君、今まで辛かったね。殿下が君を他の貴族から守ろうとしたことで、君に誤解が沢山生じてしまって、僕も君に真実を言えずにいて、ごめんね」
「いえ、先生は沢山寄り添ってくれました。むしろ今まで俺の悩みも優しく聞いてくれて感謝しているくらいです」
「シン君、君はいい笑顔になったね。殿下の愛の告白で自信がついたかな?」
「……まぁ、それなりに」
ムスタフ伯爵夫人が、優しく俺にかけてくれたその言葉に照れてしまった。そして四人でお茶を楽しみ、これからの話になった。いきなり現実ってやつが現れたぞぉ。というか恥ずかしい話が始まって、どうしてこうなったと思ったが、それこそが医者としての話だった。
「まずは、陛下からしばらくはこちらでゆっくり過ごされるといいとのお言葉をもらってきました。殿下はシン殿と今まで以上に、濃厚な時をお過ごしください。ただし、シン殿と最後まではしてはいけませんよ。結婚前夜には妻がシン殿の処女確認を行いますから」
「分かっている」
そうだよ、ディーが散々俺を耐えてきたこと、それは俺を結婚前に抱かないこと。それをきつく医者としての立場から言わなければいけないんだろうが。ちょっと恥ずかしい。
陛下って、ディーのお父さんだよな。俺たちのことに賛成しているって、ディーは言っていた。王族はこの人だと決めた相手は一生添い遂げる。むしろそういう相手がいる時の治世は、いい影響しかでないからとてもいいんだって。逆に愛がない相手だった場合は治世も悪くなるし、側室を取って王宮内の空気が悪くなることもあるらしい。
だからディーは、王女を娶ると決めたときは、二度と他の人を抱かないし、愛する人は作らないって決めていたんだって。王女もディーを愛していない、ディーも王女を愛していない。だけどお互いの立場は愛よりも国を守ることに向けられていたから、お互いに嫌いではなかったらしい。そんなときに、王女がダイスに恋をしてしまって、王女とディーの愛のない結婚生活の未来はなくなることになった。
ディーも俺だと決めた瞬間から、陛下は俺以外じゃ息子は嫁にしないだろうということを分かっていたらしい。王族の血って、凄いんだな。親子でもそこだけは全く同じだと言っていた。
「殿下、本当に大丈夫ですか? やっとシン殿と同じ場所で生活を共にできるんですよ。ご自分を抑えられますか? 万が一それが嘘だと分かったら、診察した医師も処刑になることはご存じですよね? 妻に誤診はさせられませんよ」
「ああ、昔の王家のしたことの伝承は読んだ。大丈夫だ、ムスタフ伯爵を独り者にすることは決してないから。私には友と言える人間が二人いたが、シンと出会ってからは三人目の友ができた。三人目の友は優秀でな、ちゃんと毎晩がんばってくれているから、心配するな」
んん、途中から何の話? と思ったら、ディーは伯爵に右手で何かをしごく動作をして見せてきた。おい、お前、本当に王子か? 王子自ら自己発電で頑張っていたとは。世間が知ったら泣くだろう。王子の威厳が……。これは、俺の手も友達にしてやらなければならんなと固く誓った。
「こほんっ、それは喜ばしいことです。妻の妊娠中は、私も自分の親友にお世話になりましたからね。妻の次に優秀なこの右手が、私を慰めてくれました。殿下も今からそれを覚えられるなら問題ないですね、安心しました。ちなみに私は妻の裸を目の前で眺めながら親友と仲良くしましたよ。これは結構燃えるので、殿下もぜひシン殿にお願いして、痛いっ!」
あっ、ムスタフ夫人に殴られた。この伯爵様は、ディーのというか、王家の専属医師なんだよね。将来、俺の子供もこの人にお世話になるのが、なんだか不安だな。変態に仕上がったらどうしよう。
「あなたは殿下の前で何を言ってるんですか! もう、恥ずかしいな。シン君、そんなことしなくてもいいからね。殿下に無理なお願いされても断って大丈夫だよ。いくら恋人同士でも体を交えない内から変態な行為は、医師としておススメできないからね」
「は、はい」
先生はいつも通りの優しい顔で俺にはそう言ったが、怖い顔で旦那のことは睨んでいたよ。いい夫妻だな、うん。
「とまあ、医者としての話は以上です」
「ああ、わざわざありがとう。それと、二人はしばらくこちらに滞在してもらえるか? 今一番大切なのは、私の嫁になるシンだから。シンに何かあった時に対処できるように、シンを王都へ連れて戻るまでは夫人にはこちらに滞在して、シンの健康状態を見てもらいたい。ムスタフ伯爵もこの期間は、夫人と一緒にこの城に滞在してのんびり過ごしてくれ」
「はい、陛下にもそのように言われてきているので、問題ございません」
そうなんだ、先生はここにいるのか。
「シン君、君が結婚するまで、というか結婚してからも僕が君の専属医師になるからね。これからもよろしくね」
「はい! よろしくお願いします」
夫妻にこれからも世話になるという話だった。
「王太子殿下、お呼びとのことで参りました」
「ああ、ムスタフ伯爵に夫人、遠いところありがとう」
ムスタフ伯爵夫人は知っている。だって、後宮の専属医師だったから。彼の隣にいるイケオジがその旦那さんか。
「シン殿、お初にお目にかかります。妻のアルフレッドがいつもお世話になっております。私は殿下の幼い頃より王家専属医師として王宮に仕えている、ムスタフ伯爵家のアダムと申します。今後妃殿下のお生まれになるお子様も私が担当させていただきますので、以後お見知りおきを」
「ひ、妃殿下!? お子様?」
「そうですよ、あなたが次期王太子妃なのですから。あなたはこれから妃殿下と呼ばれるお立場になります。ですが、まだあなたの存在は公爵家に入るまでは隠されることになるので、今はシン殿と呼ばせていただきます」
「そ、そうですか。むしろ伯爵様なら呼び捨てでもいいくらいです。奥様にはいつもお世話になっております。ムスタフ伯爵も、よろしくお願いします」
うっひょー、他人から妃殿下なんて言われると、大層な身分になった気がしてしまう。っていうか妃殿下って大層な身分だよな? 本当に俺でいいのかよ。
俺はじとっとディーを見たら、ニコッと笑った。クソっ、笑顔が眩しいぜ、俺の旦那……、旦那って心の中で言ってしまったぁ、ああ、照れる! そんな俺の心情は知らないだろう伯爵夫人が俺に声をかけた。
「シン君、今まで辛かったね。殿下が君を他の貴族から守ろうとしたことで、君に誤解が沢山生じてしまって、僕も君に真実を言えずにいて、ごめんね」
「いえ、先生は沢山寄り添ってくれました。むしろ今まで俺の悩みも優しく聞いてくれて感謝しているくらいです」
「シン君、君はいい笑顔になったね。殿下の愛の告白で自信がついたかな?」
「……まぁ、それなりに」
ムスタフ伯爵夫人が、優しく俺にかけてくれたその言葉に照れてしまった。そして四人でお茶を楽しみ、これからの話になった。いきなり現実ってやつが現れたぞぉ。というか恥ずかしい話が始まって、どうしてこうなったと思ったが、それこそが医者としての話だった。
「まずは、陛下からしばらくはこちらでゆっくり過ごされるといいとのお言葉をもらってきました。殿下はシン殿と今まで以上に、濃厚な時をお過ごしください。ただし、シン殿と最後まではしてはいけませんよ。結婚前夜には妻がシン殿の処女確認を行いますから」
「分かっている」
そうだよ、ディーが散々俺を耐えてきたこと、それは俺を結婚前に抱かないこと。それをきつく医者としての立場から言わなければいけないんだろうが。ちょっと恥ずかしい。
陛下って、ディーのお父さんだよな。俺たちのことに賛成しているって、ディーは言っていた。王族はこの人だと決めた相手は一生添い遂げる。むしろそういう相手がいる時の治世は、いい影響しかでないからとてもいいんだって。逆に愛がない相手だった場合は治世も悪くなるし、側室を取って王宮内の空気が悪くなることもあるらしい。
だからディーは、王女を娶ると決めたときは、二度と他の人を抱かないし、愛する人は作らないって決めていたんだって。王女もディーを愛していない、ディーも王女を愛していない。だけどお互いの立場は愛よりも国を守ることに向けられていたから、お互いに嫌いではなかったらしい。そんなときに、王女がダイスに恋をしてしまって、王女とディーの愛のない結婚生活の未来はなくなることになった。
ディーも俺だと決めた瞬間から、陛下は俺以外じゃ息子は嫁にしないだろうということを分かっていたらしい。王族の血って、凄いんだな。親子でもそこだけは全く同じだと言っていた。
「殿下、本当に大丈夫ですか? やっとシン殿と同じ場所で生活を共にできるんですよ。ご自分を抑えられますか? 万が一それが嘘だと分かったら、診察した医師も処刑になることはご存じですよね? 妻に誤診はさせられませんよ」
「ああ、昔の王家のしたことの伝承は読んだ。大丈夫だ、ムスタフ伯爵を独り者にすることは決してないから。私には友と言える人間が二人いたが、シンと出会ってからは三人目の友ができた。三人目の友は優秀でな、ちゃんと毎晩がんばってくれているから、心配するな」
んん、途中から何の話? と思ったら、ディーは伯爵に右手で何かをしごく動作をして見せてきた。おい、お前、本当に王子か? 王子自ら自己発電で頑張っていたとは。世間が知ったら泣くだろう。王子の威厳が……。これは、俺の手も友達にしてやらなければならんなと固く誓った。
「こほんっ、それは喜ばしいことです。妻の妊娠中は、私も自分の親友にお世話になりましたからね。妻の次に優秀なこの右手が、私を慰めてくれました。殿下も今からそれを覚えられるなら問題ないですね、安心しました。ちなみに私は妻の裸を目の前で眺めながら親友と仲良くしましたよ。これは結構燃えるので、殿下もぜひシン殿にお願いして、痛いっ!」
あっ、ムスタフ夫人に殴られた。この伯爵様は、ディーのというか、王家の専属医師なんだよね。将来、俺の子供もこの人にお世話になるのが、なんだか不安だな。変態に仕上がったらどうしよう。
「あなたは殿下の前で何を言ってるんですか! もう、恥ずかしいな。シン君、そんなことしなくてもいいからね。殿下に無理なお願いされても断って大丈夫だよ。いくら恋人同士でも体を交えない内から変態な行為は、医師としておススメできないからね」
「は、はい」
先生はいつも通りの優しい顔で俺にはそう言ったが、怖い顔で旦那のことは睨んでいたよ。いい夫妻だな、うん。
「とまあ、医者としての話は以上です」
「ああ、わざわざありがとう。それと、二人はしばらくこちらに滞在してもらえるか? 今一番大切なのは、私の嫁になるシンだから。シンに何かあった時に対処できるように、シンを王都へ連れて戻るまでは夫人にはこちらに滞在して、シンの健康状態を見てもらいたい。ムスタフ伯爵もこの期間は、夫人と一緒にこの城に滞在してのんびり過ごしてくれ」
「はい、陛下にもそのように言われてきているので、問題ございません」
そうなんだ、先生はここにいるのか。
「シン君、君が結婚するまで、というか結婚してからも僕が君の専属医師になるからね。これからもよろしくね」
「はい! よろしくお願いします」
夫妻にこれからも世話になるという話だった。
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