王太子専属閨係の見る夢は

riiko

文字の大きさ
上 下
33 / 102
第二章 学園生活

33、変わる関係

しおりを挟む
 沈黙を続けた俺に、ダイスが口を開く。

「シン君」
「はい」

 ダイスを見ると、怒っている顔はしていなかった。むしろ少し困ったような顔をしていた。

「シン君が慎重になるのも、俺は分かるよ。だからそんな悲しい顔を見せないで。君が望んだことは正当なことだ。閨相手である君が、たとえ殿下から望まれても対等になれないのはよく分かる。だからその慎重な行動も正しいと思う。ただ書面には驚いたけどね、でもいいよ。我儘なディーにはそれくらいの方が、ちゃんと気持ちは伝わるから」
「え……」

 ダイスは絶対に呆れていると思っていたから、その言葉に驚いた。

「ディー本人の言葉にはなんの重みも無い。だって王子様が言ったことなんて、そんなこと知らないという、その一言でくつがえされる可能性だってあるんだ。だから君の慎重さを俺は尊敬する」
「ダイス様は、僕がわがままだと思いませんか?」
「思わない。ほら、もう書面にしたから敬語はなしだよ。俺のこともダイスと呼び捨てにすることって、ここに書いてあるよ。俺にも気安く話して、君が書面にさせたんだから、君こそ約束は守るべきだ」

 そこまで書いてあるのは、見落とした。驚いた、上位貴族であるダイスまで俺に友人みたいな扱いを許すのか?

「でも」
「シン君、約束は守って。君が正式な書面を望んだんだよ」
「う、わかった……ダイス」
「ありがとう、シン君」
「じゃあ、ダイスも、オ、オレを呼び捨てでもいいんじゃない?」
「それは、ほら。俺は人のオメガに気安くして、恨まれたくないからね。俺はシン君って呼んだ方が精神安定にいいみたい。むしろうちの王子様がわがままでごめんね」

 ダイスに謝られた。俺こそダイス様って呼んだ方が精神安定はいいんだけど……。それにしても、今日ほどディーやダイスの言葉に驚いてばかりだった日はない。

「ダイス、もういい。後は二人で話すから、少し席を外してくれないか?」
「ディー、お前もほどほどにしろよ。今のお前が何をしても誠意は感じられない、分かったか?」
「ああ、重々承知している」

 そう言い残してダイスは部屋を出た。

「シン、怖い思いをさせてすまない。書面が欲しいという言葉まで出させたこと申し訳なく思っている。私が簡単にはなす言葉にはなんの重みがないことは分かっている。でもシンにとって私のお願いは、ひとつとっても重く受け止めてしまうということを、もう少し考えればよかった」
「え、いや、ディーがそんな風に思うことは、ないです」
「ないです?」
「思うことは……ないよ」

 ディーは俺の言い直した言葉を聞いて、嬉しそうに笑った。俺は、なんだか勘違いしてしまいそうになる。

「いつかは本当に対等になりたいと思っている。だから今は形だけだが、こうやって私とダイスの前だけでは、本当のシンを出してくれると嬉しい」
「う……ん」
「好きだよ、シン」
「……」

 さすがに王太子の言葉を否定することも言えなくて、今まで過ごしてきてしまった。この「好き」は実は本心なのだろうか? 閨担当に言う挨拶みたいなものだと思って見過ごしてきたけど、でも今になってこの言葉が重く心に響いてくるのは、なぜだろう。

「今はそれでいい。何も反応がなくとも、私は好きな言葉を発する。それだけは許して欲しい」
「ディーが言うことを、俺なんかが止めることはできないし、自由に過ごしなよ」
「俺なんかなんて言わないで。シンは私にとっての奇跡だ」
「ディーは変わってるね。本当にいいの? こんな風に思っていることをずけずけと、王太子相手に言っても」
「構わない、私がそれを望んだから」

 そうしてディーは俺にキスをした。優しく、触れるだけのキスをした。なんだか、今日は初めて見るくらい、控えめなディーで俺はどうしていいか分からなかった。
しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

事故つがいの夫は僕を愛さない  ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】

カミヤルイ
BL
2023.9.19~完結一日目までBL1位、全ジャンル内でも20位以内継続、ありがとうございました! 美形アルファと平凡オメガのすれ違い結婚生活 (登場人物) 高梨天音:オメガ性の20歳。15歳の時、電車内で初めてのヒートを起こした。  高梨理人:アルファ性の20歳。天音の憧れの同級生だったが、天音のヒートに抗えずに番となってしまい、罪悪感と責任感から結婚を申し出た。 (あらすじ)*自己設定ありオメガバース 「事故番を対象とした番解消の投与薬がいよいよ完成しました」 ある朝流れたニュースに、オメガの天音の番で、夫でもあるアルファの理人は釘付けになった。 天音は理人が薬を欲しいのではと不安になる。二人は五年前、天音の突発的なヒートにより番となった事故番だからだ。 理人は夫として誠実で優しいが、番になってからの五年間、一度も愛を囁いてくれたこともなければ、発情期以外の性交は無く寝室も別。さらにはキスも、顔を見ながらの性交もしてくれたことがない。 天音は理人が罪悪感だけで結婚してくれたと思っており、嫌われたくないと苦手な家事も頑張ってきた。どうか理人が薬のことを考えないでいてくれるようにと願う。最近は理人の帰りが遅く、ますます距離ができているからなおさらだった。 しかしその夜、別のオメガの匂いを纏わりつけて帰宅した理人に乱暴に抱かれ、翌日には理人が他のオメガと抱き合ってキスする場面を見てしまう。天音ははっきりと感じた、彼は理人の「運命の番」だと。 ショックを受けた天音だが、理人の為には別れるしかないと考え、番解消薬について調べることにするが……。 表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

処理中です...