王太子専属閨係の見る夢は

riiko

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第二章 学園生活

31、愛称呼び

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 殿下はシャツを着ると、またこちらにきた。今度は抱きしめるような座り方ではなく、俺の隣に腰をかけた。でも、肩はぶつかるくらい近い。距離感!

「シンはあの伯爵子息のことを、そんなに気安く呼んでいるの?」

 殿下はやたらとレイのことを気にするなぁ。ベスの男だからか?

「はい。長い名前だから愛称で呼んで欲しいって言われて、ちなみにエリザベス様のこともご本人からベスって呼んで欲しいと言われてそうしています」
「エリザベスとも仲良くなったんだね。なら、私のことはどうしていつまでも殿下なの? 仮にも恋人みたいな関係なのに、私のことも愛称で呼んでくれてもいいと思わない?」
「恋人みたいな? え……愛称?」
「ディーって呼んで欲しい」

 え……無理。友達と王子様では格が違うだろう。それに閨係を恋人みたいな関係って、この人いつもこうやって担当を二人同時に恋人疑似体験でもしているのだろうか? 器用な男だ。殿下は恋をしたいんじゃないかって、フィオナは俺に言った。フィオナは殿下から、恋人のような関係でいようと直接言われていたのかもしれない。それを俺に伝えただけだ。なんだか、複雑な気持ちになった。

 でも俺もこれでやっと、フィオナと同じ土俵に立てたってことか?

「シン? 呼んで」

 頭の中でいろいろと思っていたら、殿下は期待を含めた目で見てきた。

「ディ……無理ですっ」
「どうして?」

 どうしてって……。フィオナー、愛称呼びしているなら、その話も事前に教えて欲しかった。俺はそこまで度胸がないぞ。フィオナもこれを乗り越えて、この国の王太子殿下を「ディー」呼びしているのか!? さすが年上オメガだ。俺は今、ひそかにフィオナを尊敬した。

「だって、殿下は王子様で、僕なんかが名前すら呼ぶ権利はありません」
「本人が頼んでいるのに?」
「でも……」
「親しくなるには愛称を呼ぶことからじゃない? シンは私にだけは気安くしてくれないね。寂しいな、これから体を交える相手なんだから心の内も見せ合いたいし、仲良くなりたい。私がこんなにお願いしても、シンは殿下って呼ぶの?」

 もしかして体を交える前に乗り越える壁なのか!? もし、俺が殿下を愛称で呼んだら、その時は抱いてもらえるのか? やっと閨係として一人前になれる? いやいや、一人前ってなんだよ、閨係なんて一生で一度だから一人前にならなくてもいいだろう。

「シン? これは二人だけの秘密だよ。だから怖がらないで、早く……」

 これはもう、言わなければこの会話が終わらない。そう思って、俺は勇気を振り絞った。どうせ聞いているのは王太子だけ。他の人に聞かれたら暗殺されそうだが……二人の秘密なら、いいか。いいのか?

「ディー……、様?」
「敬称はいらない」

 殿下は少年のように目を輝かせて俺を見る。そんな目をされたら答えないわけにいかないよ。

「ディー?」
「うん! シン、ありがとう」

 こうしてみると同じ年なんだって思えるくらい、屈託なく笑った顔が可愛いと思った。そして、なぜかお礼を言われてしまった。

「ねぇ、シンはどんなところで育ったの?」

 いきなり日常会話ですか? 俺は答える。

「えっと、領地は王都から馬車で二日くらいかかるところで、自然に溢れていました」
「うん、それで? いつも何をして過ごしていたの?」

 愛称呼びをしたから、ついに本業をこなすときかと思ったが、会話が続く予感がした。俺の仕事はしなくていいのかな? 

「ど、同年代の領地の男たちと森に入ったりして、木を伐ったり薪を作ったり……ですかね」
「それは偉いね。だから体も健康的に締まっていて、腕もこんなにいい色なんだね。でも服の下は白くて官能的だけど」

 殿下は俺のお腹を服の上から触った。

「袖が邪魔でよく腕まくりしていたので、腕はいつも焼けてしまって。オメガらしくないですよね。ほら、殿下のもうひとりの閨担当は、とても可愛くて可憐で肌ももちもちしてそうですよね」
「そうだったか? あまり見てないから分からないな」
「えっ?」

 さっきまで少年のように俺の話を聞いていた顔とは思えないくらい、フィオナの話をふったらそっけない顔をした。

「私はシンの肌の方がよっぽどセクシーで興奮するよ?」
「……」

 嘘だろう。あんなオメガって感じの男を前に興奮しないのか? 肌なんて触り心地良さそうじゃないか。俺だって触ってみたいよ。

「そんな話よりさ、シンは森が好きなら今度二人きりで遠出をしてみない? 馬は乗れる?」
「馬は乗れますけど、殿下が馬に乗って遠くへ行ってもいいんですか?」
「……愛称」
「あっ、ディー。ディーも馬に乗るんですか?」
「乗るよ、馬は好きだ。シンも好き?」
「好きです! 僕は動物が全般好きですね」

 いつの間にか殿下とは友達と話すみたいに、自然に会話ができるようになっていた。
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