王太子専属閨係の見る夢は

riiko

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第二章 学園生活

21、後宮

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 あれからベスとは茶飲み友達になった。

 とても気さくでいい子だから、つい楽しくて誘われれば行ってしまう。レイから、ベスに会いに行くから一緒にどうだって今日も聞かれたけど、何回も二人の逢瀬を邪魔するわけにいかない。というか、後宮からの呼び出しの日だったから断った。

 学園から馬車に乗せられて後宮に到着すると、いつものようにあのオジサンが……いなかった。代わりに若い男の官吏が出てきた。

「シン殿、本日は僕がご案内させていただきます」
「あ、はい。よろしくお願いいたします」

 オジサンは忙しいのかな。

 あの人の目が鋭すぎて怖いから、まあ良かった。後宮の一室に入り、風呂へ直行だ。侍女に体を隅々まで洗われる。最初は女の子に体をさらすなんてと思ったが、相手はプロ。そんな思いも感じさせないくらい、徹底的に洗うに専念してくれる。しかもマッサージまでしてもらえてありがたいと、されるままになっている俺だった。

「シン様はお肌がつるつるでございますね」
「本当に、オメガ男性ってやっぱりお肌まできめ細やかでとても美しいですね。今までどんなケアをされてきたのですか?」
「ね! 日焼けされているのは腕と足だけで、お腹やお胸はとても白くてお綺麗ですね。オメガはただ細いだけの方も多いのに、足の筋肉も綺麗にあってバランスがとても素晴らしいですわ」

 俺の裸をマッサージしながら、侍女二人が俺の体について話している。恥ずかしいっ。

 ちなみに後宮に勤める人は全員ベータだ。だからなのか? オメガを希少種扱いしてくる。

「や、やめてください。俺は、ただ野を駆けまわっていただけですから……」
「まぁ! 適度な運動がこのお身体をつくり上げたのですね!」
「い、いや、それは運動では」
「王都育ちのオメガも見習うべきですわね」
「い、いや。あの」

 そんな乙女なお話をしていたら、いつの間にか終わった。

 とにかく王太子の閨係(仮)を務める前は、身を清めなければならないらしい。そりゃそうだろう。相手はこの国の王子様だから、汚い体を差し出せない。今までこのお清めが役に立ったことなどないが……今日こそはお役目を果たせるのだろうか? 

 あの王子が、今度こそ本番をするのかは疑問しかなかった。あの王子はやる気があるのか無いのか、全く分からない。一応エロイ雰囲気には……なるんだよな。その先が最後まで続かないけど。

 風呂上りによく冷えたお茶をもらって飲んでいると、迎えの後宮官吏がやって来た。あっ、さっき出迎えてくれた男だ。あの怖いオジサンではなくて、なんとなくホッとした。あのオジサンは、殿下への礼儀作法やら言葉遣いやらをいつも指導してくる。この閨係が終了しても、今後貴族に嫁ぐときに役立つからと、なにかと俺のことを気にかけて教えてくれるのはありがたいけどさ。

 俺、この仕事終わったらもう貴族じゃなくなるつもりだったから、今後の役には立たないんだよね。誰かと結婚するつもりなんてさらさら無いし。今日はオジサンのご指導がないんだと思うと、少しだけ安心したのは内緒だ。

「シン殿……殿下は学園での会議が長引いておりまして、まだ帰城しておりません。申し訳ないのですが、しばしこちらでお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「えっ、はい。大丈夫です」

 王子も大変だなぁ。

 学園でも忙しそうだし、めったに見ることはないから、きっと籠りっぱなしで仕事をしているのだろう。学園には殿下専用の執務室もあるとか聞いたぞ。王子としての仕事も王宮でこなして、学園でも仕事して。あの人、大丈夫かな? その上、こんな閨担当とまで時間を過ごさなくちゃいけないなんて、王子の義務にちょっと同情する。

「シン殿、お勤めは辛くないですか?」
「えっ、はい! 大丈夫です」

 辛いも何も、俺は閨係なのに閨をしてねぇからな。

 だけどこのことは内緒らしい。こないだ後宮医師に話したら、殿下とのヤッタヤッテない問題も含め、閨で殿下と何をしたかは誰にも話してはいけないと言われた。

「でも、初めてを捧げたのでしょう? 好きな人と初体験をできないなんて、辛いでしょうに」
「えっ、いや、それほどでも……」

 てゆうか……まだ捧げてないし、これから捧げるかも不明だ。

「そうなんですか?」
「えっ、そうなの……です?」

 もう俺の語彙力がなくなる。初体験を好きな人とできないことが辛いことがどうかなんて分からない。だって、俺、人生でまだ好きになった人いないから。それなのにいきなりの男娼。だからむしろそれは辛いことなのですか? と聞き返したくなり、疑問形で返してしまった。まずいまずい。

 嘘をつくのは嫌いだけど、王子とのことを言ってはいけないから、濁すしかない。俺が変な回答をしたら、目の前の後宮官吏は笑った。

「ははっ、シン殿は面白いですね。辛くないのでしたらいいのですよ」
「そ、そうですか」
「少しお話をしましょうか、こちらに座っても?」
「あっ、はい。どうぞ」

 俺の座っている隣に座ってきた。あれ? 距離が近くない?

「ところでシン殿は、閨担当終了後、どなたか嫁ぐ予定の方はいらっしゃいますか?」
「……いません」

 というか、嫁ぐ気もありません。

「でしたら、後宮が相手を用意することになります。オメガ側に要望を聞き、気になる相手がいる場合は、王家からと言って、その方に直接打診するのです。王家からオメガを紹介すると言われて断るアルファはいませんから、相手に婚約者でもいなければ、だいたい希望通りになると思います」
「へぇ、そんな仕組みなんですね」
「もうひとりの閨担当のフィオナ殿は、既に相手が決まっておりますよ」
「そうですか……」

 後宮官吏はにこっと笑って頷いた。
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