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第六章 愛になった
80、愛し合うふたり
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ディーが俺を愛していると言った。
今まで何度も言われたが、今日ほどその言葉を重く受け止められた日はない。ディーは仮の恋人ではなくて、初めから俺の本当の恋人だったんだ。
って本当の恋人ってなんだよ! あ、もう。俺ってずっと本当のことしか言われていなかったってことだよな。俺のひねくれた考えが、ディーの言葉を受け取ってこなかった。それがディーから逃げて、ディーを悲しませてしまったなんて。
ディーは初めから俺だけを見ていてくれた。
しかもあんな前から俺を知っていて、あの森で会ったときにはすでに俺に惚れていたって? あのときの貴族は覚えている。目も髪も色を変えていたから分からなかった。ディーに初めて会ったのは、あの閨係が決まった時だと思っていた。まさか、そんな前から俺を知って、俺を待っていた? うわー、信じられない! 嘘だろぉ。俺が王太子妃だって? ま、まじかよ!
うわぁぁぁ! どうしよう、俺えらそうになるって言っちゃったよ。いいのかな、貧乏男爵家出身とか。しかもエリザベスの家に俺を迎えてもらうって、もう驚きしかないんだけどぉぉぉ?
「シン? 風呂は済んだか」
「あ、ああ。済んだ」
「そんな顔してどうしたの?」
「どうしたのって……」
ディーはとりあえず俺をここに囲って、俺に真実をすべて話して愛を確かめあった。もちろん、言葉とキスでだけだけど。抱かないって理由を初めて聞かされて俺は納得したから、ディーが本気で俺を好きだと分かって両思いになった。だから、俺はもうディーに迫らない。抱いてくれなんて言えない、言わなくても安心しかなかった。だって、俺達は本当の意味で結ばれたんだからな。
そして俺にサッチーの匂いがついているのが嫌だって言い出して、俺を風呂へ入れた。俺を洗ってやりたいのは山々だが、他の男の匂いのする俺を裸にしたら、怒りでどうにかなりそうと言って、渋々侍女に引き渡されて綺麗にされてしまったよ。
ちなみに着ていた服は捨てられた。服に罪は無いのに……。そうしないと、俺が男と抱き合っていた姿を思い出して、また怒り狂ってしまうかもしれないと言われたので、そこはディーの精神安定と今後のサッチーの安全のために、素直に従った。
サッチーとのことは誤解だと分かってもらえた。それというのも、あの後宮官僚のオジサンが、望まぬ相手と結婚を選んだと言ってくれたからだった。というかオッサン、俺がサッチーを望んでいないって知っていたの? やはりあのオジサンはただモノじゃないね。凄い人だ! そのお陰で俺もサッチーも首の皮が繋がったようなもんだ、今度お礼に行こう!
「ディーも風呂に入ったの?」
「ああ、今日はもう疲れただろう。一緒に寝よう」
「えっと、しないよね?」
「シン、私を誘惑するのはやめてくれ。私がシンを抱きたくても抱けない理由は分かっただろう」
そうなんだよね、ディーは俺を抱きたいと言ってくれた。その言葉だけで俺は幸せだった。
あんなに何度も抱いてと自分から迫っていた閨係のときは、ディーに抱かれたという跡も残してもらえないことが悲しかった。だけど今は違う、抱かないことこそが俺に本気だと言ってくれている。嬉しくてたまらない!
「うん、分かったよ! 俺をお嫁さんにするからそれまでは処女じゃなくちゃいけないんだよね。でも、俺たち相当きわどいことしてきたよな」
「ああ、本当だな。挿入しないでよく耐えられたと自分を褒めたいよ」
「よしよし、ディーはよく頑張りました」
俺はディーの頭を撫でた。するとその手を掴まれた。
「シン、本当に分かっている? 私たちは結婚の儀を済ませなければ、閨を共にできない。だから、私を誘惑しないでくれ」
「誘惑って、俺はディーの頭を触っただけだろう」
「夜着で、湯上りの色気のある状態で、そんな無防備で。私を聖人だとでも思っているのか?」
「はは、思ってないよ。ディーは今まで、散々オメガを抱いてきたんだろう」
ディーが俺を寝台に押し倒した。あれれ、どうしたんだよ。
「本来なら、私の嫁になる相手は、私の過去の行いを知らせない。シンは閨係として王宮に呼ばれたから全てを知ってしまっている。こんな私は嫌か? 好きでもないオメガを何人も抱き続けてきた私を、軽蔑するか?」
「……」
ディーは真剣な目で俺を見ている。
そうか。俺の服につく男の匂いに敏感になるくらい、他の男との交わりを許さないディーなら、そう思うのかもしれないな。でも全て俺と出会う前のことだし、それこそがディーの、王太子のするべき義務だって散々後宮官僚からは聞かされてきたから、今さらディーのことをそんなふうには思わない。
俺はディーの頬を触った。
「軽蔑なんて、しない。俺を舐めるなよ、そんなことくらいでディーへの愛情は何ひとつなくならない」
「……シン」
ディーは俺の手を唇にもっていって、キスをした。こういうのが慣れている男っぽいし、しぐさが王子様だよな。
「それに、俺は閨係だったんだぞ。王子の事情や教育については聞かされてきたんだから、理解はできる。だから、そんなふうに思わないで。それに、俺と出会ってからは誰も抱いていないんだろう? それこそ凄いことだよ、アルファの十代の性欲をディーは押さえたんだからさ、俺への愛を感じる」
「そうか」
「ねっ、だからさ。久しぶりにしようよ」
「シン?」
「今まで散々、挿入以外の凄いこと、してきたじゃないか。俺、それだけでもすげぇ嬉しいよ。ディーの感じる顔を見ているだけで、俺は嬉しい」
「もう! シンは……。今夜は疲れていると思って、気を使ったのに」
「気を遣うなんてやめろよ。もう、いいからさ、凄いの、しよ?」
ディーの目が雄の目に変わった。
今まで何度も言われたが、今日ほどその言葉を重く受け止められた日はない。ディーは仮の恋人ではなくて、初めから俺の本当の恋人だったんだ。
って本当の恋人ってなんだよ! あ、もう。俺ってずっと本当のことしか言われていなかったってことだよな。俺のひねくれた考えが、ディーの言葉を受け取ってこなかった。それがディーから逃げて、ディーを悲しませてしまったなんて。
ディーは初めから俺だけを見ていてくれた。
しかもあんな前から俺を知っていて、あの森で会ったときにはすでに俺に惚れていたって? あのときの貴族は覚えている。目も髪も色を変えていたから分からなかった。ディーに初めて会ったのは、あの閨係が決まった時だと思っていた。まさか、そんな前から俺を知って、俺を待っていた? うわー、信じられない! 嘘だろぉ。俺が王太子妃だって? ま、まじかよ!
うわぁぁぁ! どうしよう、俺えらそうになるって言っちゃったよ。いいのかな、貧乏男爵家出身とか。しかもエリザベスの家に俺を迎えてもらうって、もう驚きしかないんだけどぉぉぉ?
「シン? 風呂は済んだか」
「あ、ああ。済んだ」
「そんな顔してどうしたの?」
「どうしたのって……」
ディーはとりあえず俺をここに囲って、俺に真実をすべて話して愛を確かめあった。もちろん、言葉とキスでだけだけど。抱かないって理由を初めて聞かされて俺は納得したから、ディーが本気で俺を好きだと分かって両思いになった。だから、俺はもうディーに迫らない。抱いてくれなんて言えない、言わなくても安心しかなかった。だって、俺達は本当の意味で結ばれたんだからな。
そして俺にサッチーの匂いがついているのが嫌だって言い出して、俺を風呂へ入れた。俺を洗ってやりたいのは山々だが、他の男の匂いのする俺を裸にしたら、怒りでどうにかなりそうと言って、渋々侍女に引き渡されて綺麗にされてしまったよ。
ちなみに着ていた服は捨てられた。服に罪は無いのに……。そうしないと、俺が男と抱き合っていた姿を思い出して、また怒り狂ってしまうかもしれないと言われたので、そこはディーの精神安定と今後のサッチーの安全のために、素直に従った。
サッチーとのことは誤解だと分かってもらえた。それというのも、あの後宮官僚のオジサンが、望まぬ相手と結婚を選んだと言ってくれたからだった。というかオッサン、俺がサッチーを望んでいないって知っていたの? やはりあのオジサンはただモノじゃないね。凄い人だ! そのお陰で俺もサッチーも首の皮が繋がったようなもんだ、今度お礼に行こう!
「ディーも風呂に入ったの?」
「ああ、今日はもう疲れただろう。一緒に寝よう」
「えっと、しないよね?」
「シン、私を誘惑するのはやめてくれ。私がシンを抱きたくても抱けない理由は分かっただろう」
そうなんだよね、ディーは俺を抱きたいと言ってくれた。その言葉だけで俺は幸せだった。
あんなに何度も抱いてと自分から迫っていた閨係のときは、ディーに抱かれたという跡も残してもらえないことが悲しかった。だけど今は違う、抱かないことこそが俺に本気だと言ってくれている。嬉しくてたまらない!
「うん、分かったよ! 俺をお嫁さんにするからそれまでは処女じゃなくちゃいけないんだよね。でも、俺たち相当きわどいことしてきたよな」
「ああ、本当だな。挿入しないでよく耐えられたと自分を褒めたいよ」
「よしよし、ディーはよく頑張りました」
俺はディーの頭を撫でた。するとその手を掴まれた。
「シン、本当に分かっている? 私たちは結婚の儀を済ませなければ、閨を共にできない。だから、私を誘惑しないでくれ」
「誘惑って、俺はディーの頭を触っただけだろう」
「夜着で、湯上りの色気のある状態で、そんな無防備で。私を聖人だとでも思っているのか?」
「はは、思ってないよ。ディーは今まで、散々オメガを抱いてきたんだろう」
ディーが俺を寝台に押し倒した。あれれ、どうしたんだよ。
「本来なら、私の嫁になる相手は、私の過去の行いを知らせない。シンは閨係として王宮に呼ばれたから全てを知ってしまっている。こんな私は嫌か? 好きでもないオメガを何人も抱き続けてきた私を、軽蔑するか?」
「……」
ディーは真剣な目で俺を見ている。
そうか。俺の服につく男の匂いに敏感になるくらい、他の男との交わりを許さないディーなら、そう思うのかもしれないな。でも全て俺と出会う前のことだし、それこそがディーの、王太子のするべき義務だって散々後宮官僚からは聞かされてきたから、今さらディーのことをそんなふうには思わない。
俺はディーの頬を触った。
「軽蔑なんて、しない。俺を舐めるなよ、そんなことくらいでディーへの愛情は何ひとつなくならない」
「……シン」
ディーは俺の手を唇にもっていって、キスをした。こういうのが慣れている男っぽいし、しぐさが王子様だよな。
「それに、俺は閨係だったんだぞ。王子の事情や教育については聞かされてきたんだから、理解はできる。だから、そんなふうに思わないで。それに、俺と出会ってからは誰も抱いていないんだろう? それこそ凄いことだよ、アルファの十代の性欲をディーは押さえたんだからさ、俺への愛を感じる」
「そうか」
「ねっ、だからさ。久しぶりにしようよ」
「シン?」
「今まで散々、挿入以外の凄いこと、してきたじゃないか。俺、それだけでもすげぇ嬉しいよ。ディーの感じる顔を見ているだけで、俺は嬉しい」
「もう! シンは……。今夜は疲れていると思って、気を使ったのに」
「気を遣うなんてやめろよ。もう、いいからさ、凄いの、しよ?」
ディーの目が雄の目に変わった。
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