王太子専属閨係の見る夢は

riiko

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第四章 婚約者

55、恋がばれていた

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 その日の夜、俺はレイの部屋に来ていた。

 土産にパンを買おうとしたらそれはもうすでに完売していたので、お菓子を買った。一緒に食後に食べる目的で、夕食後にレイの部屋に行ったわけだ。

「お前さ、こんなふうに男の部屋に入って大丈夫なわけ?」
「何言ってんの? 俺も男だよ、言っている意味が全く分かんねぇ」
「だから! お前はいったい今どんな立場なんだよ」
「立場ってなんだ? 俺はシン・ラードヒルで、父親はめちゃくちゃ貧乏貴族だ。今さらなんで自己紹介しなくちゃなんないんだよ」

 レイは頭を抱えてベッドに腰を掛けていた。俺も立ち話もなんだから、ベッドに腰かけると、軽くはたかれた。

「痛っ! なんだよ、もう」
「男のベッドに勝手に乗るな!」
「だから、俺も男だ!」

 レイはいきなり理不尽なことを言っている。しかも若干苛立っている。エリザベスとなにかあったのかな? 機嫌の悪いレイを見るのは初めてだった。

「レイ、なにかあった? 俺、出直そうか?」
「いや、いい。というか態度悪くてすまなかった。お前はそういう奴だ、何から何まで言わないと分からない、壮絶に鈍感オメガだったな」
「むっ、鈍感オメガって、バカにしてるのか?」
「してない、むしろ心配している。お前、大丈夫か? なんならベスに言って、王子のことなんとかしてもらおうか?」
「え、いきなり何?」

 いきなりディーの話題になって驚いた。まさか、レイに俺が閨係だとバレたのか!?

「シン、お前は見た目だけは美しいオメガだ。中身は男前でも、見目は誰もが騙されてしまう」
「なんか失礼なこと言ってる?」
「違う! シンの美しさに王太子が惹かれるのも分かるが、あれはまずい。あの殿下の顔は本気の顔だった。このままじゃ、お前愛人にされてしまうぞ! お前は領地に帰りたいんだろ、もしくは貴族の嫁? それが愛人枠でいいのか!? 一生王家に閉じ込められて性を搾取されるなんて、俺は友達がそんな目に合うのを見ていられない」
「え、性を搾取? 愛人? えっ、え?」

 レイはとんでもない勘違いをしていたらしい。

「ど、どうしてそうなるんだよ」
「だってお前、殿下と言い合いして、その後馬車で連れ去られてしばらく帰ってこなかったじゃないか。殿下に聞いても何も教えてくれないどころか睨まれるし、見かねたダイス卿が、シンは親戚のところでヒートを過ごしていると教えてくれたけど、なんだか信用ならないし。それなのに、お前は一週間後ケロっと学園に戻ってきて何もなかったかのような態度だ」
 
 あの時のことを知られている?

「あの日、見ていたの?」
「俺は隣の部屋だから、言い争う声が聞こえて助けに行こうとしたら、シンが泣きながら走って行ったから、心配でお前を追ったらオメガ専用談話室に入っていった。ひとりになりたいのかと思って……でも少ししたら殿下が部屋の前で騒いで、お前が出てきてキスしたのが見えた。それで殿下がお前を抱えて馬車に乗り込んだから、お前たちは付き合っているのか?」
「違う! 違うから……」

 まさかレイにそんなところを見られていたのか……。俺はあの時ヒートで周りを気にすることなんてできなかった。

「レイ、そのとき、レイ以外でも……その、俺たちを見た人いるか?」
「いないと思う。あれはシンにとってもまずいと思って、急いで立ち入り禁止の札を置いた。オメガのいるべきところでそれがあれば、ヒートの可能性もあるから誰も近寄らないようになってる」
「そ、そうだったんだ。ありがとう」

 良かった。ディーが俺を抱えている姿を見られていなくて、学園に戻って来たとき、誰からも変な目で見られなかったのは、そういうことか。レイのサポートのお陰だった。

「レイ、なんかごめん」
「いや、いいんだけど。お前こそ大丈夫なのか? 殿下の目は本気だったぞ、捕食者の目だ。俺のことはシンと仲良い男として、妬んでいる目だった」
「そ、そんなんじゃない。けど、でも、俺と殿下のことは誰にも言わないでほしい。たとえベスにも……。俺の勝手な行動で周りに迷惑をかけたくない。あの時は、ヒートで俺自身どうかしていただけなんだ、だから!」
「そもそもなんでシンの部屋で言い争うんだよ。お前たちはいったいどういう関係なんだ」

 レイは真剣に聞いてきた。でも、閨係のことは言えない。絶対に知られてはいけない王家の秘密だ。

「……好きになっちゃいけない人を好きになった」
「……シン」
「ただの、俺の片思い」

 多分レイは知っていた。やっぱり、というような顔をした。

「殿下には婚約者がいるから、俺に想いをかけてもらえる日はない。俺が迫っただけで、俺たちはなんの関係もないんだ」
「本当に、お前はそれでいいのか?」
「いいも何も、仕方ないだろう。俺なんかが王子様を好きになったってどうにかなれるわけないし、いいんだよ。卒業したらもう会わないんだから、今だけ、少しでも会えればそれで……だから、俺が殿下を好きなことは誰にも言わないで、レイの中だけでしまっといてくれないか?」

 レイはそこで頷いてはくれなかった。むしろ、怪訝な顔をした。

「だけど、あれはお前だけの片思いじゃないはずだ。殿下の雄の目にお前だって気づいているだろう」
「雄って……でも、もし殿下が今俺にそういう想いがあったとしても、期間限定だから。あの人は卒業したら結婚するんだから」

 そうだよ、今は俺との疑似恋愛を楽しんでいるだけ。そして俺も今だけを楽しむ。そう決意したじゃないか。それでいいんだ。俺の深刻な顔に、レイはそれ以上苦言を言えなくなったのかもしれない。

「そうか。相手の方の立場を考えたら、どんなにシンを好きだとしても、簡単に愛人を囲うわけにはいかないからな。お前が踏ん切りつけられる日まで見守ってやるよ」
「レイ、ありがとう」
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