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第一章 閨係のはじまり
7、香りの確認
しおりを挟む「殿下!」
「はぁ、まだ取り込み中だ。時間がかかるといっただろう」
「ですが部屋の外まで殿下のフェロモンが香ってきたので、シン殿の貞操の危機を回避のため……って、なにやってやがる!」
「……」
先ほどの騎士が、俺たちの体勢を見たからか? 急に言葉使いが変わり、殿下は騎士から俺の上にいたところを引き離された。
「見て分かる通り、興奮した。だがキスしかしてない、ああ、胸も味わった……」
「何やってんだ! 今日は香りの確認だけで触れ合いは許されていない」
「すまない」
「ったく! シン殿、大丈夫か?」
なんだろう。先ほどとは変わって、この騎士は殿下に対してもくだけた態度になった。俺はソファに仰向けで倒されたまま、ほぼ裸状態で殿下の上着が申し訳なさい程度に上にかかっていて、さらには涙の跡もある。第三者が見たら不本意に襲われた風に見えるかもしれない。
「あの、すいません。僕が、悪いです。泣くつもりは無かったのですが……」
「いえ。まさか殿下がここまでするとは思ってなくて……二人きりにした俺の落ち度です。申し訳ありませんでした」
「……いえ」
「さぁ、手をどうぞ」
騎士が寝転がっている俺の手を引こうと差し伸べてきてので、ありがたいと思って手を取ろうとすると、殿下が騎士の手を払った。
「だめだ!」
殿下は俺を抱き寄せた。なぜ?
「これは、私のだ。他のアルファが触れることは許さない」
「じゃあ早くシン殿の身なりを整えてやれよ。時間かかりすぎで周りがヒヤヒヤしている」
「ああ、シン。怖がらせて悪かった、服を整えるよ」
俺の服を手早く直している殿下の身のこなしの速さと、二人に意見などできない俺はされるままになった。服が整うと先ほどの騎士が話しかけてきた。
「では、シン殿。殿下との相性は問題なさそうなので、この後は後宮から説明があるのでそちらへご案内いたします。それが終われば本日はラードヒル男爵とお帰りいただきます」
「えっ! あっ、はい」
疑問しかなかった。あれで相性が問題ないと言えるのか? しかもそれを試してもいない騎士から言われるとは。殿下のご意志を聞かなくてもいいのだろうか。それに家に帰れる? 俺はてっきり後宮で飼われて一年ベッドから出られないのを想像していたのだが、普通に人間としての尊厳は保たれると考えていいのだろうか。
「シン、そんな不思議な顔をしてどうした?」
「いえ、なんでもございません」
「なんでもないって、顔ではないな。何か不都合があるなら言って欲しい、何を言っても手放さないけど極力シンの希望は聞くようにする」
騎士に促され退出しようとしたら、殿下に止められた。腑に落ちない顔をしてしまったらしい。でも殿下に物を申すなどできるはずもないし、一言でも変なことを喋ってしまったら不敬罪になりかねない。
「不敬にならないよ」
「へ?」
「シンは言葉が少ないけど、顔で分かる」
殿下は笑いながら言った。
「王宮にいる相手なんて、シンからしたら全く想像もつかない人種だろうね。でも、ここは公式ではない。いわば私のプライベートであり、憩いの場だ。だから身分などという堅苦しさは考えず、気軽に話して欲しい。私はただ忖度ない場では策略など考えずに過ごしたいだけだ」
「……」
「ね? シン、言って。これからの私は、シンの前では裸になるような間柄だ。変な考えを持ったまま閨を共にするのは、私にとってもリスクが高い。だからシンの憂いは関係を持つ前に絶っておきたい」
「あっ、申し訳ございません。殿下を気遣わせてしまって」
王族も大変だな、そう思ったけど、急に忖度なしになんて無理な話だ。
「殿下、シン殿は初めて殿下にお会いしたのです。いきなりそのようなことを言われても困らせているだけですよ」
騎士がすかさずフォローに入った。
「ダイス、手放さないと決めた。だったら早めに関係は築いた方がいいと思わないか?」
「マジかよ……」
騎士は驚いた顔と、驚いたような言葉を発した。そして殿下は俺に向き合う。
「シン、ダイスは公式の場では護衛兼お目付け役だが、プライベートではこの通り親友だよ。私は公式以外の場ではこのように部下相手でも関係は自由にしているし、相手にもそれを求める。シンは私と深い関係になるのだから、なおさら今から慣れてもらわなければいけない」
深い関係……ただの閨相手が? 体を深く繋げるって意味で、そう言っているのか?
「……シン殿、この通り殿下は自分がいいと言った相手には、それを求めます。逆にいいと言わない相手には何も許さない。あなたはそれが許された。親友である俺もそれを認めます」
「あ……の。お二人の関係は分かりました。僕みたいなものにそこまで言っていただけて恐縮です。その、騎士様は先ほど僕と殿下の相性は問題ないと言われましたが」
「ええ、言いました」
「それは殿下のご意見ではありませんよね。僕はオメガとしては欠陥品で、それなのにここまで来てしまって申し訳ないと思いますが、殿下がお嫌なら僕の相手なんて可哀想だと……」
「どうしてそうなる!」
殿下が騎士との会話に割り込んできて、俺はびくっとした。ほらっ、怒ったじゃねぇか。不敬罪決定……。
「ディー、とりあえず黙れ。なんというか、その、シン殿はあんな殿下を見て、それを言うってことは、まあ仕方ないか。経験が無いのでしたね。今までアルファと関わったことはございますか?」
ディー? ディートリッヒ殿下だから、ディー? めちゃ仲良しだなと思い、騎士の問いかけに答えた。
「父と弟だけです」
「なるほど、身内では分からないか」
ん? 何が分からないのだろう。すると殿下が騎士にそれ以上は言うなと言って俺に向き合った。
「シン、言葉が少なくて悪かった。私は君を所望している」
「え」
「私が言うのだから疑いようがないね? これでこの話は終わり。シンの憂いはそれで片付いた?」
「は……い。殿下がそれでいいというなら問題ございません」
「よし! じゃあこれからを楽しみにしているよ」
そこで時間切れとなり、殿下は王室関係者とこの場を去っていった。
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