王太子専属閨係の見る夢は

riiko

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第三章 恋とは

42、フィオナの男?

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 俺は今、まさかのとんでもないところに遭遇してしまった。

 どうしよう、こんな場面見たくなかった! これって絶対やばいやつだよ。俺たち閨担当は、この期間恋愛をしてはいけないし、契約期間は他の男と何かすることは絶対ダメなやつだ。

 それなのに、俺の目の前では俺の同僚フィオナが男と抱き合って、キスをしている。ただの挨拶のキスではないことは確かだった。遠目でも分かるくらい、濃厚なキスをしている。あれは舌を使ったやつだよね? ディーが俺にするやつ。どうしよう、どうしよう、どうしよう。

 今日、俺とディーは、ダイスとか数人の護衛を連れて約束通り孤児院への訪問をしていた。

 王太子が来たということで孤児院は凄い盛り上がりで、子供たちの元気の良さもあり、身分とか考える暇もないくらい楽しく遊んだ。俺としては体を動かすのが好きだし、身分を考えずに触れ合えることがとても楽しかった。子供相手はやっぱりいいなって思いながら、孤児院を後にして、ディーと少し王都を歩いて楽しんでいた。もちろんたくさんの護衛いるので、俺はお供のひとり、くらいの立ち位置で気負いせずに街を歩けた。
 
 ディーはデートだとか言って可愛くはしゃいでいたし、ダイスも食いしん坊を発揮して、歩きながらいろんなものを食べていた。こうしてみるとみんな俺と同じただの学生だった。

 そしてお土産を買って、ある店を出ようとしたとき、俺は衝撃的なものを見てしまった。それがフィオナの、男とのキス現場だった。まだ店内にいる俺たち。フィオナはすぐ外の噴水の前で男と抱き合っている。誰がどう見ても仲のいい恋人にしか見えない。

「シン、何してるの?」
「うっひゃっ!」

 俺がアワアワしてると、俺とフィオナの雇い主であるこの国の王太子ディートリッヒ殿下が声をかけてきた。

「可愛いな、そんな声、私以外に聞かせないでね」
「あ、あ、あ、あ」

 やばい、フィオナのキスシーンをディーに見られたら、フィオナは処罰されてしまう! 不敬罪で殺されちゃう? どうしよう、どうしよう。ディーはお店に入ったときに上着を脱いだから、王太子ですって服ではなくて、もしかしたらフィオナもディーに気が付かないかもしれない。店は貸切にしてるから、騒ぎになっていないので王太子が来ているとは誰も思っていないと思う。だからこそフィオナはキスを続けられるんだ。

 というかフィオナ、なぜ街中でそんなに密着して抱き合って、男とキスができる? もしや、あれか、スリルを味わうという上級テクニックか!?

「シン、どうしたの? そっちに何かあるの?」
「え」
「だって、そんな驚いた顔してさ」

 すかさずディーが俺の目線の先が気になったようで、そちらを見ようと振り返ろうとした。させるか! 俺はディーの頬を両手で掴んだ。ディーは驚いた顔をしたけど、とろけるような笑みを俺に見せてきた。

「どうした?」
「ディー、俺を見て」
「え、シン? 本当にどうした?」
「あ、あの、今いきなりディーと見つめ合いたくなった」

 絶対にこいつにフィオナを見せない。そう決めて、顔を俺の両手で固定した。ディーは俺を見つめて、破顔した。

「なに、シン。ここは街中だよ? シンは私と噂になってもいいの?」
「あ、だめ。だめだけど、でも目を離したくない」
「あぁ、もう! なんて可愛いんだ!」

 そう言って、ディーはあろうことか店内で俺にキスをしてきた。

「ん、んん? んんん」
「もう少し、だけ、ん、可愛いよ、シン」
「はっ、ん、んん」

 人前でまずい、と思いきやダイスがすぐにディーに布をかぶせてキスするのは王太子と分からないようにしてくれた。店の中とはいえ、すぐそこは外。店の入り口でキスをしていたら、それはもう誰からでも見える場所なんだよ。ってそこはキスはやめろといさめるところだろう! でも助かった。ダイスが立つから、誰かの目にディーの顔は見えないようになっている。俺のキス顔は丸見えだけどな! 仕方ないが、フィオナ、この借りは後で必ず返してもらうぞ!

 俺は恥じらいつつもディーにキスをされて、ちょっと本気でうっとりしていた。まさかこんな外ですることになるとは思わなかった。キスをしながら向こうを見ると、フィオナとキスしている男と目が合った。俺を見てにやってした。

 それなのにフィオナとのキスをやめないとは、いったいどういうことだ! 絶対、あいつ、俺の存在に気が付いている、というかもしかしたら王太子の存在に気が付いて、もっと燃えてしまったとか!? あっ、でも相手は閨係のことは知らないはず。たとえ王太子がそこにいようと、関係ないからキスをやめることはないか。ああ、いったいどうしたらいいんだよぉ。するとディーがキスをやめようと唇を離した。

「ふっ、んん、はっ、だめ、ディーやめないで」
「どうしたの? 人前でするのも嫌がるのに、まだするの? 嬉しいけど」
「するの! ん、気持ちいいね」
「あ、ああ」

 俺から舌を絡めて、もっと濃厚なのをした。すると向こうのキスが終わったみたいだ。そして男に言われたのか、フィオナが振り返ってこっちを見て、気が付いたみたいで赤い顔をした。

 俺はディーに抱きつきながらも、手でフィオナに早く行けと指示をすると、フィオナは俺に頷いて、男の手を取り去っていった。男は面白そうに俺を見てぅウィンクしてきた。くそっ、誰のせいで俺が街中でエロいキスをしたと思っていやがる!

「ん、ディー、もう終わりだ」
「えっ、火をつけたんだから、もっとだ」
「え、んんん、はなせぃっ、ここは公共の場所だ、わきまえろ!」
「酷い、シンから強請ねだってきたくせに」
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