王太子専属閨係の見る夢は

riiko

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第四章 婚約者

62、辛い日々

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 ディーは俺にプロポーズをしてから、今まで以上に愛を囁くようになった。俺は嬉しいのか悲しいのか分からないまま数日を流れに身を任せたまま、過ごしていた。

 相変わらず毎日会って、ディーとキスをしたり抱き合ったりしている。というかもうされるままの状態で、俺の精神は彼を求めることをやめた。ディーはそんな俺を組み敷くが、俺の体が感じることは無くなった。そもそも発情期まで抱かないらしい。

「シン、どこか具合が悪いのか?」
「どうだろ、別に普通だけど」
「でも、最近痩せてきたし、フェロモンも少ない。すぐにムスタフ伯爵夫人を呼ぼう」

 ディーとのこれからの関係を考えると自然と食欲は減り、自分でもおかしいくらい情緒不安定になっているのは、ディーに言われなくても気づいていた。体も快楽を拾わない、意外にも俺の体は繊細だったらしいことを知った。

「だめだ、ここに後宮医師が来るのはおかしいだろう。医者なら自分で行くから」
「おかしくないよ、未来の私の嫁を診察できるのはムスタフ伯爵夫人だけだから」

 ムスタフ伯爵夫人は、そういう役割も担っていたのか。

「でも、まだそんな公にしたらダメだろう?」
「たしかに、今は貴族たちに掛け合っているが、時間の問題だ。すぐにシンのことを発表できる日は来る」
「いいよ、無理しなくて。俺は結婚なんてしなくてもいいから」
「だめだ。必ず嫁にする」

 さすがに本妻とも結婚をしていないのに、側室を認めさせるのは難しいのだろう。俺だって、愛人だと世の中に知られるのは嫌だ。なによりも愛人なんて嫌だ。どうしてこの男はそれを分かってくれないのだろう。恋を楽しむ時期は終わり、俺はひたすら苦しい日々を送っていた。

 ディーはいよいよ婚姻の準備で忙しくなったのか、学園に来る日が少なくなっていたある日、ゼバン公爵夫人に呼ばれてお宅へお邪魔した。

「シン君!」
「フィオナ!」

 公爵家のティールームには、フィオナがいた。フィオナは元気そうで安心した。結婚する日までの期間限定で、アランの遊び相手としてこの公爵家で暮らしているフィオナは、空気が合うのか、後宮で暮らしている時よりも生き生きとしていた。

「シン君、大丈夫? なんか痩せた?」
「ああ、そうかも。でも大丈夫だよ」
「もしかして……妊娠?」
「するわけないだろう! 卒業が近くて学業が忙しいだけだ」
「そ、そうだよね。安心した」

 俺とフィオナが話していると、アランが母親のリアナ様と一緒にこちらに来た。

「シン君、今日はわざわざこちらまで足を運んでくれてありがとう」
「いえ、俺こそご招待ありがとうございます」
「アランもフィオナもあなたに会いたがっていたらかね。私もだけど!」

 相変わらす可愛らしい女性と、可愛くてやんちゃな男の子が登場した。

「シン――、シンもフィーと一緒に僕とここで暮らせばいいのにぃ」
「それは楽しそうだ」
「うん、毎日楽しいよ。フィーが一緒に寝てくれるの。あっ、でも、僕は立派な公爵になるから、ひとりで寝れるんです。だけどフィーが寂しいと思って一緒に寝てあげてるの」
「はは、えらいな」

 アランの頭を撫でた。フィーが大好きでせがんで一緒に寝てもらっているのは知っているんだけど、秘密にしてやるか。フィオナも穏やかな顔で笑っていた。

 豪華なお茶とお菓子をいただきながら、話に花が咲いていた。リアナ様は姫の教育係で王宮に行く日が多いから、フィオナが一日中アランと遊んでくれるのは本当に助かっていると言っていた。フィオナと夫人の仲もとても良さそうで良かった。

「姫様は、もう本当にそそっかしくてね。まだまだ教育することがあるのに、それがお嫁さんに行くなんて、なんだか心配で」
「奥様、お休みの日くらい、心配はやめて楽しみましょうよ」
「あら、そうね。フィオナ、いつもありがとう。フィオナが淹れてくれるお茶はいつも美味しくて助かっています」
「いえ、僕こそこんな好待遇で置いてもらえて感謝しかありません。アラン様は聡明でとてもいい子ですし」

 フィオナは膝に座るアランの頭を撫でると、アランがえへんっという得意げな顔をした。

 三人の雰囲気がとてもいい。家族のように過ごしているみたいで、フィオナが穏やかに過ごせているみたいで俺は安心した。そんな時間を過ごしていると、アランがフィオナの膝の上で寝てしまった。

「もう、アランったらフィオナにべったりでね。母親としては少し妬けちゃうのよ」
「フィオナにかかれば、誰でもべったりしちゃいますよ」
「それもそうね、あ――あ、フィオナが嫁に行かずにずっと我が家にいてくれればいいのになぁ、でもそうはいかないわよね」

 フィオナは気まずそうに話した。

「ここは居心地が良くてありがたいのですが、彼と一緒になる日を夢見ているので……」
「ふふ、幸せそうでいいわね」

 フィオナの結婚のことはもう隠す必要はない。閨係は卒業しているから、フィオナには制限がないはずだ。フィオナは赤い顔をして答えた。アストンのことでも考えていたのだろう。

「わたくしも早く、紹介されたいわ。楽しみにしているのよ、とても有能な方ですものね」
「そうですね、フィオナをとても愛してくれる強いアルファだと思います」
「ふふ、そういえばシン君の恋はどうなったかしら?」
「俺の方はもう、最悪なので……話せることがありません」
「あら、そうなの? わたくしでよければいい殿方を紹介いたしましょうか?」
「いえ、そういうのは、もう」
「そうよね、少しお休みしても、シン君は若いしこれから素敵な方とのめぐりあわせもあるかもしれないしね」

 そんな話をしていたら、執事が慌ててティールームに入って来た。バタバタとうるさい音がするので、俺と夫人はそちらを見たら、まさかの姫が乱入してきた。

「えっ……」
「リアナ――、聞いて!」
「ひ、姫様!? またどうなさったのですか。発情期はもう明けましたか?」

 姫は発情期だったのか。
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