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第二章 学園生活
13、観劇のお誘い
しおりを挟むなんだか流されまくったが、あの日はあれだけだった。てっきり最後までされるのかと、ちょっと期待をしてしまっただけに残念だった。ちょっと待て、期待ってなんだ!? ああ俺の思考がだんだんおかしな方向になっている。
俺は何を期待した?
初めてのことだったけれど嫌悪感がなかった。なんならあのまま「最後まで」それでも問題ないと思ったし、それが俺の勤めだって理解していたから。なのにあのエロ殿下は、初めてはもっとロマンティックにしたいとかなんとか、なんだそれ。あんたは初めてじゃないだろうと突っ込みたかった。俺をその気にさせて突っ込まずに、乙女みたいなことを言いやがった。若干ひいた、国の王子がそれでいいのか?
とまあ、そんなわけで処女卒業はまだだった。
「なあ、シンってさ。演劇興味ある? 俺たまたまチケットが手に入ってさ、今度の週末一緒に行かない?」
「えっ! これ今人気のチケットじゃないか! よく手に入ったな。行きたい!」
演劇に興味があるかないかは、観たことがないから分からなかったけれど、王都に来たばかりで何も知らない俺は最初こそ戸惑ったが、学園生活にも慣れてくると色々と周りにも興味が湧いてきた。俺の育った場所とまるで違う。もちろん自然あふれる領地が一番だが、ここはここで面白い。学園を卒業したら領地に帰るのだから、限られた時間は精一杯都会を楽しもうと最近は気持ちを切り替えた。
単純に、ただ王子の閨相手だけのためにここにいるのが嫌だった。せっかくだから楽しむことにして、学園では知識を吸収して我が領土のためになることを少しでも多く学ぼうと思っていた。
そうそう、その流れからこの劇も知ったんだ。最近はクラスメートが流行りなどの話をするから俺は興味津々で聞いていて、なかでもこの劇は貴族の間でも大変な人気らしい。そんな劇のチケットを下級貴族の俺なんかが手に入れられるわけもないし、ましてはそんな金はない。
そうだ、金がないんだ。
「あっ、でもごめん。俺自由になる金がないんだ。だからせっかく手に入っても俺に支払い能力はないから、他の人あたってくれ」
「えっ」
金がないやつが、こんな王立学園に通っている事自体おかしいよな。せっかくできた友達だったけれど、やっぱり俺みたいな底辺嫌気がさしたかも。
「シン、たまたま手に入ったっていっただろう。友達同士で金のやり取りはしない、これはお前にやるんだよ、もちろん俺と同伴じゃなきゃだめだけど」
「え、いいの?」
「ああ、こういうところはカップルで行くのが決まりでね。彼女がシンを誘えって、お前となら間違いは起きないだろうし、一応オメガをパートナーとして連れて歩いている男に声を掛ける女はいないって、他の相手への牽制になる前に俺のナイトを任命されたわ」
「ナイトかよ! これでも俺、一応オメガだしな。だったら行くよ。俺なら安全しかないわ」
そしてあれから約束の日になって、わざわざレイが服を用意してくれたので、それを着た。そして、俺は部屋に迎えに来たレイの姿に驚いた。
「おい、なんだ、その格好は」
「ああ、これね。彼女と買い物に行ったとき買わされた。シンとお揃いで揃えるからって言われてさ、許せ」
「悪趣味だろ……」
見るからにお付き合いしています。みたいな、まるで二人で合わせたかのようなペアのスーツ。というか、むしろこれじゃお笑いだ。今時こんな服を合わせるカップルいないだろう。これは、こいつの彼女の嫌がらせに違いない。
「まあ、怒るなよ。ほら、俺正装するといつも以上に男前になるだろう? その辺のオメガが隣にいるくらいじゃ、まだ信用できないから、誰も声をかけられないくらいの雰囲気は、お揃いの服だろうってさ。俺って愛されているんだよね」
「ふざけんな! そんな恥ずかしい格好で出かけられるかよ。そもそも、そんなに嫉妬深いなら劇もその子が行けばいいだろう」
自分で男前とかムカつくけど、たしかにそのとおりだった。そりゃ殿下と比べると種類が違うからなんとも言えないけれど、一般的にはモテる部類だ。ベータだけど、アルファと見間違えるくらいに色男だった。気遣いもよくできて、思いやりもある。そしてアッシュグレイの髪と瞳、少し垂れ目なところがモテポイントらしい。大好きな彼女の言うことを聞きたい気持ちも分かるけど、俺が被害者になる必要あるか?
「それがさ、だめなんだって。彼女は接待みたいなもんがあって、俺にも行くなとは言えないからシンならいいってやっとお許し出たんだよ? 俺どうしてもこれ見たかったんだよ。俺達親友だろ、これくらい付き合ってくれよ」
「……う、分かったよ」
「ほんと、悪いな。その代わりうまいもんご馳走するからさ!」
「いいよ、そんなの。まあ、俺もこれ見たかったし。仕方ない」
俺は悪意無い頼みごとには弱い。まあ服くらいいいか、そもそも俺この王都にそんな知り合い居ないし、見られて恥ずかしいのはこいつだけだろう。そんなふうに気軽に考えていいた自分に、その時は後で後悔することになるとは思いもしなかった。
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