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本編
41、再会
しおりを挟む司の車に乗らなくなってから、なんとなく帰りにぶらぶらするようになった。一人きりで考えをまとめたくて無駄に歩くも、まとまる考えなんか持ち合わせていない。
予定通りなら、あと一ヶ月もしないうちに次のヒートが始まる。
薬を飲んでいてもヒートの時はフェロモンが出るだろう。それに、今度こそ運命とバレやしないか不安だった。ヒートは一人で乗り切った方がいいに決まっている。でも、それを司にどう言って同意してもらえるかがわからない。
「正樹」
ふいに後ろから懐かしい声が聞こえた。振り返るとそこには櫻井がいた。
「さ、くらい……」
俺はとっさに距離を取ったが、櫻井はそのまま俺に近づくことなく謝ってきた。
「正樹っ、すまなかった! 今更何を言っても許されることじゃないけど、でも俺は正樹にきちんと会って謝りたかったんだ。俺が怖いよな、正樹が無理というなら何も言わずにそのまま行ってくれ」
櫻井は一瞬目が合うも、すぐに頭を下げたので俺には表情まで見えなかった。ただ震えているのはわかった。そんな櫻井の姿勢に、そして久し振りに見た姿に、嫌悪感も怖いとも思わなかった。
そもそも俺はこいつにレイプされそうになったという、自覚はひとつもなかった。あの時は司と対面して急にヒートがきた、そして司にそのまま抱かれる、そのことで精一杯だったから。
「櫻井、怖くないよ。顔を上げてくれ」
「正樹……」
「うわっ、なに泣いてんだよ。男がこんなところで、もうっ」
そう言って俺は自分のハンカチを櫻井に渡した。
ふふ、これはさっき俺がトイレ入った時に手を拭いた、びっちゃびっちゃに濡らしたハンカチだった。俺のジミーな仕返しだ、この野郎!
ハンカチを受け取った櫻井が言った。
「これ、冷たい……」
「ああ、さっき手を洗った時びっしょり使ったからな! 人のもの使って文句は言うなよ」
「ふはっ、正樹らしい」
そして俺たちは、近くのカフェへと入って久しぶりに話をした。櫻井は人目があった方がいいんじゃないかと提案してきた、俺が嫌になったら声を上げればいいと。櫻井のことをそんな凶悪犯みたいには俺は思えなかった。カフェラテが席に届くと、俺から話しかけた。
「俺、お前があんなことしたのは、俺にも責任あるって思ったんだ」
「正樹に責任なんて何もないよ、俺が勝手に行動に起こしただけだ」
そうだろうけど、でもこいつの好意を気づかなかった。そこまでさせたのは俺の責任も少しはある。少しと言っても、ほんのちょっとだけだぞ!
「ううん、俺は鈍いだろ? それにオメガってのは存在だけでアルファは意識するものだって聞いた。そういうのも含めて俺には自覚が薄すぎたんだ。櫻井が俺に優しいのは親友だからだと、勝手にいい気になっていたんだ。考えてみたら男同士で友達だからってあんなに優しくしないよな? 俺の意識の低さが、櫻井にあんなことさせたんじゃないかって思うようになったんだ。だからずっと謝りたかった」
「正樹は相変わらず男前で優しくて甘いな。俺みたいなアルファに付け入られるはずだ。でも恋人にはなれなかったけど、親友だって思ってくれていたのはすごく嬉しい」
俺は相変わらずの櫻井の優しい言葉の流れに、ホッとした。
「それより、お前今どうしてるんだ? 退学になってその後は?」
「うん、今は親の仕事を手伝っている。通信で高校卒業の資格はとるから、落ち着いたら海外の大学に進むつもりだよ、正樹には申し訳ないけど、親の弁護士が優秀なのと、アルファということで犯罪者にはならなかったんだ。俺としては罪を償いたいと思って、正樹の家に何度か謝罪と、金銭を受け取って欲しいと言ったんだけど追い返された。もう正樹に関わらないで欲しいとだけ言われたんだ」
母さんかな? それとも父さん? 二人ともそんな事俺に一切言わなかった。
「そうだったんだ、知らなかったよ。ごめん」
「いや、謝罪は俺の言葉だろ? 正樹はあれから西条とは番に、まだなってないみたいだけど、それ、うまくいっているんだろ? もしかして次の発情期に番になる約束した?」
櫻井は自分の首に指差した。
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