王太子専属閨係の見る夢は

riiko

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第一章 閨係のはじまり

8、閨担当決定

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 あれから父親のもとに戻ると、俺の顔を見てにやにやしだした。イラっとしたが、ここは家ではないので最低限のマナーを保たなければならず無視した。そしてまた官吏に連れられて、今度は先ほど会った可愛いもうひとりのオメガ男性と一緒に後宮でのご奉仕についての指導があった。

「お二人とも、殿下と香りの相性は悪くなかったとのことで、当初の予定通り一年殿下の閨担当として過ごしていただきます」
「はい!」
「……はい」

 俺ともうひとりのオメガ男性は、返事をした。俺は会ってみて、お前なんか望んでないわ――って言われるのを少し期待していたが、期待通りにはいかずに不服だった。

「フィオナ殿はお役目を望まれているように見えますが、シン殿はもしやこの役目がお嫌でしょうか?」
「へっ、えっ、いや……」
「もしお嫌なら断る権利も、実はあるんですよ。特にシン殿は処女ですからそんな貴重なものを一年とはいえ、添い遂げない相手に捧げるのはお辛いでしょう? そのための顔合わせでもあるのです」
「えっ、でも、これはオメガ側に断る権利があるのですか? 後宮からの命令だと父に言われて来ましたが」

 俺たちに指導する人は、先ほど会ったびしっとしたオジサンだった。俺ににっこりと笑って説明してくれた。これは殿下の香りの確認でもあるが、オメガ側の確認でもあるので、あまりにフェロモンが合わない場合は断っていいそうだ。その代わり、権利は剥奪されるので上位アルファとの結婚や、父親の仕事の斡旋、金銭での報酬などは返還してもらうとのことだった。

 オヤジめ、話がまったく違うじゃねぇか! だったら断る? いや、待てよ。あの狸オヤジのことだ、もう金に手を付けているに違いない。それにその金があれば借金が少しは返せる。というか、あのオヤジもう借金は返したと言っていた。ってことは、もう無理じゃん! 

 オヤジのことだから何か策略して俺を売り込んだと思っていたが、普通に儲け話がたまたま舞い込んだだけだった? にしても! あいつ、断れることを知っていたな。俺に王命だとか嘘をつきやがって、やっぱり俺を売りやがった。

 こうなったら、俺の体はもう差し出すしかないだろう。それに王宮から仕事が貰えれば、領土も少しは潤うだろうし、弟が爵位を継ぐ頃まで、いや俺が閨係を卒業するまでなんとか持ちこたえてくれたら、その後は俺が何とかしよう。これぞ長男の義務だ!

「シン殿、どうなさいますか? 今ならまだ断ることも……」
「いえ、お引き受けします」
「そうですか、ではここからはお二人にしか知らされないことをお伝えします」

 そう言って、後宮官僚は俺ともうひとりのオメガ、フィオナに真面目な顔をして話を始めた。

 ここでのこと……主に閨や王子との会話の内容は、一つ残らず父親も含め、誰にも話してはいけない。殿下との関係性はもちろん、知り合いということすら知られてはいけないらしい。後宮の外では殿下とは全くの他人だ。ただ誰にも相談できないのは負担になると思うので、体や殿下との営みでの悩みはこちらの後宮医には話すことは許されるとのことだった。

 紹介された医師は三十代くらいの男性で、とても綺麗でそれでいて柔らかい雰囲気だった。

「お二人の体や心の悩みも全てサポートするように言われています。僕は後宮医ですが、オメガでつがい持ちなのでそういった悩みも聞けますよ。だからと言って、ここでの話はつがいにも話しません。殿下のそういった話を他でしたら、僕の首もつがいの首だって飛びますから! 秘密厳守は安心してください!」

 なるほど。ここにいる以上は機密事項厳守ということか。そして後宮のオジサンが医者に続いて話を始めた。

「あとお二人は、担当として切磋琢磨していただく分には構わないので繋がりはむしろお持ちください。とくにシン殿は未経験ですので、フィオナ殿も優しくお支えいただければと思います」
「はい」

 フィオナは、俺を見てにっこりした。俺も軽く会釈する。

「一番大事なことは殿下を愛さない、愛を求めない、これだけです。体という快楽を与えるのが仕事であって決してそれ以外を求めないこと。殿下が与えるならいいですが、自分から宝石ひとつでも欲しがらないように。君たちには必ず上位アルファとのつがい契約の約束も守ります。それが報酬ですから、殿下に些細なことでも強請ねだるような行為はしないでください。それが発覚したときは、まず父親の仕事から奪います。そして家族、最後にあなたたち自身をオメガとして最下層までに落とします。一年たったら殿下との営みも全て闇に葬り、今後誰にもその話はしない。そこまでが任務内容です」
「……」
「……」

 こえ――! 震える。そしてオジサン、ニカって笑う。

「ご安心ください。規約さえ守ればこんなに好待遇な仕事はありませんよ!」
 
 そのあと、いろいろ聞かされた。フィオナにはただ閨で殿下の求めることをすること。彼は十八歳のとき、家のために初老の金持ちに後妻として嫁にされたが、嫁ぐも二年でその旦那は天に召されたらしい。その金持ちジジイは自分がたないからと、実の孫を使って犯させた。それを見て喜んでいたとのことで、そっちの技はその二年間に仕込まれたとか。

 なんて酷いのだろうと思った。これが貧乏オメガの歩む道なのか。経験値の確認だったが、そんな辛い話なんて。

 俺が処女だなんて、奇跡なのかもしれない。このフィオナのように金持ち初老、そんな相手に売られなかったのは、オヤジがなぜかアルファにこだわったせいだった。それだけの違いかもしれない。

 そして俺は、殿下初の処女。ということでなんの期待もされていない。ただ、殿下の婚約者との初めてに備えるだけの品物だった。自分からどうするかではなく、されるままに流されて、痛いとか気持ちいいとか、素直な感想を伝えるだけでいいと。

――いたたまれない。

「シン君、大丈夫だよ。殿下もこれまでたくさんの経験を積まれているから。いままでの閨担当したオメガの子からはお褒めの言葉しかないからね。むしろ初めてが殿下で良かったじゃない?」
「はぁ。そうですね、はは」

 後宮医が言うならそうなのだろう、なんせ歴代殿下のオメガを診察しているのだから。

「フィオナ君は、大丈夫だね? もうお相手の希望は後宮に届いているみたいだね、がんばって一年乗り切るんだよ」
「はい!」

 フィオナはすでにつがい相手を決めているのか? それはそれで、好きな相手がいるのに殿下と寝るなんて、可哀想だ。でもそうでもしなければ男爵家のオメガを、しかも初婚ではない相手を娶るなんてできないのかもしれない。
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