王太子専属閨係の見る夢は

riiko

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第一章 閨係のはじまり

3、閨係

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 夜更け過ぎ、父の執務室。内容は時間帯に合うような話だった。

 これは昼に話す内容ではない。こんな話をするには、家族がいてはできないし、呼び出された時間帯は分かる。だが日中は勉強が終わったら森に行って木を伐り、薬草探しや野生動物を狩りに行っている。日々時間を無駄にせず、少しでも家計の役にたつことを探しているので、大変疲れている。半分は、趣味だけど。

 それでも肉体疲労は毎日のことで、夜は少しでも早く寝たい。それなのに今、俺の頭はフル回転だった。

 嫌悪感のあるオヤジから聞かされている内容は、それまた嫌悪感しかなかった。

「じゃあ、王族の決まりにより、王太子妃になる方は結婚まで純潔を守らなければならない。すると婚約者を結婚まで抱けないアルファの王太子は、若さを発散できない。その事情で代々の王太子は精通から結婚まで秘密裏にオメガがあてがわれている。そのオメガの身分は、扱いやすさから下級貴族にしぼられる。そこまで合っているか?」
「ああ……」

 王太子、そこは自己発電で頑張れよ。婚約者のいる身分で他の相手を抱くって、王族の考えることは全く持って理解に苦しむ。

「王太子の閨相手は同時期に二人で、期限を一年で区切る。そして役目を終えたオメガは後宮が用意した最高ランクのアルファとつがい契約して結婚することにより、万が一でも王太子とその後の関係が持てないようにする。そうやって毎年王家に貢がれるオメガが二人いるんだな?」
「貢がれるって……これはオメガにとって名誉なことだ。この仕事さえ終われば、普通じゃ結婚できない相手を紹介してもらえるんだぞ! 殿下の閨担当だったとは知らされることもなく、王家から紹介されたオメガとして大事にしてもらえるんだ」
「……」

 お前は親として、王宮に出入りする名目の仕事を貰えるから名誉な事だろう。閨担当の家は必ず国と関わる仕事を貰うらしい。

 王太子の閨の帰りに万が一でも誰かにここで何をしていると咎められた時、家の事情と言い逃れができるという理由のため。

 だって、国家機密だろう。王太子とエッチしましたなんて絶対誰にも知られてはいけない案件だ。

「体を売るのは俺だ。娼夫しょうふをして名誉なことがあるか!」
娼夫しょうふなんて言い方……。お前が泣いて強請ねだっても出会えないようなアルファとの未来が約束されるぞ。将来安泰じゃないか!」

 お前は何を言っている? という顔で俺を呆れた目で見る。オヤジは行き遅れオメガを抱えなくてすむし、これから国家関係の事業が始まる喜びでいっぱいのようだった。

「でもまさか、王家にそんな秘密があったとは。後宮と陛下、閨担当になった家のオメガとその父親のみが知る国家機密であり、たとえ宰相閣下や婚約者の方にも知らされることはない」
「……俺、嫌だからな。普通のオメガなら泣いて喜ぶのかは知らないその仕事も、その後の誰とも分からないアルファのつがいもお断りだから!」
「お前の我儘はさすがに通らない。ここからが肝心だからよく聞け。例えば俺とお前のどちらかがこの秘密を外部に漏らしたら、一家斬首、我が領民は奴隷落ちだ。この話を俺にした時点で決定事項であり、俺とお前は王家の秘密保持を担った」

 やべー。マジで王族やばめだ。

 こんな命令、どう考えても断れないやつだ。家族だけではなく領民みんなが人質? その割にはオヤジ嬉しそうにニヤニヤとしている。息子が娼夫しょうふになるのにいったい何を考えているのだ。

「そもそも、なんで俺だよ!? 後ろだって使ったことねぇんだぞ! 相手なんか務まるわけねぇだろ。そこんトコは伝えたのかよ、クソオヤジ!」
「お前はさっきから父親に向かって、クソだとか、これからは少し言葉づかい気をつけなさい。それと向こうはお前が処女なのは調査済みだ。万が一処女ではなかったらこの話は無かったことになるので、最終的に確認は取れと言われていたが、良かった。ほっとしたぞ」

 抱く相手に処女を望むって、初モノ好きかよ!?

「じゃあ、俺は経験済みだ。なんなら淫乱だ!」
「何をバカなことを言っているんだ。まぁ後宮医師が診察をすることになっているから、どちらにしても騙せないぞ。嘘をつく事で罪か深くなる。滅多なことを言うものではない」

 調査ってなんだよ。本当にこんなガサツなオメガなのも調査済みか?

「なぜお前かって話だが。いまだに婚約者も恋人もいない、行き遅れオメガはお前しか見つからなかったそうだ。オメガならたとえ下級貴族だろうが、早い段階でアルファとの婚約くらいは決まっている。お前はガサツだから、俺がどんなに頑張ってアルファとの縁談を持ってきてもまとまらなかった。ある意味貴重なオメガだ」
「ちょっと、待て。年間二名のオメガが担当って言ったな。毎年二人も見つるなら今回だって捜せばあとひとりくらいはいるだろうよ! 諦めるのはまだ早いって伝えろよ。それに俺だぞ? 会ったら無しって言われるぞ」

 そうだ、王子はガサツなオメガを知らないんだ。王族が出会うオメガなんて、可憐で美しい奴が基本だろう。だから知らないんだ、世の中にはこういうオメガも存在することを!

「ああ、それなら心配するな。お前の姿絵を見て殿下は乗り気だそうだ。これまではつがいのいない経験ある未亡人が条件で、今回のもう一人も経験者だ。相手のいないオメガなんて正直いないだろう。今回ひとりは処女という条件をだされた。喜べ、殿下は経験豊かだが処女はお前が初めてらしいぞ」
「……なんだよ、それ」
「婚約者が処女だからそういう相手も一人は経験しておかなければならないらしい。そして先ほど言った通りそんな条件の、行き遅れオメガはお前しか見つからなかったそうだ」

 俺はもう抵抗する言葉が見つからなかった。オヤジはにっこりと笑っている。

「さすがに息子の体を売るのは躊躇とまどったが、これさえ乗り切れば今まで誰からも望まれてなかった底辺のお前でも、公爵クラスとの結婚も夢じゃない。俺の親心を理解してくれ、といってもこれは俺が何といっても断われる案件ではないが、結果お前の将来は安泰だ」
「そんなぁ……」
「大丈夫だ、シン。お前は黙っていれば、それなりに美しいオメガに見えなくもない」
「……」
「黙ってれば……だ。そこを守れよ」
「……くそっ」
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