王太子専属閨係の見る夢は

riiko

文字の大きさ
上 下
68 / 102
第四章 婚約者

68、閑話 〜サチウスの安堵〜

しおりを挟む
「サッチー、勝手になんてことしてくれるんだ!」
「えっ、だってさぁ、あんなに必死で、受け入れてくれなければ今にもひとりで暴走します! みたいな雰囲気の子、ほっとけないだろ」

 レイノルドから、お説教を受けていた。あの後、殿下の護衛騎士と契約を結び、あの二人が本当に結ばれるまでは王都に滞在するよう命じられた。目の届くところで監視したいとか? 家族に秘密を話されないように実家へ帰るのを止められてしまい、特別に王家の計らいでレイノルドの宿舎へと身を寄せさせてもらった。

「だからって、マジで怖かったんだぞ! 王太子がいきなり部屋に入ってきただけでもビビったのに。シンをどこに隠したって、剣を見せながら言うんだ! 俺は斬られる覚悟をした」
「それは……すげぇな。王太子殿下の愛」

 あぁ、シンは愛人がどうのって言っていたが、あれは愛人じゃなくて本妻だろう。マジなやつだった。しかも「王族のつがい」「我が嫁」という単語を普通に話していたのに、それでもシンはまだ愛人だと思っていた。この先の王太子の苦労が見えた瞬間だったなぁ。あの二人は今頃ちゃんと話し合えているのだろうか? ということはだ、シンはこれから王太子妃になるんだよな……? こりゃ驚きだ!

 だって、あんな極上のオメガと付き合っていて、あの執着王子がいまだ抱いていないなんて、そういうことだろう? 王家の嫁入りは、処女が絶対条件だって聞いたことがあるぞ。

「バカか! サッチーの愚行のせいで俺は死にかけた。これからベスと幸せ生活を送る前に、俺を殺すな」
「はいはい、ほんとにごめんなさい」
「ところで、シンはどうなった?」
「ああ、それね、それは王族と守秘義務契約を交わしちゃって。俺からは何も言えないんだよ」
「そうか……」

 レイノルドの顔が一気に曇った。

「あいつには日陰の存在になってほしくなかったが、仕方ないか。あんなに王太子から執着されているなら、俺がシンに会えることはもうないんだろうな。今頃王太子に囲われてしまったか、くそっ! こんなことなら、俺が逃してやれば良かった」
「いや? レイノルド?」
「くそッ! あいつはただ純粋に人を愛しただけなのに、それが二番手として囲われるなんて、クソっ!」

 こいつの口からクソが連発される日がくるとは……レイノルドが悔し泣き? 男泣きをしてしまった。レイノルドはシンが愛人にされたと思ったらしい。実際にシンも自分は愛人にされるから逃げると言っていたし、二人仲良く勘違いしていたんだな。

 殿下よ! もう少し上手く立ち回ってください。婚約者のいる身分で、他のオメガに並々ならぬ執着を見せたら、こうなるだろうよ。意外にも恋愛面はお子ちゃま殿下だったらしい。

 あのとき、王太子専属騎士から長い長い契約書を見せられて、げんなりした。

 要約すると、二人の関係を誰にも言うなということ。とてつもなく長いことから、絶対に本気の相手にしか思えなかった。うぉぉぉぉ! やったな、シン。そう思ったね、あのときの俺は。それに、護衛騎士がぽろっとこぼした言葉を俺は聞き逃さなかった。というか、守秘義務契約を交わした俺には、もう誰に言えないと分かって、言ったのだろう。俺は、思った。影までつけて、本人には何も言わずに物事を進めていたとは……。

 なんとも、王族の闇だわ。

 シンに伸び伸びと過ごしてもらいたいという、王太子の気持ちもわからなくはないけれど、でも、シンはいい奴だ。いつまでも婚約者のいる相手なんて、好きでいることに苦しみしかないだろう。その点をあの王太子は見落としていた。

 シンの影についていた騎士が嘆いていたよ。もう愚痴ってイイっすかって。俺は愚痴を聞いてやった。シンを影から見ていて、時々辛かったって。シンの苦しむ姿を見るしか無い自分が苦しかった、殿下斬ってやろうかともよぎったらしい、いや、それ不敬よ? あんたの雇い主、殿下ですからね!

 影なのに、なぜシンが王都を出たことを知らなかったんだと殿下からめちゃくちゃ怒られたって、この人嘆いていたよ。ごめんね、俺がシンを秘密ルートで連れ出したからね。俺の実家が使っている密偵関係のルートからシンを逃したんだよな。シンは大物から逃げる、みたいな感じだから追えないようにね。

 まぁ、翌日には大通りに出てしまって、まんまと捕まったけどな。王太子の騎士たち、さすがだぜ! とその男に褒めたらちょっと上がった。あ、なんか、この男、可愛くないか? 俺のところに永久就職する? 俺は別にオメガじゃなくてもイケる口よ。そっと連絡先を交換しておいた。この男も、もう影を卒業したい、ブラック企業辛いと言っていたから、良い機会だし、俺の嫁をチラつかせて永久就職先斡旋してあげるね!

 あっ、目の前で落ち込む幼馴染を放置して、俺の明るい未来を想像してトリップしてしまった。

「レイノルド、とりあえずシンは王太子に迎えにきてもらって、とても幸せそうだった。シンは好きな人と一緒に生きることを選んだんだ。親友ならその決断を認めてやろうよ」
「あ、ああ。そうだな、諦めようともがいている最近のシンを見るのは辛かった。殿下を好きだったときのシンはとても輝いていた。今はそんなシンに戻ったんだよな、たとえ誰にも言えない関係でも、シンにとってはこれで良かったのかもしれない」
「まぁ、レイノルドが心配するような未来は来ないよ。どーんとシンが王都に戻ってくるのを待とうぜ。シンは大丈夫だ、俺が保証する」

 レイノルドは明るく笑った。

「はは、サッチーが保証してくれるなら、なんか大丈夫な気がするわ。ってかいつまでこっちにいるんだよ」
「ああ、王太子の大きな仕事が終わるまで、俺は見張られてるから。そうだなぁ、シンの幸せを見届けたら、俺も解放される、かな?」
「そうか、それは楽しみだな」
「ああ、お前も驚くことがこれから起こるぞ、マジで楽しみにしておけよ!」

 レイノルドは驚いた顔のあと、安心した表情になった。これ以上は何も聞いてこなかったところを見ると、察してくれたらしい。

 とりあえずシン、レイのことは俺が誤解を解いてやるから、お前はこの先の幸せだけを考えて、殿下に処女をもらってもらえよ!
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あなたの運命の番になれますか?

BL / 連載中 24h.ポイント:2,878pt お気に入り:72

何で僕を?

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:1,209

水の中で恋をした

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:12

異世界でエルフに転生したら狙われている件

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:401

【完結】あなたともう一度会えるまで

BL / 完結 24h.ポイント:319pt お気に入り:158

泉界のアリア

BL / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:608

初恋と花蜜マゼンダ

BL / 完結 24h.ポイント:305pt お気に入り:936

愛人がいる夫との政略結婚の行く末は?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:468pt お気に入り:2,281

処理中です...