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第二章 学園生活
33、変わる関係
しおりを挟む沈黙を続けた俺に、ダイスが言葉を発した。
「シン君、シン君が慎重になるのも、俺は分かるよ。だからそんな悲しい顔を見せないで。君が望んだことは正当なことだ。閨相手である君が、たとえ殿下から望まれても対等になれないのは良く分かる。だからその慎重な行動も正しいと思う。ただ書面には驚いたけどね、でもいいよ。我儘なディーにはそれくらいの方が、ちゃんと気持ちは伝わるから」
「え……」
俺はダイスを見上げた。ダイスは絶対に怒っているし呆れていると思っていたから、その言葉に驚いた。
「ディー本人の言葉にはなんの重みも無い。だって王子様が言ったことなんて、そんなこと知らないという、その一言で覆される可能性だってあるんだ。だから君の慎重さを俺は尊敬する」
「ダイス様は、僕がわがままだと思いませんか?」
「思わない。ほら、もう書面にしたから敬語はなしだよ。俺のこともダイスと呼び捨てにすることって、ここに書いてあるよ。俺にも気安く話して、君が書面にさせたんだから、君こそ約束は守るべきだ」
そこまで書いてあるのは、見落とした。驚いた、上位貴族であるダイスまで俺に友人みたいな扱いを許すのか?
「でも」
「シン君、約束は守って。君が正式な書面を望んだんだよ」
「う、わかった……ダイス」
「ありがとう、シン君」
「じゃあ、ダイスも、オ、オレを呼び捨てでもいいんじゃない?」
「それは、ほら。俺は人のオメガに気安くして、恨まれたくないからね。俺はシン君って呼んだ方が精神安定にいいみたい。むしろうちの王子様がわがままでごめんね」
ダイスに謝られた。俺こそダイス様って呼んだ方が精神安定はいいんだけど……。それにしても、俺は今日ほどディーやダイスの話す言葉に驚いてばかりだった日はない。
「ダイス、もういい。後は二人で話すから、少し席を外してくれないか?」
「ディー、お前もほどほどにしろよ。今のお前が何をしても誠意は感じられない、分かったか?」
「ああ、重々承知している」
そう言い残してダイスは部屋を出た。
「シン、怖い思いをさせてすまない。書面が欲しいという言葉まで出させたこと申し訳なく思っている。私が簡単に言った言葉にはなんの重みも無いことは分かっている。でもシンにとっては、私のお願いひとつとっても重く受け止めてしまうのも、もう少し考えればよかった」
「え、いや、ディーがそんな風に思うことは、無いです」
「無いです?」
「思うことは……無いよ」
ディーは俺の言い直した言葉を聞いて、嬉しそうに笑った。俺は、なんだか勘違いしてしまいそうになる。
「いつかは本当に対等になりたいと思っている。だから今は形だけだが、こうやって私とダイスの前だけでは、本当のシンを出してくれると嬉しい」
「う……ん」
「好きだよ、シン」
「……」
さすがに王太子の言葉を否定することも言えなくて、今まで過ごしてきてしまった。この「好き」は実は本心なのだろうか? 閨担当に言う挨拶みたいなものだと思って見過ごしてきたけど、でも今になってこの言葉が重く心に響いてくるのは、なぜだろう。
「今はそれでいい。何も反応がなくとも、私は好きな言葉を発する。それだけは許して欲しい」
「ディーが言うことを、俺なんかが止めることはできないし、自由に過ごしなよ」
「俺なんかなんて言わないで。シンは私にとっての奇跡だ」
「ディーは変わってるね。本当にいいの? こんな風に思っていることをずけずけと、王太子相手に言っても」
「構わない、私がそれを望んだから」
そうしてディーは俺にキスをした。優しく、触れるだけのキスをした。なんだか、今日は初めて見るくらい、控えめなディーで俺はどうしていいか分からなかった。
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