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第四章 婚約者
56、王女と周りの事情
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「ところで、お前が俺のところに出入りすることを、殿下はよく思わないんじゃないか?」
「別に友達のところに来て、よくも悪くもないだろう。それに俺と殿下は付き合ってない。俺が勝手に想っているだけで、俺の想いを打ち明けるつもりもないから、なんなら無関係の人だよ。俺に気を遣うな」
よく思ってはいない……たしかにそうだった。
ディーは他の男と親しくすることを嫌がっている。まるで嫉妬しているみたいだが、そんなことまでレイに知られるわけにはいかない。独り身の寂しいオメガの片思いであって、王太子は婚約者以外のオメガをそんな風に思っていない。婚約者を大切にする真面目な王太子というイメージを崩すわけにはいかなかった。
「でもなぁ、俺が殿下から睨まれているのは確かなんだけど。原因はシンしか思い浮かばない」
「大事なベスの婿になるから、ベスを取られたとか思っているのかもしれないだろ。あの二人は、大事なパーティーでは必ず一緒に参加していたくらい仲がいいからさ」
「それは義務で、ベスに執着なんてあの殿下はしないだろう。まぁ、いいか。お前と俺が友達なのは変わんないし、俺が殿下から妬まれるだけなら、仕方ないから流してやるよ」
「……なんか、ごめんな?」
そんな感じでレイとはいつも通りの仲が継続だった。
俺の片思い、そう言ったことで本当になった。そうだよ、絶対結ばれない相手にただ想いを寄せているだけ。ただの片思い。初恋は実らないなんてよくある話だよ、いつか笑って誰かと話せる日がくるかもしれない。俺は学生時代、身分不相応な相手を想ったことがあるんだって。相手にされなかったけれど、その人のことを考えるだけで幸せだった。そういうただの話のネタになる日がいつかくる。
フィオナは恋を楽しめと言うし、もう自分でも隠す必要はないと思った。といっても誰かに俺は王太子が好きだなんて言うような、イタイことはしない。密かに王太子に想いを寄せている可哀想なオメガくらい、誰かしらいるだろう。俺はそのひとりってだけだ。あんなにかっこいいんだから誰かに好かれるのも王太子の役目だと思って、心の中で想われていることくらい諦めてもらおう。
「そういえば、今日、殿下の婚約者の方がこの国にいらしたみたいだぞ」
「えっ」
「ベスが王宮で迎え入れる準備をしていた。今日は王族関係者だけの晩餐会が開かれるって。まだ嫁入りは先だが、それに備えて隣国からいらした。婚姻の日を迎えるまで王宮の迎賓館にお泊りになると言っていた」
「そ、そうなんだ」
それでディーは用事があると早々と帰っていったのか。ついに、ディーが結婚をする日は目前に迫ってきていた。まさか王宮内にすでに入っていたとは。後宮は離れているし、出入りも制限しているから会うことはないとは思うけれど、俺とディーの別れが近づいてきたことを物語っていた。
「そのお姫様の、王太子妃教育係がなんとこの国の、次期公爵夫人なんだよ」
「へぇ、お前いろいろと知ってるな」
「ああ、公爵家の話は有名でさ。ゼバン公爵家の嫡男ラミス卿は、隣国のランデイン王国に留学中、その国のご令嬢と恋に落ちて向こうで結婚されたんだ。まさかの嫡男が国を捨てたって話は社交界の話題をさらっていって、当時は凄く騒がれたんだ。俺は子供だったけど、親が騒がしかったのを覚えている」
「随分と自由な貴族もいるんだな」
「はは、そうだな。番を得たアルファは時々突拍子もない行動を取るらしい」
レイの話はとても興味深かった。
そのラミスは妻の母国で子供も作り幸せに暮らしていたが、実父であるゼバン公爵様が今年病に倒れられて急遽国に帰ってくることになったとか。爵位を継ぐのには、やはりラミスしかいないと言うことになったらしい。とんだ放蕩息子なのに、それでいいのか公爵家!? 長い留学という期間を終わらせ、嫁と息子を連れてこの国へ帰ってくることになった。
その嫁はもともと高貴な身分の方なので、王女様付きだった過去もあり、今回は王女様の王太子妃教育係として、この国でも王女様のお世話をすることになったらしい。
あれ? なんか今の話を聞くに、あの広場での女性二人が思い浮かんでしまった。それに、妻命みたいなアルファもいた。まさか、あの人たちが隣国の姫とその他大勢だったのか?
たしか……愛する人に会うためにやっと来たと言って、涙を流していた女性が姫様と呼ばれていた。ということは、長年思いを寄せている婚約者であるディーに会えると泣いていたということか? 恋焦がれていた相手が、ディー。
胸が急に苦しくなった。ディーは愛されている。それを知って喜ぶべきなのに、どうして俺の胸は痛みを訴えてくるのだろうか。
とても綺麗なお嬢様というか、お姫様だった。侍女と勝手に行動をするくらいのお転婆な可愛い女の子なら、きっとディーとお似合いだ。ディーは気さくな相手の方が好きな気がするし、好きな相手とは飾りっけなく過ごしたいと言っていたから、あのお姫様なら自分を偽らずにディーと向き合いそうな気がした。
「今頃は王太子とベスは久しぶりにラミス卿に会っているんじゃないか? ラミス卿は隣国へ留学するまでの二年間は、まだ子供だった王太子とベスの勉強を見られていたとかで親しいみたいだぞ」
「そうなんだ」
また新たな人物がディーの周りに集まってきている。そろそろディーも結婚準備で忙しくなるのだろうか。俺たちはいったいあと何回会うことができるのだろうか。
「別に友達のところに来て、よくも悪くもないだろう。それに俺と殿下は付き合ってない。俺が勝手に想っているだけで、俺の想いを打ち明けるつもりもないから、なんなら無関係の人だよ。俺に気を遣うな」
よく思ってはいない……たしかにそうだった。
ディーは他の男と親しくすることを嫌がっている。まるで嫉妬しているみたいだが、そんなことまでレイに知られるわけにはいかない。独り身の寂しいオメガの片思いであって、王太子は婚約者以外のオメガをそんな風に思っていない。婚約者を大切にする真面目な王太子というイメージを崩すわけにはいかなかった。
「でもなぁ、俺が殿下から睨まれているのは確かなんだけど。原因はシンしか思い浮かばない」
「大事なベスの婿になるから、ベスを取られたとか思っているのかもしれないだろ。あの二人は、大事なパーティーでは必ず一緒に参加していたくらい仲がいいからさ」
「それは義務で、ベスに執着なんてあの殿下はしないだろう。まぁ、いいか。お前と俺が友達なのは変わんないし、俺が殿下から妬まれるだけなら、仕方ないから流してやるよ」
「……なんか、ごめんな?」
そんな感じでレイとはいつも通りの仲が継続だった。
俺の片思い、そう言ったことで本当になった。そうだよ、絶対結ばれない相手にただ想いを寄せているだけ。ただの片思い。初恋は実らないなんてよくある話だよ、いつか笑って誰かと話せる日がくるかもしれない。俺は学生時代、身分不相応な相手を想ったことがあるんだって。相手にされなかったけれど、その人のことを考えるだけで幸せだった。そういうただの話のネタになる日がいつかくる。
フィオナは恋を楽しめと言うし、もう自分でも隠す必要はないと思った。といっても誰かに俺は王太子が好きだなんて言うような、イタイことはしない。密かに王太子に想いを寄せている可哀想なオメガくらい、誰かしらいるだろう。俺はそのひとりってだけだ。あんなにかっこいいんだから誰かに好かれるのも王太子の役目だと思って、心の中で想われていることくらい諦めてもらおう。
「そういえば、今日、殿下の婚約者の方がこの国にいらしたみたいだぞ」
「えっ」
「ベスが王宮で迎え入れる準備をしていた。今日は王族関係者だけの晩餐会が開かれるって。まだ嫁入りは先だが、それに備えて隣国からいらした。婚姻の日を迎えるまで王宮の迎賓館にお泊りになると言っていた」
「そ、そうなんだ」
それでディーは用事があると早々と帰っていったのか。ついに、ディーが結婚をする日は目前に迫ってきていた。まさか王宮内にすでに入っていたとは。後宮は離れているし、出入りも制限しているから会うことはないとは思うけれど、俺とディーの別れが近づいてきたことを物語っていた。
「そのお姫様の、王太子妃教育係がなんとこの国の、次期公爵夫人なんだよ」
「へぇ、お前いろいろと知ってるな」
「ああ、公爵家の話は有名でさ。ゼバン公爵家の嫡男ラミス卿は、隣国のランデイン王国に留学中、その国のご令嬢と恋に落ちて向こうで結婚されたんだ。まさかの嫡男が国を捨てたって話は社交界の話題をさらっていって、当時は凄く騒がれたんだ。俺は子供だったけど、親が騒がしかったのを覚えている」
「随分と自由な貴族もいるんだな」
「はは、そうだな。番を得たアルファは時々突拍子もない行動を取るらしい」
レイの話はとても興味深かった。
そのラミスは妻の母国で子供も作り幸せに暮らしていたが、実父であるゼバン公爵様が今年病に倒れられて急遽国に帰ってくることになったとか。爵位を継ぐのには、やはりラミスしかいないと言うことになったらしい。とんだ放蕩息子なのに、それでいいのか公爵家!? 長い留学という期間を終わらせ、嫁と息子を連れてこの国へ帰ってくることになった。
その嫁はもともと高貴な身分の方なので、王女様付きだった過去もあり、今回は王女様の王太子妃教育係として、この国でも王女様のお世話をすることになったらしい。
あれ? なんか今の話を聞くに、あの広場での女性二人が思い浮かんでしまった。それに、妻命みたいなアルファもいた。まさか、あの人たちが隣国の姫とその他大勢だったのか?
たしか……愛する人に会うためにやっと来たと言って、涙を流していた女性が姫様と呼ばれていた。ということは、長年思いを寄せている婚約者であるディーに会えると泣いていたということか? 恋焦がれていた相手が、ディー。
胸が急に苦しくなった。ディーは愛されている。それを知って喜ぶべきなのに、どうして俺の胸は痛みを訴えてくるのだろうか。
とても綺麗なお嬢様というか、お姫様だった。侍女と勝手に行動をするくらいのお転婆な可愛い女の子なら、きっとディーとお似合いだ。ディーは気さくな相手の方が好きな気がするし、好きな相手とは飾りっけなく過ごしたいと言っていたから、あのお姫様なら自分を偽らずにディーと向き合いそうな気がした。
「今頃は王太子とベスは久しぶりにラミス卿に会っているんじゃないか? ラミス卿は隣国へ留学するまでの二年間は、まだ子供だった王太子とベスの勉強を見られていたとかで親しいみたいだぞ」
「そうなんだ」
また新たな人物がディーの周りに集まってきている。そろそろディーも結婚準備で忙しくなるのだろうか。俺たちはいったいあと何回会うことができるのだろうか。
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