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本編
12、友達だと思ってたのに
しおりを挟む指定された部屋に行くと櫻井が一人座っていた。なんだか櫻井の表情が変な気がする。そして、俺も不意に体が熱くなってきて、体調がおかしい気がした、今日はもう出かけない方がいいんじゃないかと思った。
悪いけど断ろう。
「あれ、櫻井一人? みんなはどした?」
「みんなは、こない」
「ふへっ?」
ん? なんだ? 今日は久々にみんなでカラオケとか言っていたけど、そぅいえば言っていたのは櫻井だけで、他のやつとそんな話はしなかった気もする。櫻井もなんだか様子が変だ。
「……正樹、俺、お前のこと好きなんだ」
「えっ……みんなで出かけるのって嘘なの?」
「そこかよ」
あのクラスに残っていた奴らと仕組んだのか? なんとなくだけど、櫻井が俺に対してオメガに接するような態度なんだって、最近思っていた。
だから二人きりになるのは避けていた。でも明たちも一緒だと思ったから、大丈夫だと思ったのに。
それにしても、熱い。なんかここに居たらヤバい気もするし、なんなら櫻井がいつもと違って怖い。
俺が答えに困って戸惑っていたら、急にドアがガランって開いた。
「えっ? あっ……」
扉を勢い良く開けた相手は、なんと西条だった。こんなところで対面するなんて。どうしよう! 俺の鼓動が大きな音をたたきだした。
「ん、西条? なんか用?」
櫻井が瞬時に対応してくれた、櫻井も予期せぬ相手が入って驚いているようだ。とにかく、俺は西条と話すことさえ許されない存在のオメガだ。ここに一人じゃなくて良かった。
間違えたと言って、早く部屋から出てって欲しい。櫻井に両腕を掴まれているのも気にならなくなり、俺は慌てた。そしたら西条は何か怒っているそんな表情で、俺の腕をつかんで、無言で櫻井から引き離された。
あっ! 初めて触られた! でも、これっ、やばいっっ! 体が急に熱くなって、あの感覚が蘇る。きた、ヒートだ。
こんなん西条に嫌われる! いや、俺の存在自体知らない西条に好かれているわけでもないから嫌われるも何もないだろう。ただ嫌悪感を与えたくない。俺がヒートを起こしかけているのは唯一の運命、西条がいるからだ。
「うわっ、ちょっと離してっ、なんか今やばいかも……」
「おい離せよっ! こいつは俺と過ごしているのわかんねぇか? 人の情事の邪魔をするな」
櫻井も西条を引き離そうとして、西条から手が離れた。寂しいようなホッとしたような。
ってかおい!? 櫻井、いま、情事って言った?
「はあ!? 何言ってんの、ってか、お前ら二人アルファだろ! 今はなんだかやばいから俺から離れてっ」
運命だと悟られるわけにはいかない、だから櫻井も一括りにしてアルファたちは離れて欲しいという風に言った。発情の始まり? 息が上がり、だんだんと自分からフェロモンが出てくるのを感じた。
「くそっ! 変な薬盛りやがって、正樹俺と行こう」
西条が櫻井にイラついたように怒鳴り、俺の名前を言った。
「ふへっ。薬って? なんで俺の名前をっ? と、とにかく一人にして」
俺の名前、どうして知っているんだ!? でも西条に名前を呼ばれたことで、心が……体がどれだけ震えたことか。驚きすぎて、時が止まった。俺死ぬわ。
「なんで、西条が正樹を知っているんだ? まぁいい。俺たちはこれから番になるんだ、邪魔なんだよっ、出て行け、ああ正樹いい匂いだ」
「ひっ!」
櫻井が首に顔を埋めてきた、嫌悪感で咄嗟に身震いがする。番って何、なんで櫻井はそんなことを言う? だめだ、頭が朦朧としてきた。
すると、今度は西条が櫻井から俺を引き離して、今度こそ西条の胸の中にハマった。
えっ! な、何が起きているの!? 俺の心臓今日止まるんじゃねぇか!?
あっダメだ。西条の匂いを温もり感じた瞬間、力が入らなくなり、ぐったりとそのまま胸の中に身を預けるしか無くなってしまった。
その後、櫻井と西条のやりとりがぼんやり聞こえるけど、俺は西条の胸の中、彼の、いや、俺のアルファの匂いにたまらなく安心してしまった。
「これは強姦だ、薬飲ませてヒート起こさせるなんて、お前はどうかしている」
「西条だってアルファなんだからわかるだろ? 欲しいものは何をしても手に入れる。あぁお前はオメガに興味はないからわからないか」
「わかりたくもないな、人権を無視したレイプ犯の気持ちなんて」
「とにかく、お前には関係ないだろ! これは俺と正樹の問題だ」
何か言い争っているが、耳は音としてしか拾うことをしない、内容まで入ってこない。それよりもオメガの本能が運命の腕の中にいることに、喜びに震えていた。
すると、西条の香りがブワっと俺に降りかかった。やばいっ!
「正樹、大丈夫だ。俺がお前を守るから、少しだけ我慢していて。ヒート辛いか?」
あぁヒートなんだった、答えなくちゃ。
「んっ、まだ少し大丈夫かも」
「でも、そろそろやばいな、すぐにここを出るから大丈夫だ」
俺、まともに返すこともできない。ちゃんとしなくちゃ、西条から離れてあげなくちゃ、そう思う頭と、離れたくない体。このままずっとギュゥっとしていてと思ってしまう心。とりあえず、もう返事だけして身を委ねた。
「う……ん」
俺はそのまま目を閉じて思考を閉ざした。
途中なんかバタバタと騒がしい音が聞こえたと思ったら、西条の低い男らしい、それでいて最高に優しい声が聞こえてきた。
「正樹、終わったよ。お前はもう大丈夫だ」
そうか、大丈夫なのか。よかった。
「んっ、おわったの……あり、がと」
とりあえずお礼を言っておいた。俺、何があったんだっけ? でもいいや。最高にしあわせ。だって俺のアルファは、今度は俺を拒否せずに優しく包んでくれているんだから。
この幸せはいったいなんのご褒美だろう、これは死ぬ前の走馬灯!?
父さん母さん、先立つ不孝をお許しください。真山正樹は、今日死にます!
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