王太子専属閨係の見る夢は

riiko

文字の大きさ
上 下
46 / 102
第三章 恋とは

46、王太子とけんか

しおりを挟む

 学園でディーの執務室にて、ダイスが出て行った途端、激しいキスをしてきた。こいつは、しばらくは軽めのキスだったのが、なぜか今日は盛り上がっていらっしゃる。

「ん、んん、激しいのは無しって言っただろ」
「シンが可愛いのがいけない。耐えられないよ」
「じゃあ、抱けよ。そろそろ俺に仕事させる気にならないわけ?」

 ソファに俺を押し倒してキスをして、過激なことを言う割にはそれ以上のことをしようとしないことなど、もう今までの流れで分かり切っていた。だけど、俺はディーの恋人ごっこに付き合ってあげるにしても、やはり自分のこころを守るために一線を引きたい。

「仕事だなんて、そんな悲しいこと言わないで。シンは私の恋人だよ」
「俺の呼び方なんて、なんでもいいけどさ。いい加減に俺のことも使いなよ、フィオナひとりでディーの相手をしたら、フィオナだって疲れるだろ。俺を抱かないから閨日じゃない日でもフィオナを求めるんじゃないの?」
「え、フィオナから何か聞いたのか?」

 ディーが真面目な顔して、俺の上からどいた。そして俺もディーが無意識に外してきたシャツのボタンを閉めながら、ソファに座り直した。

「……何も聞いてない」
「じゃあ、なんでそんなことを言う?」

 ディーの言葉がいつもより硬く感じる。

「怒ってるの? 俺がディーの閨事情を知ったから」
「いや、怒って無いけど、何か勘違いしているんじゃないかと思って聞いているだけだよ」
「勘違いってなに? フィオナの休みの日に後宮に会いに行ったら、ディーがフィオナに良かったって言っていたのが聞こえただけ。二日連続でも抱きたいみたいな話も聞こえた」
「え! そんなこと言ってない」

 焦ったようにディーが大きな声で否定した。お前はなにを言ってるんだ。「フィオナが美し過ぎて行き過ぎた行動をしてしまう」とかなんとか言っていただろうが! 

 俺はこの耳で聞いたぞ。

「自然にいつも言っているから、覚えてないんじゃないの? どうでもいいけど。俺が仕事しないから、フィオナがその分相手して疲れてるんじゃないかと思って、俺も申し訳ないから、悪いけど俺の体で我慢しなよ?」
「我慢って、私がどれだけ我慢しているか知らないから、シンはいつも私を誘惑してくるんだ……」
「何言ってるの? というかさ、抱かないなら俺もうここには来ないよ。だって学園でディーに会うのは、たしか急にオメガにあてられたりしたときの、性欲処理って後宮官僚からはそう聞いた。それもなさそうだし、俺の必要性無いじゃん」
「どうしてそんなことを言う。私がどれだけシンを必要としているか、まだ分からない?」

 ちょっとイラついた。必要としてないから俺を抱かないんだろう。

「分かるわけないだろう! 閨係の俺の役割は王太子と寝ることだ。それをしないなら必要じゃないって、そう思う俺がおかしいの?」
「それは……だが、閨はそれだけじゃない。お互いに想い合うことも必要な要素だ。恋人同士が会えばいつも閨を共にするとは限らないだろう。私は体の欲ではない部分でシンを堪能している」
「はぁ、ごめん。それ、契約に無いから無理。俺は閨担当であって、それ以外の担当ではない」
「無理なら、どうするつもりだ? シンは私を拒むつもりか?」
「拒んでないだろう、拒んでないからこうやって体を差し出してる。あとはディーの欲望を俺のケツに入れるだけだろう、それができないなら閨係を他の奴に変えるべきだ」

 そうだよ、フィオナは好きな奴がいるのに、俺が担当するべき分まで負担をかけるわけにいかない。実際にアストンを見たら、なんだか申し訳なくなった。俺がもっとディーを誘惑できていたら、フィオナは抱かれなくて済んだかもしれないのに、むしろ多く抱かれている現状が、あの愛し合う二人に申し訳なくて仕方なかった。だったらディーが抱きたいと思う閨係に変えてもらうべきだ。

「シン、王太子の私のすることに口出しするのか? 後宮が連れてきた閨担当を、変えることができるとでも思っているのか?」
「……」

 ここまで言ってもまだ俺を抱く気はないんだな。

「分かった。じゃあ俺はもうここには来ない。せいぜい平等性を問うために、後宮では俺のことを可愛がってくれることを願っていますよ、殿下」
「シン!」

 ディーは怒鳴った。俺はさすがに驚いて固まってしまった。アルファというのもあるけれど、この国の偉い人である王太子に怒鳴られて、さすがにビビった。俺はディーを見たけど、あまりに怖い目をしているので、横を向いて目をそらした。

「……私を見ろ」
「……」
「見るんだ」

 怖い圧に負けて、顔を上げてディーを見た。やばいっ、めちゃくちゃ怒っているじゃないか。どうしよう、いくらなんでも偉そうに言い過ぎた。

「ごめんなさい」
「何に謝った?」
「態度が悪かったです」
「そこじゃない、私が怒っているのは態度じゃない。私とシンは対等だと言っただろう、書面まで交わしたのに忘れたのか?」
「え……」

 今の怒るポイントって態度じゃないの? 対等ってなに。もうこの威圧を出している時点で対等ではないような。

 ディーが俺の頬に触れてきた。俺は思わず目をつむった。やはりアルファの怒りは怖くて、叩かれるかもしれないと覚悟した。

 だが、さわさわと触るだけで、いつも通り、ディーの手は優しかった。ゆっくりと目を開けて目の前の男を見た。

「敬語を使うな、私に線を引くな、シンの怒りは分かるけど、私にも事情がある。今は全てを話せないんだ。でもシンに対する想いは本物だ、他の誰とも比べて欲しくない」
「……」
「愛している、シン。あなただけだ」
「……」
「今はこれしか言えない、でも信じて欲しい。シンのことを真剣に考えているから、だから私から離れるなんて言わないで。こうして今持てる全ての時間をシンで埋めたいんだ。ここに来ないなんて言わないで……」
「……分かった」

 うそだ、全く分からない。ディーの言っていることが全くと言っていいほど分からない、仮に俺を飽きるくらい抱いていたという実績があったなら、俺はこの言葉を信じただろうけど、今はどこにも信じる要素がない。ディーは期間限定のこころの恋人を楽しんでいるだけ、そして俺は契約終了とともに忘れ去られる存在になる。

 ディーは俺の言葉に納得はしていないだろうが、俺を抱きしめてキスをした。普通の恋人ならこれで一件落着なのだろうけれど、俺は無駄にディーと言い争って、全く意味のない時間を過ごしただけだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あなたの運命の番になれますか?

BL / 連載中 24h.ポイント:2,606pt お気に入り:69

何で僕を?

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:1,209

水の中で恋をした

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:12

異世界でエルフに転生したら狙われている件

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:401

【完結】あなたともう一度会えるまで

BL / 完結 24h.ポイント:305pt お気に入り:158

泉界のアリア

BL / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:608

初恋と花蜜マゼンダ

BL / 完結 24h.ポイント:333pt お気に入り:936

愛人がいる夫との政略結婚の行く末は?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:475pt お気に入り:2,281

処理中です...