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第四章 婚約者
60、動き出す現状
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サロンを出ると、待っていた馬車に乗った。
「シン君、大丈夫?」
「な、なにが?」
席に座り、馬車が動き出すとフィオナが俺に声を掛ける。
「いや、さっきのあの方の言葉……」
「もうオメガと遊ばないってやつ? それとも一生あなただけを愛するっての? 笑っちゃうよな。俺にも愛を語っといて、やっぱり俺はただの遊びで契約終了前に切られるただの些末のオメガだった」
「そんなこと……だって殿下から直接そう言われたわけじゃないし、何かの間違いだよ、きっと」
なぜフィオナがそんなふうに言うのかわからなかった。元々俺もフィオナも王太子が結婚するまでの繋ぎの体だけの契約。それすらも、俺たちは交わしていないけど。王女と愛を誓ったのなら、もう体は愚か、心だって、恋人ごっこだって要らないはず。
「間違いなもんか。俺たちの存在が間違いなんだよ、閨係ってなんだよ。それこそが本来いらないものだろう。間違いだらけの存在じゃないか。こんな存在が婚約者に知られていいわけない。俺たち、いや、俺はもう切られて当然のただの替えの利く卑しいオメガだ」
「シン君……」
フィオナは黙ってしまった。何も言えないのだろう。俺自身が俺の立場を汚す発言をしているんだから。
「ごめん、フィオナにあたっても仕方ないし。俺がなにかを怒る権利もない」
「でも……」
「もう大丈夫、このまま後宮は解体かな?」
「どうだろう、まだ僕は何も聞いていないけれど」
そんな話をしていたら、馬車は後宮へと着いた。
フィオナを降ろして俺はそのまま学園に戻ろうとしたところ、後宮官僚のオジサンが珍しく迎えにきて、俺たちに話があるから来て欲しいと言われた。なんとなく俺は身構えた。
そして後宮にある、オジサンの執務室に通された。
「お二人は今までよく頑張ってくれました。こんなに殿下が満足された年はありませんよ」
俺とフィオナは黙ってしまった。
それに対してなんて答えるのがいいのか二人とも困ったからだ。フィオナは全く何もしていない。そして俺もディーと何もしていない。二人そろって閨係の仕事をしていなかったから。そのことをこのオジサンは知らない。知っているのは、というか俺がディーとエッチをしていないのを知っているのは、後宮医師のムスタフ夫人だけだった。フィオナに関しては閨係を全うしていると思っているだろうが。
「今回は、殿下の婚約者が隣国の王女ということで、結婚前に王宮内に留まる形となってしまってね。そんな方たちが出入りしている王宮で、ここの秘密を探られたら困ってしまうんだ」
「……それって」
フィオナが最初に口を開いた。
「そう、察しの通り後宮を閉めることにしたんだよ。この国の閨係の仕組みや後宮についても、ランデイン王国に知られるわけにはいかないのでね。今回は少し早いが、君たちのお役目は終了を迎えることになった。今までよく頑張りました」
「え……」
「フィオナ殿は結婚相手が決まっているけれど、結婚までの残りの日数は他のところでのご奉仕が決まっている」
「え?」
フィオナが驚いた顔をした。ご奉仕って、そんなふざけたことあるかよ! また違う男に体を明け渡せなんて、閨係をやり遂げたオメガに、ってやっていなけど、ヤッタことになっているからその事情は知らないからな。やり遂げたオメガに他の男にも股を開けというのか? ふざけやがって!
「オッサン!」
「オ、オッサン?」
後宮官僚のオッサンは、慌てて俺の言葉を聞き返した。
「それはさすがにないだろう!」
官僚に怒鳴ってふうふう言っていたら、フィオナが俺を止めた。そして体を震わせて、フィオナは後宮官僚に訴えた。
「僕は、僕は、殿下以外にも、体を差し出すのですか?」
そこでオッサンは、ハッとしてから、申し訳なさそうな顔をした。
「ああ、ああ、違う。違うよ。私の言い方が悪かった。君たちをそんなふうに扱ってはいない。シン殿もすまなかった。怒りを収めてくれないか?」
「じゃあ、どういう扱いなんだ……なんですか」
オッサンは笑った。
「もうシン殿は、そのキャラを中々隠せなかったね。殿下もそういう君を気に入ったのだから結果良かったけどね」
「むむ……」
俺はバカにされたのか? するとオッサンはフィオナに向き合った。
「フィオナ殿の残りの期間は、公爵家のご子息のお世話をしてもらう。ゼバン公爵夫人と最近、仲良くしているそうだね。君たちが王宮で働いていると思ったらしく、ぜひとも個人的に雇いたいと打診があった。公爵は、奥方にも秘密にして君たちを迎え入れて喜ばせようとしているみたいだった」
「君たち?」
「そう、君たち二人を雇いたいと公爵は言われたんだが、シン殿はたとえ閨係をやめても、残りの日数は学業があるからお断りをしたんだ」
「そういうことなら、僕は構いません」
フィオナは納得した。
「シン殿は、このまま残りの日数は学園で今まで通り過ごしなさい。閨のことはもうしなくていいから。そして希望の結婚相手を後宮に伝えること、相手がいない場合はこちらで探すから、今からでも自分で探すもいいし、こちらに任せてもいいけど、どうする?」
「……自分で探します」
「そうか、良さそうな相手が決まったら、こちらに伝えなさい。後宮が責任もってその相手との見合いの席を用意するからね。君の結婚も決まったようなものだから安心しなさいね」
「……はい」
そんな感じで急に俺たちは自由の身になった。俺とフィオナはついにこの後宮での仕事を終わる日が来てしまったのだった。
まさかディーとなんの話もしないまま、終わりの日が来るとは思わなかった。
「シン君、大丈夫?」
「な、なにが?」
席に座り、馬車が動き出すとフィオナが俺に声を掛ける。
「いや、さっきのあの方の言葉……」
「もうオメガと遊ばないってやつ? それとも一生あなただけを愛するっての? 笑っちゃうよな。俺にも愛を語っといて、やっぱり俺はただの遊びで契約終了前に切られるただの些末のオメガだった」
「そんなこと……だって殿下から直接そう言われたわけじゃないし、何かの間違いだよ、きっと」
なぜフィオナがそんなふうに言うのかわからなかった。元々俺もフィオナも王太子が結婚するまでの繋ぎの体だけの契約。それすらも、俺たちは交わしていないけど。王女と愛を誓ったのなら、もう体は愚か、心だって、恋人ごっこだって要らないはず。
「間違いなもんか。俺たちの存在が間違いなんだよ、閨係ってなんだよ。それこそが本来いらないものだろう。間違いだらけの存在じゃないか。こんな存在が婚約者に知られていいわけない。俺たち、いや、俺はもう切られて当然のただの替えの利く卑しいオメガだ」
「シン君……」
フィオナは黙ってしまった。何も言えないのだろう。俺自身が俺の立場を汚す発言をしているんだから。
「ごめん、フィオナにあたっても仕方ないし。俺がなにかを怒る権利もない」
「でも……」
「もう大丈夫、このまま後宮は解体かな?」
「どうだろう、まだ僕は何も聞いていないけれど」
そんな話をしていたら、馬車は後宮へと着いた。
フィオナを降ろして俺はそのまま学園に戻ろうとしたところ、後宮官僚のオジサンが珍しく迎えにきて、俺たちに話があるから来て欲しいと言われた。なんとなく俺は身構えた。
そして後宮にある、オジサンの執務室に通された。
「お二人は今までよく頑張ってくれました。こんなに殿下が満足された年はありませんよ」
俺とフィオナは黙ってしまった。
それに対してなんて答えるのがいいのか二人とも困ったからだ。フィオナは全く何もしていない。そして俺もディーと何もしていない。二人そろって閨係の仕事をしていなかったから。そのことをこのオジサンは知らない。知っているのは、というか俺がディーとエッチをしていないのを知っているのは、後宮医師のムスタフ夫人だけだった。フィオナに関しては閨係を全うしていると思っているだろうが。
「今回は、殿下の婚約者が隣国の王女ということで、結婚前に王宮内に留まる形となってしまってね。そんな方たちが出入りしている王宮で、ここの秘密を探られたら困ってしまうんだ」
「……それって」
フィオナが最初に口を開いた。
「そう、察しの通り後宮を閉めることにしたんだよ。この国の閨係の仕組みや後宮についても、ランデイン王国に知られるわけにはいかないのでね。今回は少し早いが、君たちのお役目は終了を迎えることになった。今までよく頑張りました」
「え……」
「フィオナ殿は結婚相手が決まっているけれど、結婚までの残りの日数は他のところでのご奉仕が決まっている」
「え?」
フィオナが驚いた顔をした。ご奉仕って、そんなふざけたことあるかよ! また違う男に体を明け渡せなんて、閨係をやり遂げたオメガに、ってやっていなけど、ヤッタことになっているからその事情は知らないからな。やり遂げたオメガに他の男にも股を開けというのか? ふざけやがって!
「オッサン!」
「オ、オッサン?」
後宮官僚のオッサンは、慌てて俺の言葉を聞き返した。
「それはさすがにないだろう!」
官僚に怒鳴ってふうふう言っていたら、フィオナが俺を止めた。そして体を震わせて、フィオナは後宮官僚に訴えた。
「僕は、僕は、殿下以外にも、体を差し出すのですか?」
そこでオッサンは、ハッとしてから、申し訳なさそうな顔をした。
「ああ、ああ、違う。違うよ。私の言い方が悪かった。君たちをそんなふうに扱ってはいない。シン殿もすまなかった。怒りを収めてくれないか?」
「じゃあ、どういう扱いなんだ……なんですか」
オッサンは笑った。
「もうシン殿は、そのキャラを中々隠せなかったね。殿下もそういう君を気に入ったのだから結果良かったけどね」
「むむ……」
俺はバカにされたのか? するとオッサンはフィオナに向き合った。
「フィオナ殿の残りの期間は、公爵家のご子息のお世話をしてもらう。ゼバン公爵夫人と最近、仲良くしているそうだね。君たちが王宮で働いていると思ったらしく、ぜひとも個人的に雇いたいと打診があった。公爵は、奥方にも秘密にして君たちを迎え入れて喜ばせようとしているみたいだった」
「君たち?」
「そう、君たち二人を雇いたいと公爵は言われたんだが、シン殿はたとえ閨係をやめても、残りの日数は学業があるからお断りをしたんだ」
「そういうことなら、僕は構いません」
フィオナは納得した。
「シン殿は、このまま残りの日数は学園で今まで通り過ごしなさい。閨のことはもうしなくていいから。そして希望の結婚相手を後宮に伝えること、相手がいない場合はこちらで探すから、今からでも自分で探すもいいし、こちらに任せてもいいけど、どうする?」
「……自分で探します」
「そうか、良さそうな相手が決まったら、こちらに伝えなさい。後宮が責任もってその相手との見合いの席を用意するからね。君の結婚も決まったようなものだから安心しなさいね」
「……はい」
そんな感じで急に俺たちは自由の身になった。俺とフィオナはついにこの後宮での仕事を終わる日が来てしまったのだった。
まさかディーとなんの話もしないまま、終わりの日が来るとは思わなかった。
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