49 / 71
第四章 揺れる心
49 揺れる
しおりを挟む姉が婚約者を呼んでくるから少し待っていてと言って部屋を出ていったので、応接室でひとりで出されたお茶を飲んでいた。さすがに、いきなり弟連れてきたよ、とはいかないだろう。
実は運命の男は一週間の出張にでていて、久しぶりに会うらしいから、そういう時間も必要なのだろう。というか忙しいカップルだなぁ。どちらかが長期出張って! そりゃ、同棲もしたくなるわ。
久しぶりの抱擁でも終わった後に、俺を紹介するのだなと思って、のほほんとしていた。
それにしても凄いところだ。隆二もこういうオフィスでバリバリ働いているのかな? 俺はずっと工場勤務だったから、スーツの人がいるところも、こじゃれた空間もそわそわするよ。
姉は有休をとっていたにもかかわらず、オフィスカジュアル? みたいに綺麗な服装だった。俺はというと、完全休日モード。ジーンズとスニーカーだよ。でも、今着てる俺の服はすべて隆二がそろえてくれているから、実はちゃんとしたところの服なのかもしれない。知らないけど。
やけに長い時間待たされるので、お茶も結構飲んでいたからか、尿意を覚えてそこを出てトイレに向かった。
用を済ませたあと、なぜか道に迷ってしまった。そしてどうしてかひとつの部屋の前にたどり着いた。俺を誘導する何かがあった。そこにとてつもなくおいしいものがあるよと、謎のささやきが聞こえる気がして、蜜に群がる蝶のように、ひらひらと無意識に誘われるがままそこに行ってしまった。
すると、その部屋から姉と男の声が聞こえる。
「どうして連れてきた!?」
「だって、もうフェロモンは大丈夫だって言っていたから。爽は妊娠したの、榊さんの子供よ。だからもう安心して、響也」
「妊娠って、なんでそんな話に!」
なんで俺の妊娠話をしているんだ? それに相手の男が怒った。というか相手の男は加賀美だった。
そもそも未婚で妊娠している弟がいる人を、あの婚約者の家が許すのだろうか。俺は言ってはいけないことを言ったかもしれない。黙って結婚式に出ればよかったのに、なんで俺、妊娠したことを報告しちゃったんだろう。きっとふしだらな弟がいることに、怒ったに違いない。
俺はそっと、その場を去って帰ろうとしたときに耳を疑った。
「俺はそんなことの為に、あいつに託したんじゃない。それを番にもせずに先に子供を作るなんて、榊にはもう爽を任せられない」
え? 今、なんて? 榊に託したって……しかも運命の男に名前を、俺の名前を呼び捨てで言われていたことに、体が反応した。
「だったら何? あなたが爽を番にでもするの? ただあなたは自分の運命から逃れるために、榊さんを仕向けたんでしょ。その話だけでも許せなかったのに、でも、爽は榊さんを好きになったから、だからあなたを許したのよ!」
「違う! 爽は榊じゃダメだったんだ。あの日あいつが何をしたか、麗香も見ていただろ」
なんだって? 姉は、今なんて言った? 二人は俺の運命を知っている? しかもなんでそこに隆二の名前がでてくるの……え、いったいどういうこと? あの日ってどの日? 俺が一体何をしたっていうんだよ。
「俺は散々抗ってきた。もう限界なんだよ、麗香もこの間のラット見ただろう」
「そ、それは、爽の行動はごめんなさい」
もしかして、あの日のこと? 礼と春に頼んで運命を確認する、あの行為? 加賀美も姉も俺があそこにいたことに気付いていた?
「ベータの麗香には俺の辛さがわからない。俺はお前を愛するために運命を拒絶し続けているんだ。本来なら、どうしたって逃れられないものをずっと我慢している」
「我慢って、でも、結局あなたは運命に抗えないのよ。爽のこと、好きなんでしょ。榊さんと一緒にさせようとしても、自分の運命を抱いた榊さんを許せないのよ!」
え、運命は俺を好き? 凄い剣幕で姉が怒鳴っている。こんな声聞いたことない。
「麗香……」
「もう、もうやめてよ、爽は私たちの幸せの為に犠牲になっていいわけない。あなたが爽を諦められないなら、もう終わりよ」
姉は、俺のことを、どこまで知っているのだろう。「私たちの幸せの為の犠牲」って、なに?
隆二は運命に……加賀美に言われて俺を誘った? 加賀美が姉と結婚するために運命のオメガを排除する目的のために、俺を? じゃあ、どうして隆二は俺に愛していると言ったの? 俺に子種をくれたの? どういうこと? 隆二の俺への想いはすべて嘘だった?
隆二が俺を初めから裏切っていた?
辛くて苦しくてどうしようもなくなった。でも、隆二の真相を聞きたい、そう思ってそのドアを開けると、言い争っていた二人がこちらを見た。
「姉ちゃん……今のいったい、どういうこと?」
「そ、爽ちゃん……」
66
お気に入りに追加
2,356
あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
全寮制の学園に行ったら運命の番に溺愛された話♡
白井由紀
BL
【BL作品】
絶対に溺愛&番たいα×絶対に平穏な日々を過ごしたいΩ
田舎育ちのオメガ、白雪ゆず。東京に憧れを持っており、全寮制私立〇〇学園に入学するために、やっとの思いで上京。しかし、私立〇〇学園にはカースト制度があり、ゆずは一般家庭で育ったため最下位。ただでさえ、いじめられるのに、カースト1位の人が運命の番だなんて…。ゆずは会いたくないのに、運命の番に出会ってしまう…。やはり運命は変えられないのか!
学園生活で繰り広げられる身分差溺愛ストーリー♡
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承ください🙇♂️
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~
華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。
もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。
だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。
だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。
子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。
アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ
●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。
●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。
●Rシーンには※つけてます。
【完結】今更愛を告げられましても契約結婚は終わりでしょう?
SKYTRICK
BL
冷酷無慈悲な戦争狂α×虐げられてきたΩ令息
ユリアン・マルトリッツ(18)は男爵の父に命じられ、国で最も恐れられる冷酷無慈悲な軍人、ロドリック・エデル公爵(27)と結婚することになる。若く偉大な軍人のロドリック公爵にこれまで貴族たちが結婚を申し入れなかったのは、彼に関する噂にあった。ロドリックの顔は醜悪で性癖も異常、逆らえばすぐに殺されてしまう…。
そんなロドリックが結婚を申し入れたのがユリアン・マルトリッツだった。
しかしユリアンもまた、魔性の遊び人として名高い。
それは弟のアルノーの影響で、よなよな男達を誑かす弟の汚名を着せられた兄のユリアンは、父の命令により着の身着のままで公爵邸にやってくる。
そこでロドリックに突きつけられたのは、《契約結婚》の条件だった。
一、契約期間は二年。
二、互いの生活には干渉しない——……
『俺たちの間に愛は必要ない』
ロドリックの冷たい言葉にも、ユリアンは歓喜せざるを得なかった。
なぜなら結婚の条件は、ユリアンの夢を叶えるものだったからだ。
☆感想、ブクマなどとても励みになります!
☆ムーンライトノベルズにも載せてます。
☆ 書き下ろし後日談をつけて、2025/3/237のJ.gardenにて同人誌にもします。通販もあります。

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる