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第二章 学園生活
14、別世界
しおりを挟む「うわっ! すごい」
「はは、シン口開けすぎ」
「だってこんな場所……来たことないし」
俺は貴族といえ庶民みたいなもの。俺の特殊な仕事のせいで、王宮というこの世で一番豪華なところには行ったことあるが、王宮とはいえ豪華な表からではなく裏口からこっそり入った後宮。だから見た人だって、後宮関係と身分が最も高い殿下とその側近だけ。
ここはこの世の華やかなものが全て揃った場所みたいだ。建物の前には噴水もあって、その周りにひっきりなしに豪華な馬車が停まっては、そこから華やかな世界の住人が降りて楽しそうに門をくぐっていく。そう、着飾った人をこんなにたくさん見たのは初めてだった。
「な、俺ここ入って大丈夫かな。俺みたいな田舎者、止められないかな」
「何を言っているんだよ。今のシンは彼女の見立てた服のおかげで、とても都会的で綺麗だよ。周りの人に引けを取らないから大丈夫だ」
「……お前、友達相手に気持ち悪いこというなよ。まあ、服に着せられている感は仕方ないけど」
「そんなことない。それに友達でも綺麗だから仕方ないだろう。俺、嘘はつけないからな。だけど心配するな、いくらシンが傾国のオメガでも俺の彼女への愛には叶わない」
「はいはい」
そう言って腕を差し出してくるから、俺も笑って乗ってやった。カップルらしく腕を組んで入場した。レイは洗礼された男だから、こいつが隣にいるならたとえ俺みたいな男でも入場は止められないだろうと堂々とした。
レイのせいか、このペアルックのせいか、周りからやけに視線を感じる。
「なあ、俺達、人から見られてない?」
「あ? そうだな、たしかに。俺は男前だからね、というかシンあまり喋らないと、見た目が良いから人の目を集めるのか。ああ、今初めて気がついたよ。やっぱりシンはオメガだね」
「はあ? 何言っているんだ」
俺達は劇が始まる前に、会場内にあるバーで飲み物を飲んでいた。周りの目が気になって、俺の格好がやっぱり田舎者が頑張った感が出ていて変なのかと思って思わずレイに問いかけた。レイはどこからどう見ても服を着こなしていて、同性の俺から見てもかっこいいとは思う。レイは俺の問いかけに、初めて気がついたみたいな風に、俺のことオメガだと言った。
「うん。だからいつもは学園でくだけた感じでおしゃれもしないから気が付かなかったけれど、こうしてみるとシン綺麗で、周りはほっとかないのも納得だ。危ないから俺のそばを離れるなよ」
「なんだ、それ」
「うん、まあ、それがシンだよね。ちょっとこっち来て」
奥の方にある席に促された。
「シンはさ、アルファと番になりたいと思う?」
「はっ? なりたくないよ。い、いきなり何?」
レイとこんな話したことないから、少し戸惑ってしまった。
「だって、オメガだし。アルファと番になるのが当たり前なのかと。だったら俺とこうしてカップルみたいな真似していたら、シンのせっかくの出会いを邪魔することになるだろう? 今だってシンを誘いたそうな男の視線を感じた。友達としては周りを牽制したらいいのか、それともいい男との出会いを促してやればいいのか、聞いておいたほうがいいいかなって」
「やめろよ、番を作るつもりはない」
俺は誘われそうな視線なんて感じていない。友達贔屓だろう。レイは良い奴だから、一応オメガという俺を気にしてくれたみたいだった。でも少しでも俺は自分がオメガということは忘れたい。心配はありがたいけれど、いらない心配だった。
「ふ――ん。それなら俺も気にしないで、これからもシンを利用させてもらうよ」
「ああ、そうしてくれ」
そうして会場の準備が整ったらしく、一斉に案内が始まった。俺達も腕を組んで会場内に入る。その時、俺はなんだかいい香りがした気がした。
「あっ、殿下がいる」
「えっ」
レイに言われて、二階にある王家しか入れなさそうな個室があってそこを見上げると、殿下とオメガと思われる女性がすでに座っていた。その彼女と仲良さそうに笑って腕を組んでいる。それを見て、胸がチクってした。
あれが婚約者? とても高貴な身分の女性なのがよく分かる。仲がそこまで良くない婚約者なのかと勝手に勘違いしていたが、とても仲睦まじく見えた。
「やっぱりあの二人は仲がいいなぁ」
隣のレイが微笑ましい顔でそう言った。レイほどの貴族がそういうなら、貴族社会に殿下と婚約者の仲は知られている?
婚約者を抱けないくらいで、他の相手を抱くって、それだけ愛情が薄いのかと思っていた。俺なら好きな人がいて、他の人を抱くなんてできないと思うし、相手にもそうであってほしい。誠実じゃないだろ。だから、政略結婚なのかって勝手にそんなおこがましい考えが脳裏にあった。
自分の浅ましさに悲しくなった。いつの間に人のことをバカにした考えをしていたんだろうって。
そんなことを思っていたら、殿下と目が合ってしまった。まずい……外では他人だから、反応してはいけないんだった。だけど目が合った殿下から目が離せない。殿下も驚いた顔で見たと思ったら、すごく怖い顔をして睨んできた。
俺の心の浅ましさを見抜かれたみたいで、とても気まずかった。俺は気を取り直して、すぐに目線を外した。殿下の婚約者の女性を、憧れの存在かのような目で見ていたレイに向き合った。
「レイ、行こう」
「あ、ああ」
外で殿下を見たことに対して、怒ったのかしれない。他人なのに、外で自分を見るなと。俺は急いでレイの腕を掴んで席へと促した。あの目が怖くて、ふらつきそうになったところ、レイが俺の腰を支えた。
「シン、大丈夫か?」
「あ、うん。ごめん、大丈夫。劇楽しみだなって思ったら、足元を見てなかった」
そうだ、ただ見ただけだ。
あんな顔をされる必要はない。きっと俺とは関係ないことで不機嫌になっていただけだろう。そう思って俺は殿下を見たことを忘れることにして、演劇に集中した。俺は現金なもので、すっかり演劇に夢中になって、あのときの殿下の顔なんか忘れて、更にいうと殿下が来ていることさえ忘れていた。
すごく面白かったという話をレイにして、腕を組みながら帰路につくためにレイが用意してくれた馬車に乗ろうとしたときに、ふいに声をかけられた人に俺は驚いた。
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