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第五章 王太子の恋 ~ディートリッヒside~
69、王太子の義務
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「今年も、アレが始まるのか……」
「アレって、なんだっけ?」
贅をつくした豪華絢爛な王宮にある王太子専用の執務室では、この国の王太子である私と側近であり親友のダイス・マクレインは、いつもの通り二人きりのときは敬語も使わずに対等な友達という立場で話していた。
ちょうど決議の書類をひとつ片付けたときに、ダイスが紅茶を入れてくれたので、席を立ち、デスクの前にあるテーブルに場所を移動してソファに腰をかけ、ボソリとつぶやいた。
目の前に座った親友のダイスは、すでに紅茶を口に運びクッキーを頬張りながら、まぬけな顔でまるで興味がないことのように会話には流れ作業で参加していた。この男は甘いものが好きなので、仕方ない。休憩時間を待っていたのだからな。
「恒例のアレだよ。閨担当選定だ」
「ああ、そっか。やっと今年のオメガ達から開放されるのにな」
「ああ、ひとりはもう手を回しているから問題ないが、もうひとりも大人くしていてくれる子だといいんだけどな」
「大人しくって……お前と寝ない子ってことだろう」
「ああ」
この国の王太子には、国のための仕事以外に代々やらなければならないことがある。それは閨教育だった。国が決めた婚約者と結婚するまでは、その婚約者に手を出してはいけない。婚約者は清い身で王家に嫁ぐのが慣例となっていたからだ。
なぜそんな制度ができたかと言うと、かなり昔の話だそうだが、結婚前に王子と関係を持った婚約者がいたそうだ。そして結婚の儀ではすでに妊娠が発覚し、皆はたいそう喜んだ。王太子妃誕生とともに未来の王族まで身ごもったのだから。しかし産まれてきた子供は王家の血を引いていないことが判明した。
王太子妃は婚約者時代に、王子の他にも関係を持っていた。結婚後の番契約は決まりだったため、オメガの婚約者は結婚までは他の相手との関係を持てる体であった。それが仇となり、結婚前に他の相手と関係を持つことができた。そして身篭ってしまった。産まれるまでどちらの子供か分からない博打を打ったが、その子の瞳、髪の色を見たときに王太子妃は泣いて王太子に謝罪した。
もちろんそんな事実が国民に知られるわけにはいかず、王太子妃とその子供は秘密裏に処理された。そして王太子妃の相手も処刑された。死産により命を落とした王太子妃として発表され、その後王太子は新しい嫁を娶った。これは王族と後宮しか知らない事実として語り継がれた。
そんなことがあってから、王家へ嫁ぐ者はたとえ婚約者であっても婚姻の儀を済むまでは清い体でいなければならないという決まりができたそうだ。そして初夜当日に後宮医師により、診察を受けて処女を確認して初めて王太子と体を交えることが許される。
しかし王族アルファは精力が強いため、精通をした王子が結婚までに閨ごとを経験しないのは難しいことだった。だが王族の種を婚約者以外に与えることなどはできないので、王子の相手は厳選する必要がある。そこで王族の閨教育に特殊な事項が加わった。
精通から結婚まで一年単位で相手を決めて、その相手を後宮で管理するということ。不特定多数ではリスクが高すぎるが、ひとりでは王族を相手にするには体力気力ともに難しいことと、お互いに体以上の関係を結ばない処置のために、相手は二人に決まった。信頼のおける、そして政治に使われない下級貴族から後宮が調査をして選出し、契約のもと行われた。
今までは、まぁ難なくこなした。実際に連れてこられた相手しか抱けないのは、なんともむなしいモノだった。婚約者がいる身で、恋をすることもできない。だが、抱きたい相手くらい自分で選びたい。そう思い、特殊な目薬を使用して瞳の色を変えて、髪の色もかつらでごまかして、過去に夜の街にこっそり抜け出したことがあった。もちろん親友のダイスと共に。
ダイスの狩場である社交場に行ったとき、可愛いオメガの男を見つけたので、その子を誘ってみた。すんなりと寝ることができた。ダイスから言われたことは、ヒート中のオメガに気を付けることと、女性は相手に選ぶなということだった。それ以外なら妊娠する可能性は低いが、とにかく中出しもせず注意を払えと言われたのでその通りにした。
それは後宮の連れてきたオメガを抱くのとたいした違いがなかった。リスクを考えた結果、一度で遊びはやめた。
体は発散できても心はむなしいだけだった。
婚約者とはお互いに愛情などない、ただの政略結婚だった。だが、この国の王太子となった今、その結婚は義務であり愛などは必要ないものだというのは理解している。そして、まだ十代でこのように愛を諦めている。それは婚約者の彼女も同じ意見だったが、仕事で義務、互いにそう言い聞かせてきた。
だけど私は、最後に冒険をしてみたくなった。しかし社交場に変装して行ったとしても、なにも胸が騒ぐことなどなかった。
そんなとき、私と彼女の間で事件は起きた。そのお陰で私は自分を見つめ直す機会を得ることができた。
「アレって、なんだっけ?」
贅をつくした豪華絢爛な王宮にある王太子専用の執務室では、この国の王太子である私と側近であり親友のダイス・マクレインは、いつもの通り二人きりのときは敬語も使わずに対等な友達という立場で話していた。
ちょうど決議の書類をひとつ片付けたときに、ダイスが紅茶を入れてくれたので、席を立ち、デスクの前にあるテーブルに場所を移動してソファに腰をかけ、ボソリとつぶやいた。
目の前に座った親友のダイスは、すでに紅茶を口に運びクッキーを頬張りながら、まぬけな顔でまるで興味がないことのように会話には流れ作業で参加していた。この男は甘いものが好きなので、仕方ない。休憩時間を待っていたのだからな。
「恒例のアレだよ。閨担当選定だ」
「ああ、そっか。やっと今年のオメガ達から開放されるのにな」
「ああ、ひとりはもう手を回しているから問題ないが、もうひとりも大人くしていてくれる子だといいんだけどな」
「大人しくって……お前と寝ない子ってことだろう」
「ああ」
この国の王太子には、国のための仕事以外に代々やらなければならないことがある。それは閨教育だった。国が決めた婚約者と結婚するまでは、その婚約者に手を出してはいけない。婚約者は清い身で王家に嫁ぐのが慣例となっていたからだ。
なぜそんな制度ができたかと言うと、かなり昔の話だそうだが、結婚前に王子と関係を持った婚約者がいたそうだ。そして結婚の儀ではすでに妊娠が発覚し、皆はたいそう喜んだ。王太子妃誕生とともに未来の王族まで身ごもったのだから。しかし産まれてきた子供は王家の血を引いていないことが判明した。
王太子妃は婚約者時代に、王子の他にも関係を持っていた。結婚後の番契約は決まりだったため、オメガの婚約者は結婚までは他の相手との関係を持てる体であった。それが仇となり、結婚前に他の相手と関係を持つことができた。そして身篭ってしまった。産まれるまでどちらの子供か分からない博打を打ったが、その子の瞳、髪の色を見たときに王太子妃は泣いて王太子に謝罪した。
もちろんそんな事実が国民に知られるわけにはいかず、王太子妃とその子供は秘密裏に処理された。そして王太子妃の相手も処刑された。死産により命を落とした王太子妃として発表され、その後王太子は新しい嫁を娶った。これは王族と後宮しか知らない事実として語り継がれた。
そんなことがあってから、王家へ嫁ぐ者はたとえ婚約者であっても婚姻の儀を済むまでは清い体でいなければならないという決まりができたそうだ。そして初夜当日に後宮医師により、診察を受けて処女を確認して初めて王太子と体を交えることが許される。
しかし王族アルファは精力が強いため、精通をした王子が結婚までに閨ごとを経験しないのは難しいことだった。だが王族の種を婚約者以外に与えることなどはできないので、王子の相手は厳選する必要がある。そこで王族の閨教育に特殊な事項が加わった。
精通から結婚まで一年単位で相手を決めて、その相手を後宮で管理するということ。不特定多数ではリスクが高すぎるが、ひとりでは王族を相手にするには体力気力ともに難しいことと、お互いに体以上の関係を結ばない処置のために、相手は二人に決まった。信頼のおける、そして政治に使われない下級貴族から後宮が調査をして選出し、契約のもと行われた。
今までは、まぁ難なくこなした。実際に連れてこられた相手しか抱けないのは、なんともむなしいモノだった。婚約者がいる身で、恋をすることもできない。だが、抱きたい相手くらい自分で選びたい。そう思い、特殊な目薬を使用して瞳の色を変えて、髪の色もかつらでごまかして、過去に夜の街にこっそり抜け出したことがあった。もちろん親友のダイスと共に。
ダイスの狩場である社交場に行ったとき、可愛いオメガの男を見つけたので、その子を誘ってみた。すんなりと寝ることができた。ダイスから言われたことは、ヒート中のオメガに気を付けることと、女性は相手に選ぶなということだった。それ以外なら妊娠する可能性は低いが、とにかく中出しもせず注意を払えと言われたのでその通りにした。
それは後宮の連れてきたオメガを抱くのとたいした違いがなかった。リスクを考えた結果、一度で遊びはやめた。
体は発散できても心はむなしいだけだった。
婚約者とはお互いに愛情などない、ただの政略結婚だった。だが、この国の王太子となった今、その結婚は義務であり愛などは必要ないものだというのは理解している。そして、まだ十代でこのように愛を諦めている。それは婚約者の彼女も同じ意見だったが、仕事で義務、互いにそう言い聞かせてきた。
だけど私は、最後に冒険をしてみたくなった。しかし社交場に変装して行ったとしても、なにも胸が騒ぐことなどなかった。
そんなとき、私と彼女の間で事件は起きた。そのお陰で私は自分を見つめ直す機会を得ることができた。
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