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第二章 学園生活
32、変わりない日常
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あの執務室での逢瀬から、たびたび殿下から呼び出されては学園にある殿下の執務室に会いに行っていた。それなのに後宮で決まっている日は、ちゃんと後宮でも会っていた。ちょっと会い過ぎじゃない?
こんなにも会っているのに、後宮でも学園でもいまだに俺は抱かれていなかった。きっとフィオナのことは抱いて、俺は暇つぶしの話し相手くらいになっているのだろうと思った。というか殿下、もといディーは決して暇ではないように見える。
形式として二人の閨担当がいるが、そこまで精力的にこなしたくないのだろう。だから俺とフィオナをちゃんと使い分けているのだと思った。
ディーとの会話は思った以上に楽しかった。相変わらず気を使って敬語で話しているけれど、「ディー」と呼び捨てにしているから、なんとなく気安い関係みたいになった。ダイスは放課後になると、俺を連れ出して執務室に送ってくれて、帰りも宿舎まで送り届けてくれる。気づけば、毎日ディーと会っていた。
たまにとっても忙しい日があるみたいで、ディーとダイスの二人でわちゃわちゃやっているから、帰ろうとしたら、ここで勉強をしていけばいいと言われて、二人が仕事中に大人しく勉強したり、本を読んだり、お茶をしたりと自由にしていた。
あれ? これって友達と家でぐうたらしている感じに近くない? まったく緊張しないし、楽だった。
それに勉強もディーが見てくれるから、成績も上がってきて嬉しいことだらけだ。いつも何をするでもなく、話したり、勉強を見てくれたり、ディーもたまっている仕事をしたり、気兼ねなく過ごしている。
そして会うと必ず濃厚なキスをする。それも何回も。そこだけは普通の友達と違うけれど、でもそれだけ。いやらしいことは初めの頃に色々されたのが嘘のように、全くない。キスをするだけだった。
そんなある日、ディーがまた突拍子もないことを言ってきた。
「シン、私たちはそろそろ次のステップに進むべきだと思うんだ」
「次のステップですか?」
ディーが真面目な顔をした。今度は何を要求されるのだろう。ついに、閨か!? 次のステップ、それはすなわち開通式!?
「友達のように気安く話して欲しい。この部屋では私にもダイスにもかしこまった話し方はしないで欲しい」
「へ?」
ステップってなんだっけ。次に行くところがしゃべり方? なんだか清い交際のステップじゃない? コノヒト、俺が閨係だってこと、忘れてない?
「私のお願いが、聞けない?」
「いや、いいんですけど。そんなことをディーは望んでいるんですか?」
「ああ、シンも私にあの伯爵子息に話すみたいにして欲しい。私の前だからと敬語を使ったり、かしこまられのは寂しい。私は本当のシンと過ごしたい」
「本当の?」
「つくろわないシン。これから裸の付き合いを、いやそれ以上の仲になるのだから、心もお互いに裸になるべきだと思わないか?」
裸の付き合い以上の仲ってなんだろうと、俺は首を傾げた。
ということは……ディーは俺を抱く気はあるのか。裸の付き合いって言うからには、抱くってことだよな。最近のディーは恋人より友達が欲しかったのかと思っていたが、そこは違ったのか。俺みたいなオメガは友達ではないし、一応キスはするから、やはり性欲処理なのだろう。俺は自分の立場をわきまえるべきだった。最近、この緩やかな空間にあぐらをかいていた。
そしてディーからの要求は敬語をやめること。しゃべり方を変えるくらいで、心が裸になるのかな? ちょっと言っていることが分からなかった。
「シン、お願いだ」
そんな熱い目で見られたら断れない。これって不敬にならないのかな。
「でも、自分みたいな底辺の人間が、ダイス様と同じような口調をディーになんて、周りが見たら驚きますし、怒られます」
「たしかに私たちは秘密の関係だったな、仕方ない。関係を公にできるまでは我慢するから、二人の時だけは対等な恋人みたいに、甘い時間を過ごしてくれないか?」
関係を公にはできないだろう。っていうか公にされても困る。俺が男に体を売っていたと世間に知られるのは大変に屈辱的だ。
「さすがに僕が閨係だと公にされるのは困りますし、ディーもそんな存在がいたと知られるのは不服ではございませんか?」
「いや、もちろん閨係という存在は今後誰にも知らせない。それは契約通りだ。そこじゃなくて、私と対等な恋人になって欲しい」
この方は、何をおっしゃる?
「対等な恋人ってなんですか? あの、僕は閨係ですよ」
「閨係だろうと、キスもしてお互いのフェロモンに満たされている。それこそやってることは恋人同士がすることだろう」
恋人同士……。知らない人が、俺とディーの過ごし方を見たら、そう見えなくはないかもしれない。でも、恋人に見えたら俺の人生が終わる。ディーの婚約者から暗殺されるかもしれない。そもそも王子に恋をしてはいけないと言われていたのだから、職務放棄とみなされ後宮から家が処罰を受ける。
「シン、お願いだ。私の前でだけは本当のシンを見せて欲しい」
「本当の僕って、ディーにとって敬語を使わないことですか?」
ディーははっとした顔をする。
「痛いところを突くね。形だけを繕ったところで、シンが手に入ったことにはならないのは分かる。だけど今はまだ形からだけでも恋人みたいになりたい」
「ディーのおっしゃることは、ときどき難しいです」
「簡単に考えて。ううん、考えなくてもいい。ただ私の前でシンの全てをさらけだして欲しい。愛称呼びをしたように、少しずつ殻を破って、今度は友人と接するような言葉遣いをする。それだけだ、難しいことじゃない」
要は、レイと話すような言葉遣いを望んでいると。
「不敬に問われませんか?」
「問わないよ」
「……書面にしてください」
ディーはそれを聞いて悲しそうな顔をした。だけど、そんな顔をしながらも了承してくれた。そしてダイスを呼び、俺に話したことを書面にした。ダイスは、書面を作らせるなんていったいどういうつもりだと、俺のことを敵視したかもしれない。俺はガサツだけど、そんなやんちゃな育てられ方をしていない。さすがに一国の王子相手にそこまでの無礼はできないし、俺の行動一つで家を潰されかねない。だから俺は慎重になった。
「シン、作ったよ。これで私を少しは認めてくれるか?」
「……」
さすがにこの行動はやりすぎだと思って、自分でも情けなくなった。そんな俺にディーは、咎めることなく優しく対応をしている。
「シン、君を怒らせたり悲しませたりしたいわけじゃないんだ。ただ君と対等でいたい。君の言うとおりにこんな書面までつくる私を、君は情けないと思うだろうが、今はこれが精いっぱいなんだ」
どうしてこんな下手に出るのだろう。命令すればなんでも手に入る人だし、明らかに俺の要求はおかしいと思う。一国の王子相手に俺は書面を作らせた。それなのに、どうしてこんな悲しそうな顔をするんだよ、さすがに俺の心が痛んだ。
「シン、私は君を大切に思っている。親友のダイスの前で誓う、彼が見届け人だ」
俺はなんだか悲しくて辛くて何も言えなくなった。
こんなにも会っているのに、後宮でも学園でもいまだに俺は抱かれていなかった。きっとフィオナのことは抱いて、俺は暇つぶしの話し相手くらいになっているのだろうと思った。というか殿下、もといディーは決して暇ではないように見える。
形式として二人の閨担当がいるが、そこまで精力的にこなしたくないのだろう。だから俺とフィオナをちゃんと使い分けているのだと思った。
ディーとの会話は思った以上に楽しかった。相変わらず気を使って敬語で話しているけれど、「ディー」と呼び捨てにしているから、なんとなく気安い関係みたいになった。ダイスは放課後になると、俺を連れ出して執務室に送ってくれて、帰りも宿舎まで送り届けてくれる。気づけば、毎日ディーと会っていた。
たまにとっても忙しい日があるみたいで、ディーとダイスの二人でわちゃわちゃやっているから、帰ろうとしたら、ここで勉強をしていけばいいと言われて、二人が仕事中に大人しく勉強したり、本を読んだり、お茶をしたりと自由にしていた。
あれ? これって友達と家でぐうたらしている感じに近くない? まったく緊張しないし、楽だった。
それに勉強もディーが見てくれるから、成績も上がってきて嬉しいことだらけだ。いつも何をするでもなく、話したり、勉強を見てくれたり、ディーもたまっている仕事をしたり、気兼ねなく過ごしている。
そして会うと必ず濃厚なキスをする。それも何回も。そこだけは普通の友達と違うけれど、でもそれだけ。いやらしいことは初めの頃に色々されたのが嘘のように、全くない。キスをするだけだった。
そんなある日、ディーがまた突拍子もないことを言ってきた。
「シン、私たちはそろそろ次のステップに進むべきだと思うんだ」
「次のステップですか?」
ディーが真面目な顔をした。今度は何を要求されるのだろう。ついに、閨か!? 次のステップ、それはすなわち開通式!?
「友達のように気安く話して欲しい。この部屋では私にもダイスにもかしこまった話し方はしないで欲しい」
「へ?」
ステップってなんだっけ。次に行くところがしゃべり方? なんだか清い交際のステップじゃない? コノヒト、俺が閨係だってこと、忘れてない?
「私のお願いが、聞けない?」
「いや、いいんですけど。そんなことをディーは望んでいるんですか?」
「ああ、シンも私にあの伯爵子息に話すみたいにして欲しい。私の前だからと敬語を使ったり、かしこまられのは寂しい。私は本当のシンと過ごしたい」
「本当の?」
「つくろわないシン。これから裸の付き合いを、いやそれ以上の仲になるのだから、心もお互いに裸になるべきだと思わないか?」
裸の付き合い以上の仲ってなんだろうと、俺は首を傾げた。
ということは……ディーは俺を抱く気はあるのか。裸の付き合いって言うからには、抱くってことだよな。最近のディーは恋人より友達が欲しかったのかと思っていたが、そこは違ったのか。俺みたいなオメガは友達ではないし、一応キスはするから、やはり性欲処理なのだろう。俺は自分の立場をわきまえるべきだった。最近、この緩やかな空間にあぐらをかいていた。
そしてディーからの要求は敬語をやめること。しゃべり方を変えるくらいで、心が裸になるのかな? ちょっと言っていることが分からなかった。
「シン、お願いだ」
そんな熱い目で見られたら断れない。これって不敬にならないのかな。
「でも、自分みたいな底辺の人間が、ダイス様と同じような口調をディーになんて、周りが見たら驚きますし、怒られます」
「たしかに私たちは秘密の関係だったな、仕方ない。関係を公にできるまでは我慢するから、二人の時だけは対等な恋人みたいに、甘い時間を過ごしてくれないか?」
関係を公にはできないだろう。っていうか公にされても困る。俺が男に体を売っていたと世間に知られるのは大変に屈辱的だ。
「さすがに僕が閨係だと公にされるのは困りますし、ディーもそんな存在がいたと知られるのは不服ではございませんか?」
「いや、もちろん閨係という存在は今後誰にも知らせない。それは契約通りだ。そこじゃなくて、私と対等な恋人になって欲しい」
この方は、何をおっしゃる?
「対等な恋人ってなんですか? あの、僕は閨係ですよ」
「閨係だろうと、キスもしてお互いのフェロモンに満たされている。それこそやってることは恋人同士がすることだろう」
恋人同士……。知らない人が、俺とディーの過ごし方を見たら、そう見えなくはないかもしれない。でも、恋人に見えたら俺の人生が終わる。ディーの婚約者から暗殺されるかもしれない。そもそも王子に恋をしてはいけないと言われていたのだから、職務放棄とみなされ後宮から家が処罰を受ける。
「シン、お願いだ。私の前でだけは本当のシンを見せて欲しい」
「本当の僕って、ディーにとって敬語を使わないことですか?」
ディーははっとした顔をする。
「痛いところを突くね。形だけを繕ったところで、シンが手に入ったことにはならないのは分かる。だけど今はまだ形からだけでも恋人みたいになりたい」
「ディーのおっしゃることは、ときどき難しいです」
「簡単に考えて。ううん、考えなくてもいい。ただ私の前でシンの全てをさらけだして欲しい。愛称呼びをしたように、少しずつ殻を破って、今度は友人と接するような言葉遣いをする。それだけだ、難しいことじゃない」
要は、レイと話すような言葉遣いを望んでいると。
「不敬に問われませんか?」
「問わないよ」
「……書面にしてください」
ディーはそれを聞いて悲しそうな顔をした。だけど、そんな顔をしながらも了承してくれた。そしてダイスを呼び、俺に話したことを書面にした。ダイスは、書面を作らせるなんていったいどういうつもりだと、俺のことを敵視したかもしれない。俺はガサツだけど、そんなやんちゃな育てられ方をしていない。さすがに一国の王子相手にそこまでの無礼はできないし、俺の行動一つで家を潰されかねない。だから俺は慎重になった。
「シン、作ったよ。これで私を少しは認めてくれるか?」
「……」
さすがにこの行動はやりすぎだと思って、自分でも情けなくなった。そんな俺にディーは、咎めることなく優しく対応をしている。
「シン、君を怒らせたり悲しませたりしたいわけじゃないんだ。ただ君と対等でいたい。君の言うとおりにこんな書面までつくる私を、君は情けないと思うだろうが、今はこれが精いっぱいなんだ」
どうしてこんな下手に出るのだろう。命令すればなんでも手に入る人だし、明らかに俺の要求はおかしいと思う。一国の王子相手に俺は書面を作らせた。それなのに、どうしてこんな悲しそうな顔をするんだよ、さすがに俺の心が痛んだ。
「シン、私は君を大切に思っている。親友のダイスの前で誓う、彼が見届け人だ」
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