5 / 102
第一章 閨係のはじまり
5、王子様
しおりを挟む
俺は無になり、さっきのオジサンに連れられるままにひとつの部屋へ通された。
そこには男が二人いた。どちらが王太子なのかは迷う必要もないくらい、王子と護衛という二人だったのですぐに分かった。二人ともアルファだろう。アルファを領地で見ることはなかったが、明らかにキラキラ加減が違うからそうなのだと思った。アルファはとてつもなく優秀で、顔面も優れていると聞いたことがある。
俺のオヤジがアルファなのは、この世界の間違いのひとつに違いないが……。
騎士と見える男は、王太子よりもガタイがよく、王太子はまさに王子というようにキラキラとしている。俺が呆然と二人を見ていると、声をかけられた。
「君がシンだね。とても綺麗だ、美しい」
「え」
王太子らしい男は最初にそんなことを言った。綺麗だなんて言われたこともないし、目の前の男が何よりもカッコいいので、そんな人からの意外な言葉を聞いて思わず驚いた。
家を出る前、やっつけのように父親がいろんな人を手配して、俺の髪や体を磨き上げていた。だからいつもよりは多少マトモだが、美しくはない。アルファほどではないが一般男性くらいの背の高さがあるし、日にも焼けている。オメガという事で多少細身だが健康的な男そのものだ。
ベータほど平凡な顔立ちではないらしく、だからといって小さく可憐というイメージが強いオメガとは、かけ離れた見た目なのでオメガと思われることもない。きちんとすれば見た目は良いとは言われたこともあるが、領民からはオメガと思われたことはない。どちらかというと、アルファと間違えられることの方が多かった。領民はアルファもオメガも知らない奴ばかりだから、その言葉も信じてはいなかったけどね。
それにしても、こんな俺にこの男は勃つのか? 相性なんて試すまでもなくムリだろう。そんなことを瞬時に思った。
王太子は俺の目の前に来て、挨拶をした。
近くに来た時、いい香りがした。
領土にはアルファはいなかったから知らなかったけど、アルファとはこんなにいい香りがするものなのか。たしかアルファとオメガにしか分からないフェロモンという香りが存在すると習ったことがある。オヤジと弟はアルファだけれど、身内ではそこまで香らないものなのか、それともこの王子が異常にいい香りをしているのか分からないが、目の前に立たれてくらっとした。
「私はこの国の王太子ディートリッヒ・ザインガルドだ。今回はこの役目を受けてくれてありがとう。君みたいな綺麗で健康的な子が相手で嬉しいよ」
「……初めまして。ラードヒル男爵家の長男シンと申します。よろしくお願いいたします」
俺も挨拶を返した。ここで逃げるわけにいかない。最低限のマナーは一応仕込まれているので、ボロを出さないように背筋を伸ばした。
王太子が言う綺麗という言葉は、王族特融の挨拶の一種なのかもしれない。というか綺麗という言葉はこの王子にこそ合っている。
少しカールした顎のラインまである金髪に青い瞳、鼻もすっと高くてシャープな顎と美しい唇の形。全てが整過ぎていた。そして俺よりも高い身長に、引き締まった体。服を着ていてもなんとなく分かる、こいつはできる奴だ。きっと剣術もやっているのだろう。だがそんな美丈夫だけど、雰囲気はとても柔らかくて少しホッとした。
「では殿下。私は退出するので相性をお試しください。シン殿、気負いせずに気楽にどうぞ」
「ああ、彼は慣れていないと思うから少し時間がかかるな」
騎士が殿下に声をかけると、殿下は笑顔で答えていた。俺に向かって騎士はなにか気を使ってくれているようだった。相性と言われて俺は少しきばった。それを見た騎士は俺に笑顔で接しながら、殿下に言葉をかけていた。
「殿下、シン殿をあまり怖がらせないように」
「……善処する」
殿下は楽しそうに笑い、騎士をドアのところまで送り出していた。殿下は笑顔でいるが、怖がらせるなと騎士から言われるくらい、もしかしたら鬼畜なのかもしれない。先ほどのオメガの相手を数分で終わらせるくらいだ。ということは、あまり時間を使わずに手早くこなさなければいけない。
殿下も騎士も俺が処女だと知っているだろう。時間がかかるとか怖がらせるなとか言っていたから、面倒臭い処女だと思われているかもしれない。
とにかく煩わせるような行動は控えるために、殿下が騎士と話しているうちに服くらい脱いで準備をしておこうと手早くシャツのボタンを外した。いや、待てよ。使うのは尻だけのはず、時間が無いのに全裸になる必要はない、あくまでも孔の確認もとい、相性を確かめる行為だ。思い直してシャツのボタンをはだけたまま、ズボンを下着ごと勢いよく脱いだ。
そこには男が二人いた。どちらが王太子なのかは迷う必要もないくらい、王子と護衛という二人だったのですぐに分かった。二人ともアルファだろう。アルファを領地で見ることはなかったが、明らかにキラキラ加減が違うからそうなのだと思った。アルファはとてつもなく優秀で、顔面も優れていると聞いたことがある。
俺のオヤジがアルファなのは、この世界の間違いのひとつに違いないが……。
騎士と見える男は、王太子よりもガタイがよく、王太子はまさに王子というようにキラキラとしている。俺が呆然と二人を見ていると、声をかけられた。
「君がシンだね。とても綺麗だ、美しい」
「え」
王太子らしい男は最初にそんなことを言った。綺麗だなんて言われたこともないし、目の前の男が何よりもカッコいいので、そんな人からの意外な言葉を聞いて思わず驚いた。
家を出る前、やっつけのように父親がいろんな人を手配して、俺の髪や体を磨き上げていた。だからいつもよりは多少マトモだが、美しくはない。アルファほどではないが一般男性くらいの背の高さがあるし、日にも焼けている。オメガという事で多少細身だが健康的な男そのものだ。
ベータほど平凡な顔立ちではないらしく、だからといって小さく可憐というイメージが強いオメガとは、かけ離れた見た目なのでオメガと思われることもない。きちんとすれば見た目は良いとは言われたこともあるが、領民からはオメガと思われたことはない。どちらかというと、アルファと間違えられることの方が多かった。領民はアルファもオメガも知らない奴ばかりだから、その言葉も信じてはいなかったけどね。
それにしても、こんな俺にこの男は勃つのか? 相性なんて試すまでもなくムリだろう。そんなことを瞬時に思った。
王太子は俺の目の前に来て、挨拶をした。
近くに来た時、いい香りがした。
領土にはアルファはいなかったから知らなかったけど、アルファとはこんなにいい香りがするものなのか。たしかアルファとオメガにしか分からないフェロモンという香りが存在すると習ったことがある。オヤジと弟はアルファだけれど、身内ではそこまで香らないものなのか、それともこの王子が異常にいい香りをしているのか分からないが、目の前に立たれてくらっとした。
「私はこの国の王太子ディートリッヒ・ザインガルドだ。今回はこの役目を受けてくれてありがとう。君みたいな綺麗で健康的な子が相手で嬉しいよ」
「……初めまして。ラードヒル男爵家の長男シンと申します。よろしくお願いいたします」
俺も挨拶を返した。ここで逃げるわけにいかない。最低限のマナーは一応仕込まれているので、ボロを出さないように背筋を伸ばした。
王太子が言う綺麗という言葉は、王族特融の挨拶の一種なのかもしれない。というか綺麗という言葉はこの王子にこそ合っている。
少しカールした顎のラインまである金髪に青い瞳、鼻もすっと高くてシャープな顎と美しい唇の形。全てが整過ぎていた。そして俺よりも高い身長に、引き締まった体。服を着ていてもなんとなく分かる、こいつはできる奴だ。きっと剣術もやっているのだろう。だがそんな美丈夫だけど、雰囲気はとても柔らかくて少しホッとした。
「では殿下。私は退出するので相性をお試しください。シン殿、気負いせずに気楽にどうぞ」
「ああ、彼は慣れていないと思うから少し時間がかかるな」
騎士が殿下に声をかけると、殿下は笑顔で答えていた。俺に向かって騎士はなにか気を使ってくれているようだった。相性と言われて俺は少しきばった。それを見た騎士は俺に笑顔で接しながら、殿下に言葉をかけていた。
「殿下、シン殿をあまり怖がらせないように」
「……善処する」
殿下は楽しそうに笑い、騎士をドアのところまで送り出していた。殿下は笑顔でいるが、怖がらせるなと騎士から言われるくらい、もしかしたら鬼畜なのかもしれない。先ほどのオメガの相手を数分で終わらせるくらいだ。ということは、あまり時間を使わずに手早くこなさなければいけない。
殿下も騎士も俺が処女だと知っているだろう。時間がかかるとか怖がらせるなとか言っていたから、面倒臭い処女だと思われているかもしれない。
とにかく煩わせるような行動は控えるために、殿下が騎士と話しているうちに服くらい脱いで準備をしておこうと手早くシャツのボタンを外した。いや、待てよ。使うのは尻だけのはず、時間が無いのに全裸になる必要はない、あくまでも孔の確認もとい、相性を確かめる行為だ。思い直してシャツのボタンをはだけたまま、ズボンを下着ごと勢いよく脱いだ。
114
お気に入りに追加
2,473
あなたにおすすめの小説
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。

嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる