王太子専属閨係の見る夢は

riiko

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第二章 学園生活

26、俺のままで

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 負担じゃないって……さすが経験者は違うな。

 あの「精力満タンです」みたいな殿下の相手をひとりでこなしているのに、負担じゃない? こんなに必死になるってことは、もしかしてフィオナは殿下のことを好きなのか? でも嫁ぐ相手はもう決まっているって聞いたけど、どういうことだ。

「シン君、君は経験がないわけだし、殿下は慎重になっているだけだよ。いつかきっと殿下に抱かれる日は、絶対に、嫌でも絶対にくるから」

 フィオナが熱を帯びた目で俺を見て、真剣に伝えてくる。抱かれる日は絶対にくる。なんて熱を込めて言われたところで、これは嬉しいことなのか?

「え、そうかな? 俺なんだか申し訳なくって。閨係として俺はここに来て、王立学園まで通わせてもらっているし、家は金も仕事をもらった。それなのに俺だけは何も仕事をしないで、贅沢をさせてもらっているから」
「そんなこと、シン君が気にする必要ないよ」

 フィオナは俺の手を取って……俺を慰めてくれている? 別に慰めてほしくて言っているわけじゃない。俺は言葉を続けた。

「それに、俺のことは抱きたくないんだと思う。そんな相手がいつまでも閨係にいたら殿下も負担じゃないかな。きっと後宮が連れてきたオメガだから拒否権ないんじゃない? 抱きたくない相手でも抱けることが課題でもあるって、前にあのオジサンが言ってたし」
「あのオジサン?」
「後宮官僚。ほら、王太子は子作りも大切な仕事だろう? だから閨係がいるって。政略結婚だろうと、好きじゃない嫁だろうと、たとえどんな状況でも嫁を抱かなければいけないという忍耐も、閨係で身につけるんだって」
「そんなこと言われたの?」
「うん。フィオナは経験者だから問題ないだろうけど、俺は未経験だから。あのオジサンに閨係とはっていう話を散々聞かされたんだよ」

 そうだった。初めて後宮でお仕事をする日、医師の診察の後にあの後宮官僚という偉いオジサンから教育を受けた。閨係はただ殿下の熱を発散するのではなく、とても大事な仕事なのだと言われた。

 殿下が相手に興奮することは、すなわち次の王太子を作ることに繋がる。嫁を抱いて、子種を確実に仕込まなければならない。だから結婚するまでにその技を得るには、歴代の閨係の指導が必要だった。そして最後に俺という処女。慣れない相手を抱くことはとても大切なこと。なぜなら婚約者も処女だから。そう言われたのに、俺はいまだに抱かれていない。

「シン君は辛い思いをしたね」
「いや、俺は辛くないよ。だって抱かれていないんだしさ」
「そ、そう? でもさ、そんなに抱かれることにこだわっているってことは、殿下のこと好きになっちゃった? だから早く抱かれたいって思ってる?」

 真面目な顔で、ううん、興味津々な顔だった。とにかく、何を聞いてくるんだよ。

「え、それはない。フィオナこそ、殿下を好きになっても叶うことないんだから、早めに諦めた方がいいよ」
「え! 僕は殿下をそんなふうには……」
「そう?」

 違うのか。

「フィオナは、結婚相手の希望が通ったって聞いたけど、好きな人がいるの?」
「えっ、う、うん。そう、この仕事が終わったら、僕は好きな人と結婚するんだ」

 俺が知っていることに驚いたようだったが、すぐに嬉しそうにそう言った。

「でもそれなら、なおさら他の男に抱かれるのは嫌じゃないの? 俺は好きな人がいないから、そういうことよく分からないけど」
「あ、それは。そうだよね、普通はそうか……とにかく! この閨係を全うすることが、その人と結婚できる条件だから」

 条件? ああ、上位爵位との結婚。相手は爵位の高い貴族だったのか。

「ああ、そうか。俺達みたいな男爵家じゃ、王家の紹介がない限り上位貴族とは結婚できないから?」
「う、うん。まあ、そんなところかな」

 なんとも歯切れの悪い返事がきた。

「それに閨係のことはこのままで大丈夫だよ。あの最初の日に、えっと相性確認の日に選ばれたんだから。だからいずれ殿下は君を抱く。その時が来るまで、殿下の恋人ごっこに付き合って差し上げて」
「恋人ごっこ? もしかして殿下は恋人みたいなまね事をしたいってこと?」
「僕は直接聞いていないから分からないけど、シン君を抱かなくても、きちんと決められた日数は会っているんでしょ。それって抱くよりも心を繋げたいって思っているんじゃない?」
「こころ?」
「殿下は婚約者がいても、恋をして婚約をしたわけじゃない。だから恋をしたいんじゃない?」

 フィオナはさすがだな。体を繋げているから分かるの? 俺には殿下の気持ちなんて分からないよ。俺がまだ腑に落ちない顔をしたからか、フィオナはもう一度俺に向き合って言った。

「閨係の役目は、殿下の心と体を満足させてあげること。そこに、体を繋げなければいけないなんて絶対条件はないよ。殿下と過ごすときは、殿下のされたいようにしていればいいだけだよ。抱かれないとかそんなのは関係ないからね!」
「う、うん」
「僕はちゃんと分かるよ。殿下がシン君をとても気に入っていることを」
「え、なんで? フィオナと二人のときに俺の話をするの? 俺のことは抱く気がないとか言ってるの?」
「え、そんなこと言ってないから安心して。殿下のことでそんなに悩むシン君で、僕は嬉しい。ちゃんと向き合っている証拠だよね。僕は殿下のお相手が君で本当に良かったって思っているんだ」

 なんだかフィオナからは温かい目で見守られている感がある。そしてなぜか好かれているような気もしてきた。それ以上なにかを聞く気になれなかったけど、今の俺のままで良いと、閨係を全うしているフィオナが言うのなら、そうなのかもしれないと、なんだか納得してしまった。
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