運命の番は姉の婚約者

riiko

文字の大きさ
上 下
69 / 71
番外編【隆二視点】

本当の出会い 1

しおりを挟む

 ある日、加賀美が運命のつがいを知ったと言った。しかし、自分はベータの女性と将来を考えているので、その運命の糸を切りたいと。

 その運命は、なんと加賀美の婚約者の弟だった。

 運命とは、本当に皮肉なものだと思った。僕も高校時代に運命のオメガを知った。しかしその時の彼にはすでにアルファの婚約者がいた。諦めきれずになんども告白して、その彼を困らせた。運命だからなのか、会うと必ずと言っていいほど、お互いが興奮状態になる。

 幼かったからとはいえ、僕はその運命のオメガを惑わせてしまった。

 いい加減に彼の幸せを願った方がいいと思い、自分から彼に最後の言葉をかけた時、その彼は焦ったように僕に縋りつき、「結婚はもう避けられないし、婚約者を愛している。それなのに、この体はあなたを求めてしまう」涙ながらに言われた。

 体だけでもいいなんて思ってしまいそうな自分を諫めて、彼の前から姿を消した。その数日後、僕の帰宅途中の道で、抑制剤の使用をやめた彼が目の前に現れ、そのままビルの間の人目のつかない場所で僕らは、本能のまま交わった。

 最後に運命としてみたかった、そう言われた。

 そんなことのためだけに彼の体を知りたくなかったし、抗えなかった自分に苦しくなる。そんな僕の苦しみを知らない彼は、その週に婚約者とつがいになった。

 彼が、僕の目の前に現れたとき、以前まで強く僕を惹きつけるフェロモンは何も感じ取れなかったので、すぐにわかった。そして、彼の他のアルファに噛まれたうなじを見ると、僕の中のなにかが崩れた。

 そこから体調が悪くなり、体力低下でしばらく入院した。バース科の医師いわく、運命のつがいと接点を持ってしまったのに、運命の糸が人為的に切れたことへの後遺症らしい。愛する人を奪われたことを、アルファの本能が受け入れられない状態になったということだった。

 ――そうか、僕は彼を愛していたんだ。

 その時やっと涙が出てきて、それに気が付いた。

 加賀美はすでに運命を見て、さらに詳しく調べていることから、もうその運命に執着をしているのだろう。運命の糸を切ったら酷い後遺症になると、僕の経験からわかっていた。

 それでも彼は今の愛する婚約者を選ぶというのなら、あの時のオメガと一緒だと思う。その後、そのオメガがどうなったのかは知らないけれど、少なからずあの時のオメガも僕を求めていたのだから、つがいができたとはいえ、なにかしらの後悔や辛さは残っただろう。

 ――もうすでに執着している目をした加賀美。

 それなのに、加賀美が運命の糸を切りたいと言う。あれは本心ではなく、自分に言い聞かせているだけだ。きっと彼は後悔することになる。でも、もしかしたら自分から欲しがる女性が側にいるなら、あの時の僕ほどにはならないかもしれない。

 それよりも、相手のオメガの男の子のほうが心配になった。

 まだつがいに夢見る十代なのに、自分が知る前から運命のアルファに拒絶されていると知ったとき、その子はどうなるのだろう。まだ運命に気が付いていないオメガの男の子のことを考えると不憫でしかなかった。出会っても絶対に好きになってもらえないことが、すでに出会う前から決まっている。

 自分が経験したようなあの虚無を、オメガの子に味合わせるのは可哀想だと思った。だから、僕は加賀美に協力することにした。

 加賀美は僕のあの苦しみを見ているのに、簡単に考えすぎている。まぁ、経験してみなければわからないこともある。抗うことがどんなに大変か、自分で感じてみればいい。

 ――だったら、僕が彼の運命になる。

 それはつがいという意味ではなく、社会で成功する喜びをサポートするという意味だった。運命のいたずらは、もうこりごりだ。彼を導き、運命なんて存在はこの世にいなくても社会では普通に生きていけるし、本能ではなく、心が震えるそんな恋愛ができるようにしてあげたかった。

 そんな些細なことがきっかけだった。それなのに、まさか僕が彼に運命を感じてしまうなんて……

しおりを挟む
感想 256

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

全寮制の学園に行ったら運命の番に溺愛された話♡

白井由紀
BL
【BL作品】 絶対に溺愛&番たいα×絶対に平穏な日々を過ごしたいΩ 田舎育ちのオメガ、白雪ゆず。東京に憧れを持っており、全寮制私立〇〇学園に入学するために、やっとの思いで上京。しかし、私立〇〇学園にはカースト制度があり、ゆずは一般家庭で育ったため最下位。ただでさえ、いじめられるのに、カースト1位の人が運命の番だなんて…。ゆずは会いたくないのに、運命の番に出会ってしまう…。やはり運命は変えられないのか! 学園生活で繰り広げられる身分差溺愛ストーリー♡ ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承ください🙇‍♂️ ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~

華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

【完結】今更愛を告げられましても契約結婚は終わりでしょう?

SKYTRICK
BL
冷酷無慈悲な戦争狂α×虐げられてきたΩ令息 ユリアン・マルトリッツ(18)は男爵の父に命じられ、国で最も恐れられる冷酷無慈悲な軍人、ロドリック・エデル公爵(27)と結婚することになる。若く偉大な軍人のロドリック公爵にこれまで貴族たちが結婚を申し入れなかったのは、彼に関する噂にあった。ロドリックの顔は醜悪で性癖も異常、逆らえばすぐに殺されてしまう…。 そんなロドリックが結婚を申し入れたのがユリアン・マルトリッツだった。 しかしユリアンもまた、魔性の遊び人として名高い。 それは弟のアルノーの影響で、よなよな男達を誑かす弟の汚名を着せられた兄のユリアンは、父の命令により着の身着のままで公爵邸にやってくる。 そこでロドリックに突きつけられたのは、《契約結婚》の条件だった。 一、契約期間は二年。 二、互いの生活には干渉しない——…… 『俺たちの間に愛は必要ない』 ロドリックの冷たい言葉にも、ユリアンは歓喜せざるを得なかった。 なぜなら結婚の条件は、ユリアンの夢を叶えるものだったからだ。 ☆感想、ブクマなどとても励みになります! ☆ムーンライトノベルズにも載せてます。 ☆ 書き下ろし後日談をつけて、2025/3/237のJ.gardenにて同人誌にもします。通販もあります。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

処理中です...