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第五章 策略
59 姉の想い 2
しおりを挟む響也から、榊との関係性を聞いた翌日、響也に内緒で榊に会いに行った。
榊の本心を知りたいと思う。
爽がたとえ榊を好きでも、榊が最悪な人種だったら、私はなにがなんでも二人を別れさせるつもり。榊は私用で休暇を取っていると言われ、爽の姉だと榊の秘書には伝え、休暇明けに連絡をくれるように頼んだ。それが爽のヒートでの休暇だったと、榊と初めて対面した時に聞かされて正直驚いた。爽はもう、榊の全てを受け入れた。
「麗香さん、はじめまして。もう加賀美から聞いてしまったんだよね?」
「ええ、聞きました。榊さんは私の弟をどうするおつもりなんですか? 爽が響也の運命の番と知っていてお付き合いを始めたそうですが、そんなことしていったい何の意味があるの? 友人のため? そのために私のたった一人の弟を苦しめるんですか?」
榊を初めて目の前にして、驚いた。母がイケメンと煩かったのが納得の美男子だった。響也とはまた違った種類ではあるけれど、成功者そのものというアルファらしいアルファだった。
爽ったら、どうしてこんな人をベータだと思えたのよ! もう本当に弟の無知さには呆れてしまう。
榊はアルファらしく傲慢なのかと思ったら……響也は少しそういう部分があるから。そんなこともなく、私に頭を下げてきた。
「きっかけが酷すぎることは認めます。本当に申し訳ありませんでした」
「え?」
こんな風に、素直に謝られたことに驚いた。
「僕は、加賀美から話を聞いて、爽がかわいそうだと思ったんです。まだ会ったこともない運命の相手に、最初から否定されて、さらには他の男を当てがおうとされているオメガの子がどうしても不憫で」
「……そうですね。私も響也からその話を聞いたとき、なんて自分勝手な考えだって思いました。自分の幸せの為に他人をだますなんて」
丸く収めたつもりが、やはり私は響也のその考えには頭にきていた。私の話を聞くと、榊は真剣な顔をした。
「それほどまでに、加賀美は麗香さんに本気だったんですよ。アルファ側の不安も、もちろん僕には理解できます。本当に好きな人がいるのに、運命を知ってしまったら、それは不幸でしかありませんからね。運命とは残酷でむごいと思います。仮に爽が加賀美に本気になっても、加賀美が拒否をしたら、その時オメガ側は心に深い傷を負います。ですから、初めから出会わなければ誰も不幸にならない。そう思って、協力をしました」
「それは、そうですけど、でもそんな理由……哀れだからオメガを恋人にするなんて、失礼だと思いませんか?」
そうよ、それこそアルファの傲慢そのものの意見だわ。
「僕は、最初から恋人にするつもりはなかったんです。僕の会社に入れて、そして彼に仕事としてのやりがいを与えて、それとなく海外勤務を進めたりして、運命と会う確率を低くしてあげたかった。結婚式のことは加賀美から聞いていましたが、そんなの僕が仕事を振ってしまえばどうにでもなると思いました。そのために、僕は爽をずっと見てきた。彼の仕事ぶりや人柄すべてを、そしていつの間にか、僕は恋に落ちていた」
「え……」
そんな深く考えていたの? まさか、爽が就職できたのも、榊のおかげだった? すべては爽が高校生のときから計画していた? しかも恋人にするのではなく、オメガとして自立させて、運命と距離を置かせるようにしていた? その考えに驚いてしまって、何も言えなかった。
「本当は、爽を育てたかったんです。ですが、僕が恋をしたことで爽を誰にも渡したくなくて、家に囲いました」
「え、え、えっと?」
「アルファの習性らしいですよ。僕にもそんな一面があったことに驚きでしたがね」
榊はそう言って、笑った。とても穏やかで、真実爽を愛しているということが痛いほどわかった。響也よりもよっぽど人がいいし、その顔を見たら爽を安心して任せられる気がした。
「あなたは、爽を?」
「愛しています。心から……彼に番になってほしいと申し込みました。もちろん結婚して、僕と一生を過ごしてほしいとも」
「爽は? 爽はどう答えたんですか?」
「まだ返事はもらっていないんです。でも爽も僕を受け入れてくれています。僕を愛してくれている……それが最近わかったんです」
嬉しそうな表情で話すその言葉は、嘘ではなさそう。
二人はもう相思相愛なんだ。だったら響也が邪魔はできない、そう思いなぜか安心した。
そしてその数日後、爽に会うと、恋をしている顔をしていた。そこで私は安心してしまった。たとえ運命に会っても、もう響也の入り込む隙はない。嬉しそうにお腹を触って妊娠したと話す爽は、とても幸せそうだった。二人が望んで発情期を過ごしたのなら、子供を欲する気持ちもわかる。以前、爽は想像妊娠したくらいに子供を欲しがっていた。番より先に愛の形が欲しかったのかもしれない。それに爽は最近アルファを受け入れ始めたから、まだ契約には踏み切れないだけで二人は未来を見ていた。
私は幸せそうな弟を見て、そう思った。
響也はもう爽のフェロモンを感じないはず。響也はちゃんと失恋すればいいと、そんな意地悪な考えが浮かんでしまった。
彼が爽に惹かれ始めているのは、気づいていた。それでも私が彼と婚約を解消しないのは、愛ではない。弟を守るためだった。あんな男に、興奮するからという理由だけで、私の愛する弟の一生はあげられない。だから私が防波堤になるとそう決めた。
そんな浅はかな考えが最悪な結果になった。
榊の言葉を信じすぎた。結局榊は爽とのヒートを楽しんだだけで、番にもしていなければ、爽が望んでいた妊娠もさせていなかった。
そして爽は、私のせいで、辛く悲しい運命との出会いを果たしてしまった。
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