運命の番は姉の婚約者

riiko

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第五章 策略

57 運命の相手 7

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 翌日病院で目が覚めた。麗香は泣きながら隣に一晩中寄り添ってくれていた。

 麗香と話さなければと思い、これまでの榊との話を麗香にした。つがいにしてくれという話は、相原でさえみかげに言っていないのだから、さすがに実の姉が聞いたら気分が悪くなると思い、そこだけ避けて話した。

「弟はそんなことの為に、知らずにあなたの友達と付き合っているの?」
「そんなことって、俺たちの未来のためだ」

 麗香は怒りを表すように、冷たい口調になった。

「ちょっと待って。あなたは私の弟をどうしたいの? 友達を近づけてそしてどうするの? 弟をその気にさせて捨てるの?」
「違う! 俺はただきっかけを作ったにすぎない。榊は爽に本気になった」
「それって、本気にならなかったらどうしたのよ! 弟はただでさえアルファにトラウマがあるのに、もっと酷いトラウマになるところだったのよ! どうかしてるわ」

 俺の言葉に納得をしていない。

「すまなかった、榊が遊びだとしたら、俺がまた爽に見合うアルファを……」
「ふざけないで! どうして爽があなたの都合でアルファと出会わなければいけないのよ。それに……あなたは大丈夫なの? そんなに倒れるほど薬を乱用して。私と結婚したところで、たとえ爽が誰かと恋をしても、爽が弟なのは変わらない」

 俺の選んだアルファが確実に結婚式までにつがいにするから大丈夫だよ、とは言えないので、俺は言葉に詰まってしまった。

「そもそも爽は、昨日どうしてあそこにいたのかしら。あなたがラットを起こすくらいだから、もしかして爽もヒートを? あなたたち、会ったの?」
「いや、遠目で確認しただけだ。お前が俺と待ち合わせをしていると言ったんじゃないのか?」

 その言葉に、まったく覚えがないのか、すぐに否定してきた。

「言ってないわよ。運命の二人を私が会わせるわけがないでしょう。でもいったい、爽は……」
「もしかしたら、姉の婚約者をただ確認したかっただけなのかもしれない。それで突然ヒートを起こしたと思ってその場を離れただけかもしれない。友人と車に乗っていたのを見ただけだから、想像でしかないけど」

 麗香が苦しそうな顔をする。そしてそんな優しい理由じゃないと俺は思う。あの子たちはすべてを知っているようで、焦った顔をしていた。明らかに俺を待ち伏せしていた。ということは、爽が運命に会いたいと言ったに違いない。だが、それを麗香が知る必要はない。

「あの子、なんて浅はかなことを……アルファが苦手と言っておきながら、私の婚約者を確認しにくるなんて。もしかして、榊さんと付き合いだして、アルファが大丈夫になったのかしら」
「それは知らないが、麗香の弟なのに、少し奔放すぎるし危険な子だと思ったよ」
「……ごめんなさい」

 麗香はその内容で納得したようだった。

「だったら、爽は運命には気づいていない可能性があるかしら」

 いや、あれは確実に気づいていた。

 そもそも俺が麗香と付き合っている時点で、俺のフェロモンは感じていたはずだ。爽は、姉の彼氏が自分の運命だと知り、身を引いたのかもしれない。そして結婚前に一目俺を見ておきたいとでも思ったのだろうか。それだったら、なんて健気な子だろう。榊が本気になるのもわかる気がした。そして麗香をこれ以上不安にさせたくなくて、俺は麗香が欲しい答えを言った。

「気づいていないよ、きっと」
「そうね、爽ならそそっかしいから気づかないかもしれない。でも、爽につがいができるまで、私は爽と会わないようにするわ」
「あんなに好きな弟と会わなくて平気なのか?」
「私のせいで二人の未来を、これ以上壊したくないもの」

 俺が麗香を欲しがったばかりに、これからも苦労をかけてしまうかもしれない。でも榊が本気なら、俺と爽がなんのしがらみもなく会える日はすぐそこまできている。

「ああ、大事なことを忘れていたわ。私たちの結婚式に爽を呼ぶことはやめましょう。あなたが爽の運命だと知った日に、早くそうしておけば良かった。結婚式に出られない理由は私が考えるから、だからもう安心して」
「麗香……」

 俺なんかよりも、よっぽどアルファらしい性格をしていると思った。

 でも、爽はどうして俺に会いにきたのだろうか。

 わざわざ友人と運命を確認しにきたのは、もしかして榊とうまくいっていなくて俺を求めた? ざわついていた心が少し落ち着いた。爽も俺と同じで苦しんでいる。それを知れて嬉しかった。俺の運命も一緒に苦しんで抗っている。

 その出来事が、俺の中で爽をより一層大きな存在へと変えた。初めての対面は、俺の心を揺るがすのに、とてつもなく大きいことだった。俺は麗香を愛しているはずなのに、もしかして爽のことも?

 麗香や、榊、そして相原が言う爽しか俺は知らない。でもそろいもそろって、爽がいい子だと知るくらいには皆、爽を好きなのはわかる。俺の運命は誰にも好かれるような、とても素晴らしい人間。なぜか俺が誇りに思ってしまう。

 爽を初めて目の当たりにして、俺は少しおかしくなっていった。

 そしてそれ以来、少しだけ麗香から距離を感じるようになった。

 そして運命の日がきてしまった。


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