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第五章 王太子の恋 ~ディートリッヒside~
76、王太子の秘密 7
しおりを挟む姫の番契約を王宮関係者が知ることになったとき、ムスタフ伯爵夫人にも姫の健康状態を確認してもらい、ヒート中の性交で避妊薬を使用していないので、きっと妊娠もしているだろうと、医師から大臣や大使に説明が入った。
王宮内は荒れに荒れたが、相手が私の側近で、私の父である陛下も認める男だということと、運命ということ。そして肝心の私が、婚約者を取られたことに怒りもなければ、祝福していることと、両国に損失の無い有効条件をまとめていたことで、姫が我が国に嫁にくることの決議は通った。姫の結婚相手がダイスに変わったことも非難はあったが、受け入れられた。
予定されていた婚儀の日、私は公爵家のオメガと婚姻すると大臣たちに伝えると、皆驚いたが、王子の結婚まで流れたとなっては国の沽券に関わるとして、私の結婚も稟議にかけられた。
これは通るだろう、シンはエリザベスの家に入る手続きを取っていたからだった。父には、カロライン王女が国に入ったときに二人で話をした。全てを了承してくれた父は、私の叔父にあたる人、つまり父の実の弟にシンを養子にするように頼んでくれた。公爵家のオメガが王家に嫁にくるなら問題はない。まだシンには伝えていないが、これから話そうと思う。
すべては整った。いまはまだ王宮関係の大臣クラスにしか知られていない。まだシンが危険にさらされないとも限らない。あとは私の結婚を発表するまでに、貴族からシンを隠せばいいだけだった。
何日もかけて準備を整えた。シンに全てを打ち明けて、結婚までの間を王都から離れて過ごすと伝えようと思った。その時、事件が起こっていたなど知らない私は、シンとやっと二人きりで過ごせると浮かれていてシンが何に悩んでいるかなど、考えもしなかった。
◆◆◆
「殿下! どういうことですか!? 嫁入り前の姫様を番にしてしまうなんて」
「ちょっと待て、それは言い方がおかしい。番にしたのはダイスであって、私ではない」
「そうですが、そうなんですが。こんな話わたくしは聞いておりませんでした」
「そうなのか? 姫はあなたには全て話していたのではないか?」
朝一番でゼバン公爵夫人から謁見の申し込みがあったが、どうやら私と姫のことについてだったので、ゼバン公爵家へと直接来ていた。夫人は凄い勢いで私を責め立ててきたから、それが正解だった。
姫は発情期が終わり、王宮にダイスと契約したと言った。すでに王宮内は荒れに荒れていたが、そんな時にリアナ夫人にも伝えに言っていたとは……。よほど嬉しかったんだな。
夫人の四歳の息子は、ラミスに似て聡明だったが、たいそうフィオナを気に入っていたので、フィオナはその子供から中々離れられずにいた。今からフィオナのような美しいオメガを囲うとは……ラミスの息子の将来が心配だ。
というかフィオナがいないから、夫人の怒りを私ひとりでどう対処したらいいのか分からない。
「わたくしは、姫様はダイス卿と先に結婚をしてから、殿下も結婚をするのだと思っていたのですが、まさか先に番契約をするなんて思っていなくて」
「私と姫の計画は、姫がダイスと運命のヒートを起こして番になるところから始まるんだ」
姫のことを想い、怒りをぶつける夫人に私は細かく話した。
片方に運命のヒートくらいの衝撃がないと、国同士の契約結婚は破談にできない。我が王家の慣例は、結婚後に番になるということだったから、私が先に契約をすることはできないので、姫が私以外の男と先に番になるしかない。
これで姫と私の結婚は無くなるが、その前に完璧な友好的国交契約は済ませておいた。両国に差が出ないように平等にするというのが、お互いが違う相手を選ぶ姫と私の取り決めだった。
そして私の結婚も遅れさせることはできないから、姫とダイスが結ばれた今、シンを公爵家に籍を移す手続きをする。
そう夫人に伝えた。
「え……、殿下のお相手は、フィオナではなくて?」
なぜそこでフィオナが出てきたのだろうか。
「私の想い人はシンだ。なぜそんな勘違いを……」
「だって、旦那様は殿下の婚約者を我が家で保護したって、だからわたくしはフィオナに教育をしてきました」
「フィオナの教育? それは以前ランデインであなたに頼んだ王太子妃教育のことか?」
「え、ええ。それにシン君は、もう恋は終わったって言っていたから。フィオナは結婚に向けて動き出しているって、どう見ても結婚を楽しみにしているフィオナこそが殿下の婚約者かと思って……」
「シンがそんなことを……」
ゼバン公爵は、ランデインの大使が王宮内にいるとのことで、シンとフィオナを心配して、公爵家へと引き取ってくれた。まだあちらの国に私たちのことを知られるわけにいかなかったから、それは助かったが、シンは学園にいるので、アストンと結婚するまでのフィオナだけを引き取ってもらっていたが、フィオナが私の相手ということに繋がっていたとは思わなかった。しかし今考えると、たしかに思うところはあった。
以前、シンとフィオナが広場で遊んでいるところを、大事な人がいるからそこに行けとラミスに紹介した。私はどちらのオメガが恋人かとまでは言わなかった。
そこでフィオナが来た。
「殿下、お久しぶりです」
「ああ、フィオナ息災か? ゼバン公爵家で辛いことはないか?」
「むしろ居心地が良すぎて困っております。というか殿下、シン君と話し合われたのですか? シン君はいろんな誤解をしてしまって、もう見ていられないくらいでした。僕がなにかを言うこともできないので……でも、殿下はどうして、姫様を番にしたんですか?」
フィオナが心痛な顔をした。
「誤解とはなんだ? というかなぜ私が姫を番にするという話になるんだ」
「ちょっとお待ちください。殿下は、姫様のお相手がダイス卿だと教えていないのですか?」
そこでリアナが割って入ってきた。
「え……奥様、その話は本当ですか? 僕は殿下がシン君と結婚するという話と、姫様との婚約は解消するという話しか聞いておりません……。だから姫様を番にしたなんて、とても驚きました。どうしてそうなったんですか!? 婚約は解消するっておっしゃっていたじゃないですか! しかもダイス様のお相手を奪ったんですか!」
「いや、フィオナ落ち着け、それは全て間違いだ」
フィオナがそんな勘違いを? どうしてそうなったのだ、では、シンは? シンも私が姫を番にしたと思ったのか!?
「はぁ、ここまで誤解が生じていたなんて……フィオナ、わたくしは、あなたが殿下のお相手だと思っておりました。だからあなたに沢山の教育をしていたのです」
「え、ええぇぇ! 僕ではありません! 殿下のお相手はシン君です。たしかに奥様からは多くのことを教えていただきありがたかったのですが、まさか、あれは王太子妃教育ってやつでした?」
「ええ、もう! 殿下、なんですか、このざまは」
フィオナが驚いて声をあげた。そして夫人が呆れた顔をした。そして私は顔面蒼白になった。みんながみんな、間違ったことを思っていたと知った。
「フィオナ、シンは私が姫を番にしたと思っているのか?」
「はい。姫様がここにいらして、大好きな彼と番になったとおっしゃって、僕たちにうなじを見せてきました。それで、シン君は、うっ、うう、姫様の前では我慢したけれど、退出すると泣き崩れてっ、僕は、彼が心配でたまりません。早く誤解を解いてあげてください。そうしないと、殿下はシン君に捨てられてしまいます。誤解はもうとんでもないところまできております! その数日前にも、姫様はここで彼にプロポーズされたと嬉しそうにおっしゃられていて、その時もシン君は相当傷ついておりました。だから、最近はあんなに痩せてしまって…‥殿下は酷い方です」
「……まさか、そのようなことになっているとは」
急いで学園に行き、シンの宿舎へと足を踏み入れると、そこには何もなかった。いったい、どういうことだ……。
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