王太子専属閨係の見る夢は

riiko

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第三章 恋とは

47、レイとその友達と

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 あんな喧嘩をしてから、というか喧嘩なのかは分からないが、ちょうど翌日が休日で学園がお休みだった。休みの日にディーに会うことは無いので、その日はレイと遊ぶ約束をしていた。男と出かけるなとか、訳のわからない言いつけはこの際無視することにした。だってフィオナだって婚約者とこっそり会っているし、俺だってどこかに行ったって別に問題ないはずだ。

 それにレイほど安全な男はいない。婚約者はディーの従兄弟のベスだしな。本当ならベスにも会いたかったんだけど、忙しいらしくて仕方ないからレイと二人きりだった。

「シンは、休日にデートする相手もいないのかよ、寂しいもんだな」
「お前だって、ベスにフラれたんだろ」
「仕方ないだろう、彼女は社交の場が多いんだからな。今日はご婦人方の会合だから俺は参加できないんだよ」
「はいはい、そんな可哀想な親友と遊んでやるんだよ、俺に相手がいなくて良かっただろう」

 そんな話をして、休日のお洒落なお店でランチをしていた。そこはとても華やかで、やはりデートコースなのだろう。そんな雰囲気の中、この美丈夫と一緒に食事をしているだけで、俺はパートナーとみなされているのが悲しい。オメガは良い男といると、相手役としてしか見られないものなのだろうか。

「ところで、シンは学園を卒業したらどうするんだ?」
「ん、俺? 俺は、領地に帰りたいんだよな」
「帰りたいって、帰れない事情でもあるのか?」
「いや、うちのオヤジが、嫁に行けってうるさいから、一度結婚するべきなのかなって……」

 そうだよ、一度どこかの死にそうなじいちゃんとでも結婚したら、その後は領地に帰れるかもしれない。フィオナみたいに……ってフィオナに失礼だからそれは考えちゃダメかな。

「一度結婚って、結婚は一度でいいだろう」
「なぁ、おまえの知り合いでさ、名目上だけ結婚相手探している貴族っていない?」
「名目上ってなんだ?」
「だから、後妻でもいいし、妻がいた方がいい人? 妻の役割は果たさずになんなら別居してくれる人とかさ、身分違いの恋をして結婚できないけど、カモフラージュで結婚したい男とかいないかな?」
「お前な……。シンみたいな綺麗なオメガが婿を探しているなんて知られたら、がっつり嫁として求められる未来しか見えないぞ、お前みたいなやつを形だけおいてくれる男はいないだろう。すぐに子沢山で王都から出られないな」
「なんだよ、それ。俺、エロなしで良いんだけどな」

 そんなくだらない会話をしていたら、ある男がレイに声をかけてきた。

「あれ? レイノルド、こんな綺麗な人を連れて、お前この間婚約したばかりなのに、もう浮気か?」
「ああん? ああ、サッチーじゃんか!」
「サッチーと呼ぶな。名前をちゃんと呼べ」

 レイの友達なのか、いかにも貴族というような男がレイに話しかけて来たかと思うと、俺にウィンクしていた。うわっ、モテ男の友達はモテ男なのか!? こいつの顔面偏差値もなかなかのものだった。まぁ、ディーに叶う男はいないけどな。

「シン、俺の友達のサッチーだ。サッチー、こちらは俺の親友シンだ。ちなみに俺はエリザベス一筋で、たとえシンレベルのオメガに言い寄られてもなびくことはない」

 呆れた。こいつは友人と俺のことを言う割にはいつも、俺のことをちゃかしてくる。いい加減慣れたからもう突っ込まないけどな!

「レイノルド、俺はサチウスだ! シン殿、始めまして。俺はこいつの地元の友人、サチウス・ロジャーと申します」
「あ、初めまして。レイノルドと学園で同じクラスのシン・ラードヒルです」
「君みたいな美しい人、初めてみたよ」
「そ、ソウデスカ」

 俺の手を握って、真剣な顔で俺を口説こうとする友人に対して、レイが大笑いした。

「サッチーやめろよ、シンはこう見えて中身は男前で、そういう歯の浮くセリフは慣れてない。シンの顔が怖いことになってるぞ。美人の真顔は笑えないから止めてくれ」
「レイ、黙れ。俺の顔で笑おうとするな」
「おお、こわっ」

 俺はレイを睨みつけた。

「ところで二人はランチ? 俺も一緒にいいかな」
「なんで俺とシンの逢引にサッチーも入ってくるわけ?」

 こいつは! 逢引ってなんだよ、ベスが喜びそうな言葉をベスのいない時に言うな、言葉の無駄使いだ。

「それがさ、うっかりして。俺デートの待ち合わせを二人同時にしちゃって、まぁ修羅場? 二人とも帰っちゃったから、ひとりになっちゃたんだ」
「お前は……」

 うわっ、レイは垂れ目エロ系男子の割には、遊び人ではなくてエリザベス一筋の熱い男なのに、友達は見た目通りの遊び人かよ!?

「まあまあ、それより君は今お付き合いしている人はいる?」
「……いないけど」

 相手がいるかと言われたら、俺を抱かない閨相手はいるが、恋人がいるかと言われたらいない。それにしても馴れ馴れしいぞ、こいつは。俺がまた自分の立場を卑屈に考えることになって、ちょっとげんなりした。

「じゃあ俺とデートなんてどぉ?」
「しません」
「サッチー、シンは止めておけ。お前みたいな軽い男じゃシンはナビかない。シンは色事よりも農作業が好きなんだ」

 さすが親友というだけある。俺のことを良く分かってるじゃないか、レイ!

「へぇ、奇遇だね。俺もそういうの好きだよ、今地質学の勉強しに王都に来たから」
「お前遊びに王都に来たんじゃなかったの? そんなことしてたんだ」
「ああ、遊びはついでね。王都の女の子が可愛いからつい。目的はこっちの学者の話を聞きにね。知識を習得して、少しでも兄貴の役にたつために何か手伝えること探してさ」

 軽そうなレイの友達は、じつは真面目だった。遊び人という意味では真面目ではないが、仕事に対する想いは俺も共感した。嫡男がいるから、自分は家族のサポートに入る、俺の弟への考えと同じでちょっと感動した。

 そんなこともあり、レイの友達のサッチーとは意気投合して盛り上がった。また会おうって言ってレイと宿舎に帰り、部屋の前で別れた。そして、なんと俺の部屋には全く不釣り合いな人がいた。

「シン、おかえり」
「……ディー」
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