63 / 102
第四章 婚約者
63、姫が結ばれた
しおりを挟む
「だって、だって、すごいことが起きたんだもの! あのね、あっ、ついに、彼と結ばれたの」
「え……」
俺とフィオナ、そしてリアナ様は絶句。
どうして絶句してかというと、姫は思いっきり髪の毛をかきあげてうなじを見せてきたからだった。そこにはしっかりと生々しい歯形がついていた。
「姫様……いったいどうして。まさか今回の発情期に?」
「ええ、そうよ。彼と結ばれたわ」
彼と結ばれた。ということは、ディーがこの姫を抱いて番にしたということ?
「何ということを! 結婚前にはしたない」
「あら、だって彼と番になることを夢見てきたんだもの。この国に来て初めての発情期で結ばれるなんて、分かりきっていたでしょう?」
「分かるはずもございません! 姫様ともあろうお方が、結婚前に乙女を失うなど……」
「でも、彼はカッコいいから不安だったんだもの。他のオメガに取られる前に、彼を手に入れたくて」
二人の女性が言い合いをしていた。
ここは公爵家のサロンだから、それ自体は問題ないが、とてつもなく興奮しているのは分かる。俺とフィオナは圧倒されてしまってひとことも言葉がでなかった。
他のオメガに取られる前に……それは、俺のことだろうか。
ディーは彼女に側室を取るということの了承をもらったと言っていた。でも姫を見る限り、強い独占欲を感じる。こんな女性が、ディーを他の人と共有などできないだろう。だから、先に番になったということだろうか。
俺がとやかく言える立場ではないし、浮気相手はどちらかというと俺だ。俺こそが、二人の邪魔をするオメガだった。
その場に崩れ落ちそうになったところを、隣にいるフィオナに支えられた。彼女を見る限り、ディーの浮気相手が俺だということまでは知らないようだったので、ここで俺が取り乱したら大変なことになる。フィオナもそれを分かっていて、俺をこっそりと支えて、しっかりとした目で俺を見て制してきた。なんとか気力を振り絞って、踏ん張ったが、今すぐ泣きわめいて崩れ落ちたかった。
ディーが彼女を噛んだ……番にしたんだ。アランが騒がしさから目が覚めた。
「あれぇ、ひめさま?」
「アラン様、お目覚めですか」
「うん、うるさくて起きた」
フィオナがアランの抱き起した。そして姫がいることに驚いたアランが、首元をさらす姫のうなじを見てすぐさま心配した。
「うわぁー痛そうですね、姫さまはお怪我をされてしまったのですか?」
アランが痛そうと言って、心配した顔を王女に向けると、王女は微笑んだ。
「違います、アラン。これは愛の誓なのですよ。アルファが愛するオメガのうなじを噛むという一生に一度の契約がなされたのです」
「けいやく?」
「そうですよ、あなたのお父様とお母様もこの契約をされて、あなたという宝が生まれたの。わたくしにも、そういう相手ができたのです。これは喜ばしいことなのよ」
「わぁー、そうなんですね。おめでとうございます!」
王女とアランがはしゃいでいるが、夫人は終始厳しい顔をしていた。そして俺はもう限界だった。
「リアナ、これから忙しくなるわよ。国と国の話し合いが始まるわ」
「そうですね。姫様という宝をこの国は得たのですから」
リアナ様が、真剣な顔をする。さすが公爵夫人であり、王太子妃教育係だ。
「ええ、私たちの幸せのために、ディートリッヒ様にはしっかりと働いてもらうわ」
「そうですね、殿下のことを支えて差し上げてください。姫様の幸せのためにも、殿下には頑張っていただかなければなりませんわ」
ディートリッヒ様。姫はそう言った。
ディー、ディー、ディー、どうして、どうして⁉
俺を番にするっていったのに、姫を先に番にした。やはり俺は二番手であって、大切なのは、本妻の姫だ。このまま、ここで生きていくのはもう辛すぎる。幸せに満ち溢れた彼女をこれからもずっと、見ていくことなんてできない。彼女が愛する人が、俺の愛するディーだなんて、耐えられない。
フィオナが気を効かせてくれて、大事な話のようなので失礼しますと言って、席を外す許可を取ってくれた。そのやり取りは俺の頭には入ってくることなく、なんとか気力だけでその場を去った。
しばらくすると俺の足が崩れおち、その場にしゃがみ込んだ。
「シン君……」
「ごめん。フィオナ、ごめん。俺、分かってたのに、分かってたはずなのに、どうしてこんなに涙が出るんだろう」
「シン君、よく、よく耐えたね。もういいよ、沢山泣いていいから」
「うっ、うっ、うわーっ、ああああ」
フィオナが抱きしめてくれて、俺はずっとフィオナの胸で泣いていた。心配するフィオナは、公爵家の執事に許可をとり、俺を宿舎まで送り届けてくれた。そして、しばらく俺の側にいてくれた。
俺はもうここでやっていける気がしなかった。
そう思ったら、それからの俺は行動が早かった。
「え……」
俺とフィオナ、そしてリアナ様は絶句。
どうして絶句してかというと、姫は思いっきり髪の毛をかきあげてうなじを見せてきたからだった。そこにはしっかりと生々しい歯形がついていた。
「姫様……いったいどうして。まさか今回の発情期に?」
「ええ、そうよ。彼と結ばれたわ」
彼と結ばれた。ということは、ディーがこの姫を抱いて番にしたということ?
「何ということを! 結婚前にはしたない」
「あら、だって彼と番になることを夢見てきたんだもの。この国に来て初めての発情期で結ばれるなんて、分かりきっていたでしょう?」
「分かるはずもございません! 姫様ともあろうお方が、結婚前に乙女を失うなど……」
「でも、彼はカッコいいから不安だったんだもの。他のオメガに取られる前に、彼を手に入れたくて」
二人の女性が言い合いをしていた。
ここは公爵家のサロンだから、それ自体は問題ないが、とてつもなく興奮しているのは分かる。俺とフィオナは圧倒されてしまってひとことも言葉がでなかった。
他のオメガに取られる前に……それは、俺のことだろうか。
ディーは彼女に側室を取るということの了承をもらったと言っていた。でも姫を見る限り、強い独占欲を感じる。こんな女性が、ディーを他の人と共有などできないだろう。だから、先に番になったということだろうか。
俺がとやかく言える立場ではないし、浮気相手はどちらかというと俺だ。俺こそが、二人の邪魔をするオメガだった。
その場に崩れ落ちそうになったところを、隣にいるフィオナに支えられた。彼女を見る限り、ディーの浮気相手が俺だということまでは知らないようだったので、ここで俺が取り乱したら大変なことになる。フィオナもそれを分かっていて、俺をこっそりと支えて、しっかりとした目で俺を見て制してきた。なんとか気力を振り絞って、踏ん張ったが、今すぐ泣きわめいて崩れ落ちたかった。
ディーが彼女を噛んだ……番にしたんだ。アランが騒がしさから目が覚めた。
「あれぇ、ひめさま?」
「アラン様、お目覚めですか」
「うん、うるさくて起きた」
フィオナがアランの抱き起した。そして姫がいることに驚いたアランが、首元をさらす姫のうなじを見てすぐさま心配した。
「うわぁー痛そうですね、姫さまはお怪我をされてしまったのですか?」
アランが痛そうと言って、心配した顔を王女に向けると、王女は微笑んだ。
「違います、アラン。これは愛の誓なのですよ。アルファが愛するオメガのうなじを噛むという一生に一度の契約がなされたのです」
「けいやく?」
「そうですよ、あなたのお父様とお母様もこの契約をされて、あなたという宝が生まれたの。わたくしにも、そういう相手ができたのです。これは喜ばしいことなのよ」
「わぁー、そうなんですね。おめでとうございます!」
王女とアランがはしゃいでいるが、夫人は終始厳しい顔をしていた。そして俺はもう限界だった。
「リアナ、これから忙しくなるわよ。国と国の話し合いが始まるわ」
「そうですね。姫様という宝をこの国は得たのですから」
リアナ様が、真剣な顔をする。さすが公爵夫人であり、王太子妃教育係だ。
「ええ、私たちの幸せのために、ディートリッヒ様にはしっかりと働いてもらうわ」
「そうですね、殿下のことを支えて差し上げてください。姫様の幸せのためにも、殿下には頑張っていただかなければなりませんわ」
ディートリッヒ様。姫はそう言った。
ディー、ディー、ディー、どうして、どうして⁉
俺を番にするっていったのに、姫を先に番にした。やはり俺は二番手であって、大切なのは、本妻の姫だ。このまま、ここで生きていくのはもう辛すぎる。幸せに満ち溢れた彼女をこれからもずっと、見ていくことなんてできない。彼女が愛する人が、俺の愛するディーだなんて、耐えられない。
フィオナが気を効かせてくれて、大事な話のようなので失礼しますと言って、席を外す許可を取ってくれた。そのやり取りは俺の頭には入ってくることなく、なんとか気力だけでその場を去った。
しばらくすると俺の足が崩れおち、その場にしゃがみ込んだ。
「シン君……」
「ごめん。フィオナ、ごめん。俺、分かってたのに、分かってたはずなのに、どうしてこんなに涙が出るんだろう」
「シン君、よく、よく耐えたね。もういいよ、沢山泣いていいから」
「うっ、うっ、うわーっ、ああああ」
フィオナが抱きしめてくれて、俺はずっとフィオナの胸で泣いていた。心配するフィオナは、公爵家の執事に許可をとり、俺を宿舎まで送り届けてくれた。そして、しばらく俺の側にいてくれた。
俺はもうここでやっていける気がしなかった。
そう思ったら、それからの俺は行動が早かった。
93
お気に入りに追加
2,473
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
事故つがいの夫は僕を愛さない ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】
カミヤルイ
BL
2023.9.19~完結一日目までBL1位、全ジャンル内でも20位以内継続、ありがとうございました!
美形アルファと平凡オメガのすれ違い結婚生活
(登場人物)
高梨天音:オメガ性の20歳。15歳の時、電車内で初めてのヒートを起こした。
高梨理人:アルファ性の20歳。天音の憧れの同級生だったが、天音のヒートに抗えずに番となってしまい、罪悪感と責任感から結婚を申し出た。
(あらすじ)*自己設定ありオメガバース
「事故番を対象とした番解消の投与薬がいよいよ完成しました」
ある朝流れたニュースに、オメガの天音の番で、夫でもあるアルファの理人は釘付けになった。
天音は理人が薬を欲しいのではと不安になる。二人は五年前、天音の突発的なヒートにより番となった事故番だからだ。
理人は夫として誠実で優しいが、番になってからの五年間、一度も愛を囁いてくれたこともなければ、発情期以外の性交は無く寝室も別。さらにはキスも、顔を見ながらの性交もしてくれたことがない。
天音は理人が罪悪感だけで結婚してくれたと思っており、嫌われたくないと苦手な家事も頑張ってきた。どうか理人が薬のことを考えないでいてくれるようにと願う。最近は理人の帰りが遅く、ますます距離ができているからなおさらだった。
しかしその夜、別のオメガの匂いを纏わりつけて帰宅した理人に乱暴に抱かれ、翌日には理人が他のオメガと抱き合ってキスする場面を見てしまう。天音ははっきりと感じた、彼は理人の「運命の番」だと。
ショックを受けた天音だが、理人の為には別れるしかないと考え、番解消薬について調べることにするが……。
表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる