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最終章 本当の幸せ
60 修羅場 1
しおりを挟む加賀美は、拒絶する姉をいとも簡単に抱え上げ、自分のネクタイを外し姉の腕を後ろで縛った。そして、嫌がる姉にキスをしていた。
すると、少しして姉が静かになり、意識を失ったように見えた。
「あ、姉になにをした!」
「ああ、自分の弟が婚約者に抱かれる姿はさすがに見せられないから、薬を飲ませて眠らせた」
そして加賀美が自分のワイシャツのボタンをひとつひとつ外しながら、俺の前に来た。
「そ、そんな、は、ん、んんん?」
「少し、黙れっ」
キスをされた。
勢いよく唇を塞がれる。運命とのキスはとてつもない快楽だった。隆二とのキスしか知らないし、比べるのも嫌だったけれど、テクニックとかではなくて、本能に突き刺さる感じが違った。隆二とのキスは、ただただ気持ち良くて心も体もふわふわして幸せなのに、運命とのキスは、なんかこう、細胞に響き渡るくらい強烈で、俺には刺激が強すぎた。
俺は、このまま運命に抱かれてしまうのか? もしかして番にされてしまう?
ネックガードは、ヒート時にボロボロになってしまった。新しいネックガードを発注していて少し時間がかかるということだったので、それまでの代用品は一応家で着けていたけれど、それは隆二の指紋なしでも外れるものだった。妊娠しているし大丈夫だと思って、家を出るときに外していた。だから、今俺のうなじは見えている。
バカな考えで運命を避けたから、こうなった。すべては、最初から運命と対峙しない対処法を間違えたからだ。姉を傷つけないようにした結果、最悪な方法で今から姉を傷つける。そして、俺はもう一生隆二に会えない。
隆二は、俺を愛しているのかはもうわからない。嘘でもいいから隆二を信じて、番にしてもらえばよかった。
嘘でもいいから……
俺の心が嘘じゃなければそれでいい。たとえすべてが嘘だと聞いても、もうそんなのどうでもいい、俺の番は隆二しかいない。そう確信を持って言える。
しかし真実はただの親友からの頼みで、オメガを騙しただけ、それだけだった。そして俺の胎にはきっと、隆二の子供はいない。発情期の時、知らない間に避妊薬を飲まされたのだろう。アルファを相手にこんなにも妊娠しないなら、それはひとつしかない。相手が望んでいないから。
もう体の自由が利きそうにない。キスをされて、彼の体液が口内から入り込んで、ますます体はヒートアップしていく。求めていたフェロモン、もう逆らう必要はない。すべて最初から決まっていた。運命に出会ったオメガの宿命。
俺は、この宿命から逃れられない。
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