運命の番は姉の婚約者

riiko

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第四章 揺れる心

49 揺れる

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 姉が婚約者を呼んでくるから少し待っていてと言って部屋を出ていったので、応接室でひとりで出されたお茶を飲んでいた。さすがに、いきなり弟連れてきたよ、とはいかないだろう。

 実は運命の男は一週間の出張にでていて、久しぶりに会うらしいから、そういう時間も必要なのだろう。というか忙しいカップルだなぁ。どちらかが長期出張って! そりゃ、同棲もしたくなるわ。

 久しぶりの抱擁でも終わった後に、俺を紹介するのだなと思って、のほほんとしていた。

 それにしても凄いところだ。隆二もこういうオフィスでバリバリ働いているのかな? 俺はずっと工場勤務だったから、スーツの人がいるところも、こじゃれた空間もそわそわするよ。

 姉は有休をとっていたにもかかわらず、オフィスカジュアル? みたいに綺麗な服装だった。俺はというと、完全休日モード。ジーンズとスニーカーだよ。でも、今着てる俺の服はすべて隆二がそろえてくれているから、実はちゃんとしたところの服なのかもしれない。知らないけど。

 やけに長い時間待たされるので、お茶も結構飲んでいたからか、尿意を覚えてそこを出てトイレに向かった。

 用を済ませたあと、なぜか道に迷ってしまった。そしてどうしてかひとつの部屋の前にたどり着いた。俺を誘導する何かがあった。そこにとてつもなくおいしいものがあるよと、謎のささやきが聞こえる気がして、蜜に群がる蝶のように、ひらひらと無意識に誘われるがままそこに行ってしまった。

 すると、その部屋から姉と男の声が聞こえる。

「どうして連れてきた!?」
「だって、もうフェロモンは大丈夫だって言っていたから。爽は妊娠したの、榊さんの子供よ。だからもう安心して、響也」
「妊娠って、なんでそんな話に!」

 なんで俺の妊娠話をしているんだ? それに相手の男が怒った。というか相手の男は加賀美だった。

 そもそも未婚で妊娠している弟がいる人を、あの婚約者の家が許すのだろうか。俺は言ってはいけないことを言ったかもしれない。黙って結婚式に出ればよかったのに、なんで俺、妊娠したことを報告しちゃったんだろう。きっとふしだらな弟がいることに、怒ったに違いない。

 俺はそっと、その場を去って帰ろうとしたときに耳を疑った。

「俺はそんなことの為に、あいつに託したんじゃない。それをつがいにもせずに先に子供を作るなんて、榊にはもう爽を任せられない」

 え? 今、なんて? 榊に託したって……しかも運命の男に名前を、俺の名前を呼び捨てで言われていたことに、体が反応した。

「だったら何? あなたが爽をつがいにでもするの? ただあなたは自分の運命から逃れるために、榊さんを仕向けたんでしょ。その話だけでも許せなかったのに、でも、爽は榊さんを好きになったから、だからあなたを許したのよ!」
「違う! 爽は榊じゃダメだったんだ。あの日あいつが何をしたか、麗香も見ていただろ」

 なんだって? 姉は、今なんて言った? 二人は俺の運命を知っている? しかもなんでそこに隆二の名前がでてくるの……え、いったいどういうこと? あの日ってどの日? 俺が一体何をしたっていうんだよ。

「俺は散々抗ってきた。もう限界なんだよ、麗香もこの間のラット見ただろう」
「そ、それは、爽の行動はごめんなさい」

 もしかして、あの日のこと? 礼と春に頼んで運命を確認する、あの行為? 加賀美も姉も俺があそこにいたことに気付いていた?

「ベータの麗香には俺の辛さがわからない。俺はお前を愛するために運命を拒絶し続けているんだ。本来なら、どうしたって逃れられないものをずっと我慢している」
「我慢って、でも、結局あなたは運命に抗えないのよ。爽のこと、好きなんでしょ。榊さんと一緒にさせようとしても、自分の運命を抱いた榊さんを許せないのよ!」

 え、運命は俺を好き? 凄い剣幕で姉が怒鳴っている。こんな声聞いたことない。

「麗香……」
「もう、もうやめてよ、爽は私たちの幸せの為に犠牲になっていいわけない。あなたが爽を諦められないなら、もう終わりよ」

 姉は、俺のことを、どこまで知っているのだろう。「私たちの幸せの為の犠牲」って、なに?

 隆二は運命に……加賀美に言われて俺を誘った? 加賀美が姉と結婚するために運命のオメガを排除する目的のために、俺を? じゃあ、どうして隆二は俺に愛していると言ったの? 俺に子種をくれたの? どういうこと? 隆二の俺への想いはすべて嘘だった?

 隆二が俺を初めから裏切っていた? 

 辛くて苦しくてどうしようもなくなった。でも、隆二の真相を聞きたい、そう思ってそのドアを開けると、言い争っていた二人がこちらを見た。

「姉ちゃん……今のいったい、どういうこと?」
「そ、爽ちゃん……」

 






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