王太子専属閨係の見る夢は

riiko

文字の大きさ
上 下
20 / 102
第二章 学園生活

20、令嬢と垂れ目男と俺

しおりを挟む
 ベスの侍女がお茶を淹れてくれたこの煌びやかな一室では、親友とその婚約者と平民に近い俺がいる。サロンスタッフが給仕に来ないところを見ると、この二人の秘密の逢瀬感が凄く伝わる。

 はあ、お茶が旨い。さすが王都にある高級サロンだ。

「ねえ、シンに恋人はいらっしゃるの?」
「ふへっ? いないよ、そんなの」
「あら、そうなの? でもそんなに美しいんだもの。恋人はいないにしても、殿方のひとりやふたり候補にはいらっしゃるわよね? レイに聞いてもそんなことは知らないから本人に聞けっていうんだもの」
「いないよ、そんなの。レイも知ってるだろ?」

 年頃の女の子らしく、そういう話をふられた。

 なんていうか、ここは令嬢御用達サロンなのかもしれない、お茶会みたいな場所ではそういう話をするものなのか? 俺は社交の場には行ったことないから全く知らなかった。するとレイが興味なさげに答えた。

「俺は知らないよ、聞いたことないし」
「言わないってことは、そういうことは無いんだよ」

 俺はすかさずレイの言葉に反応した。

「アルファにこだわっていないとは聞いたけど、それだけしか知らないからな」
「じゃあ覚えておけよ、俺はそういう相手を求めてない。なんなら一生いらないしオメガとして誰かに縋るような生き方はしない。俺は学園で学んだら領地に戻って領民と共に生きるんだ」

 二人は目を合わせて驚いていた。

「まぁそうなの? シンは自立した考えをお持ちなのね。さすがレイのご友人だわ。わたくしも、もうお友達のひとりだけどね!」
「ありがとう」

 ああ、ご令嬢は何を言っても可愛いな。俺はにっこりとした。

「シン、お前そんな考えだったのか。さすがだな、学園にいるオメガ男子とは違うとは思ったけど、そうきたか」
「そうきたよ!」

 なんていうか、さすが俺の友達とその彼女だ。懐がデカイ。そんなことを言うと大抵の人は、オメガの幸せはアルファを得ることだと言うし、俺のオヤジがその代表格だった。お前は母さんというオメガひとり満足に幸せにできていないぞ、と俺は思ったが言わないでやった。オヤジみたいな出来の悪いアルファに嫁いだ母さんに同情するよ。

 そんなアルファというものを身近で見てきたから、夢も何もない。そして王都に来て驚いたけど、アルファに媚びるオメガが意外にも多くいて受け入れられなかった。俺は自立した男になるんだ! だからオメガとかそんなのは関係ない。ひとりで逞しく生きて、領地を飢えさせない努力をする! それが俺の人生の目標で野望だ。

 男に縋る人生なんて絶対いやだ。

「じゃあ、シンにはまたレイの相手役を頼もうかしら」
「えっ、やだよ」
「ええ! な、なんで?」

 ベスが大きな声を出した。すると後ろに控えていたベスの侍女が「お嬢様、慎みを……」と言った。ベスは「そ、そうね。令嬢たるもの常に冷静っ」とぼそりと呟いていた。

「俺は、レイみたいないい男と仲良くやってます風なのはもうごめんだよ。友人として隣に立つならいいけど、そういう相手役はもうやらないからね」

 というか王子がそれを許してくれないからな、雇用主の言うことは絶対だ。でも雇用されていることは言えないから、俺ならではの理由で断った。

「あら、残念。こないだの観劇のとき、わたくし二人の姿を見て感激しておりましたのに。見目の良い殿方カップルは、心が潤いますの。次も遠くから見て目の保養にしようとしていたのに」
「なにそれ、俺とレイが腕組んでも気持ち悪いだけだろ」
「そんなことないわ」
「そんなことないな」

 ベスとレイが同時にそう言った。すると少しだけ小さい声で侍女が「……それはもう美しく」と顔を赤らめて言っていた。

 三人は絶対面白がっているに違いない。その手には乗らないぞ。

「あれ? そういえば、あのときベスもあの会場にいたの?」
「ええ、そうよ。わたくしの従兄弟殿は婚約者が国外の方だから、わたくしがそういう場所に付き合っているのよ。全く迷惑してるわ」
「そうなんだ」

 じゃあ、あの会場で俺もベスを見たのかな? 

「ほら、会場でシンも見ただろ。ベスの従兄弟殿は王太子殿下なんだよ」
「……は?」
「ベスは王弟殿下の娘だから、正真正銘のお姫様で、これからは俺だけの姫なんだよ」
「王弟殿下……」

 俺は固まってしまった。そしてベスはレイに俺だけの姫と言われて、またうっとりして目をしていた。

 うわ、まじかよ!? 俺みたいな身分の奴がこんなに王族関係者に会っていいわけ? というかまじでレイすげぇ。

「え、ええーっ、そうなの? じゃああのとき殿下の隣に座っていた女の子がベスだったの!?」
「そうよ。今までは嫌いな婚約者のエスコートを断る理由で、従兄弟殿……お兄様のエスコート相手に、喜んでなって差し上げたの。婚約発表をしてからはレイと参加したいけど、お兄様をひとりにするわけにはいかないし。せめてレイをシンに任せたかったんだけど。だって夜会でレイと踊りたいけど、レイには悪い虫をつけたくないし」
「そういうことなんだ……」

 前の婚約者は嫌いな相手だったのか、なるほど。そしてベスが笑顔で俺を見た。

「ね、レイにエスコートされてみる気になった?」
「う……善処する」

 そういう事情なら殿下の許可が出るかもしれないし、今度殿下に聞いてみるか。でもあのときの可愛い女の子は、婚約者じゃなくてベスだったのか。仲良さげに腕を組んでいるのを見て、少し胸がもやってしたけど、今なんかすっきりした。

 あれ、どうしてだろう? あれは、そうだ罪悪感かもしれない。キスした相手の婚約者……だと思っていた相手を見て、あの時は申し訳ない気持ちに勝手になっただけだ、そうに決まっている。
 
しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

事故つがいの夫は僕を愛さない  ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】

カミヤルイ
BL
2023.9.19~完結一日目までBL1位、全ジャンル内でも20位以内継続、ありがとうございました! 美形アルファと平凡オメガのすれ違い結婚生活 (登場人物) 高梨天音:オメガ性の20歳。15歳の時、電車内で初めてのヒートを起こした。  高梨理人:アルファ性の20歳。天音の憧れの同級生だったが、天音のヒートに抗えずに番となってしまい、罪悪感と責任感から結婚を申し出た。 (あらすじ)*自己設定ありオメガバース 「事故番を対象とした番解消の投与薬がいよいよ完成しました」 ある朝流れたニュースに、オメガの天音の番で、夫でもあるアルファの理人は釘付けになった。 天音は理人が薬を欲しいのではと不安になる。二人は五年前、天音の突発的なヒートにより番となった事故番だからだ。 理人は夫として誠実で優しいが、番になってからの五年間、一度も愛を囁いてくれたこともなければ、発情期以外の性交は無く寝室も別。さらにはキスも、顔を見ながらの性交もしてくれたことがない。 天音は理人が罪悪感だけで結婚してくれたと思っており、嫌われたくないと苦手な家事も頑張ってきた。どうか理人が薬のことを考えないでいてくれるようにと願う。最近は理人の帰りが遅く、ますます距離ができているからなおさらだった。 しかしその夜、別のオメガの匂いを纏わりつけて帰宅した理人に乱暴に抱かれ、翌日には理人が他のオメガと抱き合ってキスする場面を見てしまう。天音ははっきりと感じた、彼は理人の「運命の番」だと。 ショックを受けた天音だが、理人の為には別れるしかないと考え、番解消薬について調べることにするが……。 表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

獣人王と番の寵妃

沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

処理中です...