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第一章 閨係のはじまり
5、王子様
しおりを挟む俺は無になり、さっきのオジサンに連れられるままにひとつの部屋へ通された。
そこには男が二人いた。どちらが王太子なのかは迷う必要もないくらい、王子と護衛という風な二人だったのですぐに分かった。二人ともアルファだろう。アルファを領地で見ることはなかったが、明らかにキラキラ加減が違うからそうなのだと思った。アルファはとてつもなく優秀で、顔面も優れていると聞いたことがある。
俺のオヤジがアルファなのは、この世界の間違いのひとつに違いないが……。
騎士と見える男は、王太子よりもガタイがよく、王太子はまさに王子というようにキラキラとしている。俺が呆然と二人を見ていると、声をかけられた。
「君がシンだね。とても綺麗だ、美しい」
「え」
王太子らしい男は最初にそんなことを言った。綺麗だなんて言われたこともないし、目の前の男が何よりもカッコいいので、そんな人からの意外な言葉を聞いて思わず驚いた。
家を出る前、やっつけのように父親がいろんな人を手配して、俺の髪や体を磨き上げていた。だからいつもよりは多少マトモだが、美しくはない。アルファほどではないが一般男性くらいの背の高さもあるし、日にも焼けている。オメガという事で多少細身だが健康的な男そのものだ。
ベータほど平凡な顔立ちではないらしく、だからといって小さく可憐というイメージが強いオメガとは、かけ離れた見た目なのでオメガと思われることもない。きちんとすれば見た目は良いとは言われたこともあるが、領民からはオメガとは思われたことはない。どちらかというと、アルファと間違えられることの方が多かった。領民はアルファもオメガも知らない奴ばかりだから、その言葉も信じてはいなかったけどね。
それにしても、こんな俺にこの男は勃つのか? 相性なんて試すまでもなくムリだろう。そんなことを瞬時に思った。
王太子は俺の目の前に来て、挨拶をした。
近くに来た時、いい香りがした。
領土にはアルファはいなかったから知らなかったけど、アルファとはこんなにいい香りがするものなのか。たしかアルファとオメガにしか分からないフェロモンという香りが存在すると習ったことがある。オヤジと弟はアルファだけれど、身内ではそこまで香らないものなのか、それともこの王子が異常にいい香りをしているのか分からないが、目の前に立たれてくらっとした。
「私はこの国の王太子ディートリッヒ・ザインガルドだ。今回はこの役目を受けてくれてありがとう。君みたいな綺麗で健康的な子が相手で嬉しいよ」
「……初めまして。ラードヒル男爵家の長男シンと申します。よろしくお願いいたします」
俺も挨拶を返した。ここで逃げるわけにもいかない。最低限のマナーは一応仕込まれているので、ボロを出さないように背筋を伸ばした。
王太子が言う綺麗という言葉は、王族特融の挨拶の一種なのかもしれない。というか綺麗という言葉はこの王子にこそ合っている。
少しカールした顎のラインまである金髪に青い瞳、鼻もすっと高くてシャープな顎と美しい唇の形。全てが整過ぎていた。そして俺よりも高い身長に、引き締まった体。服を着ていてもなんとなく分かる、こいつはできる奴だ。きっと剣術もやっているのだろう。だがそんな美丈夫だけど、雰囲気はとても柔らかくて少しホッとした。
「では殿下。俺は退出するので相性をお試しください。シン殿、気負いせずに気楽にどうぞ」
「ああ、彼は慣れていないと思うから少し時間はかかるな」
騎士が殿下に声をかけると、殿下も笑顔で答えていた。俺に向かって騎士はなにか気を使ってくれているようだった。相性と言われて俺は少しきばった。それを見た騎士は俺に笑いかけながらも王太子に言葉をかけていた。
「殿下、シン殿をあまり怖がらせないように」
「……善処する」
王子は楽しそうに笑いながら、騎士をドアのところまで送り出していた。殿下は笑顔でいるが、怖がらせるなと騎士から言われるくらい、もしかしたら鬼畜なのかもしれない。先ほどのオメガの相手も数分で終わらせるくらいだ。ということは、あまり時間を使わずに手早くこなさなければいけない。
殿下も騎士も俺が処女だと知っているだろう。時間がかかるとか怖がらせるなとか言っていたから、面倒臭い処女だと思われているかもしれない。
とにかく煩わせるような行動は控えるために、殿下が騎士と話しているうちに服くらい脱いで準備をしておこうと手早くシャツのボタンを外した。いや、待てよ。使うのは尻だけのはず、時間が無いのに全裸になる必要はない、あくまでも孔の確認もとい、相性を確かめる行為だ。思い直してシャツのボタンをはだけたまま、ズボンを下着ごと勢いよく脱いだ。
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