運命の番は姉の婚約者

riiko

文字の大きさ
上 下
58 / 71
第五章 策略

58 姉の想い 1 〜麗香視点〜

しおりを挟む
 
 大好きな弟の運命のつがい

 それがまさか私の婚約者だなんて夢にも思わなかった。結婚式まで半年を切った頃に響也からそのことを知らされ、途方に暮れた。

 先日爽に、響也と結婚すると話したばかりなのに。こんなことってある? どうして今更それを……爽の存在に気付いた瞬間、私に言ってくれていれば、まだ何かできることはあったかもしれない。

 響也はもう抑制剤の使用に対して、限界を感じていたようだった。たまに副作用で辛そうにしているのを見ていたから、そこまでの我慢を今までしていたのだと知って、辛くなった。

 彼が爽の運命なら、爽が唯一受け入れられるアルファ。

 爽は高校生の時にアルファに襲われてから、アルファが怖くて少しでもアルファのフェロモンを感じると怯えるようになった。だから、私に染みつく響也の香りが苦手で、爽と触れ合うときは香りを落とすように気を付けていた。

 もしかして今おもえば、それは運命の香りにヒートを起こしかけていたのを私に気付かれないようにしていただけなのかもしれない。そもそも爽が運命を知っているのか知らないのかも、フェロモンを感知できない私には想像がつかない。

 でも実際、響也は何度も私に着く爽の香りにラットを起こした。最初はオメガの香りはそこまでアルファ性を揺るがすものなのかと不安に思ったけど、ようやく謎が解けた。

 私は、運命なら二人が結ばれてもいいとさえ思う。愛する弟が唯一受け入れられるアルファが私の婚約者なら、二人を引き裂くことはできないと思って身を引こうと考えた。

 でも響也は、違った。本能では弟というオメガを欲しがってしまうけれど、私のことを心では愛していると必死に言ってきた。話したこともない相手を、好きだと思っていない相手を、お互いに本能だけで結ばれるのは不幸だと言った彼を信じることにした。そのちぐはぐな想いこそ、彼の心をむしばんでいったのかもしれない。

 運命の実態を聞くと、それは不幸でしかないと思った。

 好きでもない相手を求める気持ち、好きな相手がいるのに他の人を抱きたいと思ってしまうなんて、なんて残酷なのだろう。

 アルファもオメガも、私たちベータからしたら夢物語みたいな部分があったけれど、実際には不幸でしかない。

 爽だって、フェロモンが理由で男に襲われた過去を持つ。ただフェロモンを持つオメガということだけで、アルファという強い人種に搾取されるなんて、世の中はとても残酷だと思った。

 響也のことを心から愛しているし、弟のことは誰よりも守らなければいけない尊い存在。あの子が過去にアルファに襲われたことで、私の中ではより一層庇護欲が高まったし、爽には心から幸せになってもらいたいと思っている。

 爽に榊隆二という彼氏ができたと母から聞いた時は、正直うさんくさくて受け入れられなかった。弟をだましてベータとして近づいたなんて不快。でも、爽はそれでも彼を好きだと自覚したようだから、始まり方は最悪でも、爽が幸せならそれでいいと思っていた。

 それなのに、榊との出会いが、まさか響也に仕組まれていたことだったなんて。響也から爽の情報を聞いていて、あえてアルファとしての出会いを避けたなんて、ずるい男としか思えない。でもそれを知ったときはすでに遅かった。爽が榊に恋をしていて、二人は同棲までしてうまくいっている時だったから。それでも、爽がそれに気づかずに、二人の恋が愛になっていたのなら、もうありなのかもしれないとまで思ってしまった。

 それよりも響也の恐ろしさを見た。いくらなんでも私たちの結婚の為とはいえ、私の弟をだまして友人に差し出したと聞いたときは、ぞっとした。

 そして、もしかしたら響也は爽を求めているのかもしれないと思い始めてしまった。私という婚約者がいるから理性でとどまっているだけ。本当は運命の相手と結ばれたいと思っているに違いないと感じる。

 だけど、もう引き返せない。

 こんな策略をする男を野放しにしたら、この男に不幸にされる人が絶対に出てくる。彼を愛しているのは確かだけど、私はもうわからなくなっていた。でも、弟を守るためにも、彼と結婚するべきだと思った。いずれは榊と爽はつがいになる気がしていた。爽はそれほど榊に惹かれているのは姉の目からしたら一目瞭然だった。

 せっかく爽が初めて真剣に恋をしているのに、それをただ本能だけで体だけで感じる相手と一生を添い遂げるなんて、絶対にさせたくなかった。もう少し早く二人を出会わせてあげていれば、違った未来もあったかもしれない。私が彼を諦めれば済むだけのことなのだから。

 でも彼の本当の姿を知った今、絶対に弟を渡したくなかった。


しおりを挟む
感想 256

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

溺愛アルファの完璧なる巣作り

夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です) ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。 抱き上げて、すぐに気づいた。 これは僕のオメガだ、と。 ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。 やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。 こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定) ※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。 話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。 クラウス×エミールのスピンオフあります。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

さよならの向こう側

よんど
BL
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った'' 僕の人生が変わったのは高校生の時。 たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。 時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。 死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが... 運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。 (※) 過激表現のある章に付けています。 *** 攻め視点 ※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。 ※2026年春庭にて本編の書き下ろし番外編を無配で配る予定です。BOOTHで販売(予定)の際にも付けます。 扉絵  YOHJI@yohji_fanart様

全寮制の学園に行ったら運命の番に溺愛された話♡

白井由紀
BL
【BL作品】 絶対に溺愛&番たいα×絶対に平穏な日々を過ごしたいΩ 田舎育ちのオメガ、白雪ゆず。東京に憧れを持っており、全寮制私立〇〇学園に入学するために、やっとの思いで上京。しかし、私立〇〇学園にはカースト制度があり、ゆずは一般家庭で育ったため最下位。ただでさえ、いじめられるのに、カースト1位の人が運命の番だなんて…。ゆずは会いたくないのに、運命の番に出会ってしまう…。やはり運命は変えられないのか! 学園生活で繰り広げられる身分差溺愛ストーリー♡ ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承ください🙇‍♂️ ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~

華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

処理中です...