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第三章 恋とは
34、打ち解けた関係性
しおりを挟む俺は順応性が高いのか、あれからディーと普通の関係になった。普通ではないけれど、気負いせず、なんなら親友のレイに接するよりも親しくしているかもしれない。全く気負わなくなって、気遣いがなくなった。執務室では好きに過ごしているのは相変わらずだけど、ダイスの前でも前より気さくになった。
「シン、いつもありがとう」
「ああ、シン君ありがとう。助かるよ」
二人は今とても忙しいらしくて、書類仕事に追われていた。だから俺がお茶を淹れて給仕をしていると、二人はお礼を言ってくれる。従者みたいなことをしているような気もしないが、俺がする行動に、二人はいつも気にして感謝を伝えてくれるから、やって当たり前とは思っていないようだ。だから従者とも違うといえる。特にディーが必ずっていうほど過剰な反応を示してくれる。
「ああ、シンが淹れてくれたお茶を飲むと、なぜだか疲れが取れる」
「俺よりダイスの淹れたお茶の方が旨いだろ?」
「そんなことない、愛情を感じる」
さらっと恥ずかしいことを言うディーに、ぼそりとダイスも言う。
「俺だってお前に愛情もって注いでるわ!」
「友情だろ?」
「そうとも言う。たしかにシン君みたいな綺麗な子に淹れてもらった茶は格別だな」
ダイスはそう言って、俺の方を見てほほ笑んだ。この男は、レイ並みに罪深い男じゃないか? 俺は惚れないけど、こんな風に笑顔を見せられたら、たまらないだろう。そしてレイと同じように、さらっと俺のことを綺麗とか言うし。
「シンは私のものだ。なぜダイスがシンの淹れた茶を飲んでいる!?」
「そこかよ! 俺だって頑張ってディーの仕事手伝っているんだから、飲んだっていいだろ!」
「なぜか嫌だ。そうだ、ダイスの茶は私が淹れよう」
「茶を淹れる暇があるなら、目の前の書類を片付けろ!」
というように、親友二人の話を聞いているのはとても楽しい。俺が気安くなったからか、前よりも二人のやり取りが気さくになっていたのを見て、俺は嬉しかった。ディーは俺の方を見て、可愛い顔でなんだか可愛いことを言ってきた。
「シン、キスをしてくれたらはかどる気がする」
「はいはい」
これはいつものことだから、俺はそれに従った。ディーのところに行くと、顔に両手を当ててダイスに見えないように、ちゅっとした。さすがにキスだけは慣れた。始めの頃はダイスの前でするのが恥ずかしくてたまらなくて、でも人前でしないで欲しいと、王子相手に命令はできなかったので恥ずかしさに耐えていたら、次第にダイスの前では濃厚ではない挨拶くらいのキスになったので、ディーは言わないのに感じ取ってくれた。
だから俺も触れるくらいのキスなら、見えないようにする。それくらいしてあげないと、俺相手に譲歩してくれているディーに申し訳ないし、仕事のやる気がでるなら、これくらいなんてことない。というか俺もディーにキスしたいからむしろ嬉しい。
「シン、ありがとう。これで仕事が続けられるよ」
「良かったな」
満面の笑みを浮かべるディーを愛しいと思った。
言葉遣いも、態度も、することも、普通の恋人みたいな自分がいた。本当に馴れとは怖いものだが、これも期間限定。そう思うと、あまり深入りしないようにしなければと自分を諫めることも忘れない。ディーは素直になってくれて嬉しいと言うが、決して素直になったわけじゃない。これは演技、これは後宮から言われた指示に的確に従っているだけ。殿下のしたいようにさせてあげて、自分は殿下を愛さない。自分からは愛を乞わない。殿下が俺を好きだと言うのは、アリらしいというのは最初に聞かされたことだ。俺はそれを忘れてはいけない。
愛しいと思っても、愛しているわけではない。
これは恋人のふりだ。恋人を持つことを許されない王太子が、結婚前の最後に見る夢。それを俺は叶えてやる、それだけだ。
仕事が終わるとディーは俺を抱きしめる。その頃にはダイスはそっと部屋を出ていき、俺とディーの愛の時間が始まる。キスをして、そして俺の胸を愛撫して、たまに俺の服を全てはぎ取り、俺を可愛がってくれる。だけどディーは決してその先にはいかなかった。俺を絶対抱かないのに、恋人のような雰囲気は日に日に増えてゆく。ディーの目が俺を好きだと言う、もちろん言葉でも好きだと言ってくる。俺からは言わない、嘘でもそれだけは言えない。それを言ったら、もう俺はこの閨係ではいられなくなるから。
それでもディーは俺にその言葉までは求めずに、好き勝手に俺を好きだとか可愛いとか言うだけ。俺はそれを言われるたびに心の奥がぎゅっとすると同時に、オメガの何かが開花されていくような気持になる。
俺はいつしか自分がディーをどう想っているのか考えないようにしていた。
「シン、可愛い、可愛い、好きだよ、シン。あなただけだ」
「ディー、嬉しい。キス、もっとキスして?」
「ああ、沢山しよう」
そんな風に、毎日執務室でキスをしていた。それなのに、学園にいる間、俺はディーに抱かれる日が来ることはなかった。
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