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最終章 本当の幸せ
61 修羅場 2
しおりを挟む覚悟を決めたとき、なぜか慣れ親しんだ香りがしてきた。そう感じた瞬間、扉が大きな音を立てて、壊された。
「ね、ねぇちゃん!!」
俺は意識が朦朧とする中、眠らされてしまった姉を心配した。入ってきたのは、俺の護衛をしてくれていた人だった。彼によって姉は、腕をほどかれ救助された。
「りゅ、りゅうじ!」
やはり、そこには隆二もいた。俺の求めるアルファがそこにいた。涙が零れる。もう会えないかと思っていた相手。
「加賀美、爽を離せっ!」
「榊、邪魔するな。お前は爽を番にしなかっただろう、もうお前には任せられない。爽は俺のだ!」
「違うだろう、お前には麗香さんがいる。今まで耐えたじゃないか!」
スーツ姿の隆二が突如現れて、入ってきた相原と一緒に加賀美の胸から俺を引き離した。そして自分の胸に囲った。
ああ、この香り、俺の本能をくすぐる香りとは違うけど、この香りが俺の求めている香りだと心はそう言った。言葉が発せられない、今起こったことの整理もつかない。ただただ隆二にしがみついて、心と体の誤作動を鎮めるために、深呼吸した。涙がとまらない、思考も働かない、それでも、やっと安心する場所に帰ってきた安堵感が勝った。
「まやかしだ。所詮、ベータでは俺を止められなかった。運命と一緒になるしかいないんだよ、爽を見ろ。お前じゃなくて、俺に発情している。それがすべての答えだ!」
「違う、爽を見ろ、泣いて抗っている。体は反応しても、心は抗っているんだよ!」
加賀美は相原に体を拘束されながら、もがいていた。俺は隆二に抱きかかえられて、安心して縋りついた。本当はそっちにある香りに縋りつきたい、体はそっちに行こうとしているのに、心は隆二の胸に収まって安心している。
「爽、怖かったね。もう、もう大丈夫」
隆二の優しい声を聴いたら、止まっていた声が一気にあふれ出す。
「う、う、うわぁぁー、隆二っ、りゅうじっ」
「もう大丈夫だ、爽。よく頑張った」
「う、う、うう、は、んんん、もう、だめ」
「わかってる、すぐに抱くから」
隆二とともに、相原が部下らしき警官を引き連れて入ってきた。そして、加賀美は警察官に何かを注射されて、意識を失った。姉は入ってきた人たちに助けられ、何かを嗅がされるとそこで意識が戻った。
「麗香さん、大丈夫ですか。加賀美は眠らせましたから、もう大丈夫です」
加賀美を部下に引き渡した後、相原が姉を支えていた。ああ、相原もグルだって、加賀美は言っていたけれど、その割にはどうして助けてくれたのだろう。俺の頭はすでに回らない。
「あ、ありがとうございます。ああ、爽、爽!」
「大丈夫です。弟さんは榊が保護しました」
「だ、だめよ! その男はだめ。爽は、彼らに騙されてきたの」
姉はそう言って、俺のもとに来ようとした。それを相原が止め、そして隆二も俺を渡さないと言わんばかりに、抱きしめる腕に力がこもった。
姉が俺のことを心配して叫んでいる声が聞こえる。俺は、婚約者をフェロモンで奪おうとした罪深い弟なのに。ぎゅっと隆二の服にしがみついた。
「爽、大丈夫。大丈夫だよ、お姉さんの誤解はすぐに解くから」
誤解ではないと思った。真実は、俺たち姉弟をこのアルファたちが騙したこと。しかし、もうそれはどうでもいい。今は目の前の愛しい人の熱が欲しい。
「まだ俺に触れてくれるなら、お願い、キスして」
「え?」
隆二がその言葉に驚いた。
「隆二の唾液が欲しい、俺の発情抑えられるの、隆二、だけ」
「爽、愛してるよ」
そうして隆二は俺にキスをしてくれた。姉を残して、俺は隆二に抱きかかえられてその部屋を出た。
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