運命の番は姉の婚約者

riiko

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第四章 揺れる心

47 姉とランチ

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 ヒートを過ごしたってことは妊娠している。

 ある日、いきなりそんなことに気が付いた。すっかり忘れていたけれど、ヒート中は妊娠をするって医者が言っていた。だから俺の胎にはすでに隆二の子供がいる!

 そう思うと、すごく嬉しかった。やっぱり、俺、隆二の子供が欲しいんだ。それに改めて気が付いた。

 あとは、しっかりと妊娠するまで、体力を温存してこれからの妊娠生活に備えなければいけない。

 当初の目的だと、妊娠したらさよならだったけれども、あの時の妊娠騒動で、隆二の本気を見たし、婚約者と言い張るくらいに俺のことをまだ求めていると感じる。そして俺も隆二を求め始めた。

 だから、俺たちはもう迷うことなんてないんじゃないだろうか。

 隆二と つがい……不思議と、それでもいいかもしれないと思い始めている自分がいた。妊娠が先になったけど、これから子供を産んだ後、隆二とつがいになる。

 それほどまでに、自分の中で隆二の存在が日々大きくなっていた。そんなことは絶対に言わないけど、でも一緒に暮らす中、気づけば隆二を探して、自然に隆二に近づいてキスしている。これを恋人と言わないのもおかしな気がした。

 ヒートで疲れたのもあるし、まだ不安定な時期に子供が堕りてしまうのは怖いので、体は繋げないようにしていた。そもそも隆二も、急な一週間の休暇を取ってしまったので、忙しくなって、それどころじゃなかった。

 そうして毎日が幸せに包まれて過ぎていく。穏やかな日常、隆二と過ごす日々。

 俺も母になるのなら、料理を覚えることにした。今はまだなんとなく自分を大切にしたいし、この隆二の鳥かごから出て生きたくなかったから、家でできることを探して、ネットで料理を検索して奮闘している。

 自分は今までそんなことをしてこなかったけれど、やると意外に楽しい。とはいえ、作る料理はまったく隆二の足元にも及ばず、目玉が固くなった目玉焼きとか、焦げ付いたウィンナーだとかを朝食に出す程度。そんな簡単なものでも、隆二はいつも毎回感動して喜んでくれる。その顔を見るたびに、もっと頑張って喜ばせてあげたいって思う。

 俺も大概だ。

 そんな穏やかな日、急に姉から呼び出しをくらった。姉はすでにあの男と暮らしているはず。でも、今の俺ならきっともう大丈夫。お腹の子供が俺を守ってくれるはず。そう思って隆二に姉と会うと伝えた。隆二も楽しんでおいでと笑顔で言って、俺にキスをして出勤していった。


 ***

 平日だったけれど、姉はちょうど結婚準備で買い物もあり、有休をとっていた。そこで無職の俺が呼び出されたわけだ。カフェで姉とランチをしていた。

 姉は俺を見たとき、不思議な顔をしていた。

「爽ちゃん、最近なにか異変とか、なかった?」
「え、ないよ」
「最近はどう? アルファが怖いとか、榊さんと付き合うようになって変わった?」
「あ、それ、隆二は大丈夫だった。俺、隆二のフェロモンが怖いって思ってないよ。でもそこから他のアルファはまだあったことがないから正直わからないけど」

 それを聞いた姉は、保護者のように安心したような瞳で俺を見た。

「榊さんとはうまくいってるのね。それは良かったわ」
「うん、おかげ様で? このあいだ姉ちゃんに会ったときはまだ自分の気持ちに確信が持てなかったんだけど、俺、ちゃんと恋愛してるよ」

 姉が俺の顔を見て、目を見開いた。そして微笑みながら俺に言う。

「なんだか、お姉ちゃん寂しいな。爽ちゃんが遠くに行っちゃうみたい」
「そんなことないでしょ、先に遠くに行っちゃうのは姉ちゃんじゃん!」
「ふふ、それなんだけどね。お姉ちゃんの結婚式、爽ちゃんは無理してこなくてもいいよ。榊さんを受け入れただけでも、爽ちゃんにとっては大変なことだったでしょ。結婚式は彼だけじゃなくて、他にもアルファもたくさん出席するし、爽ちゃんがヒートだってそう言ったら、出席しなくても不思議に思われないと思うの」

 あっ! なんだ、その手があったんじゃん。

 つがいとか妊娠とかよりも、オメガが欠席できる理由が。俺はなんてところを見逃していたんだ! ああ自分のオメガに関する知識が浅すぎて泣けてきた。もっとずるがしこく考えていたら、こんな回りくどいことをせずに、結婚式を待っていられたのに。そして当日ヒートだと言って欠席した後日姉の晴れ姿の写真を見せてもらえばよかったのでは?

 俺は壮大なことをしてきた自分に呆れてしまい、しばらく時が止まっていた。

「爽ちゃん? 爽ちゃーん!」
「あ、ああ、ごめん。ちょっと遠くに行ってた」

 姉が、俺の顔の前で手をふりふりしていた。

「ふふ、今まで困らせてごめんね。考えてみたら、つがいもいない無防備な可愛い弟をそんなアルファだらけの会場にいれるなんて、怖いことさせられないわよね」

 姉は俺の心配をして、そんな策略を考えてくれた? ヒートになったと言って欠席する弟。でも、親族紹介くらいは行った方がいいし、そこまで気を使わなくてももう大丈夫だと言った方がいいな。

 もしかしたら、姉はずっと俺のことを悩んでくれていたのかもしれない。

「姉ちゃん、俺、隆二との未来考えてるんだ」
「え? それって」
「うん。隆二から結婚してくれって言われてたんだ」

 姉は驚いた顔をしてけれど、すぐに頬が緩み笑顔を見せてくれた。

「そう、それで今日の爽ちゃんは、幸せそうに見えたのかしら?」
「そ、そうかな?」

 パスタを頬張る俺のほほを向かいの席に座る姉が、手を伸ばしてそっと触れる。

 姉の手からは、運命の香りはしない。

 ということは、やはり妊娠は確定だった。前回のこともあるから、もうちょっと時間をおいてから、隆二に妊娠のことは言うつもりだし、まだ検査もしていないから、もしかしたら妊娠していないこともあるかもしれない。もう隆二を悲しませたくないから、はっきりとわかったら言うつもりだった。だけど今の姉との触れ合いで確信が持てた。

「榊さんは爽ちゃんのこと、愛してくれているのね?」
「ああ、まぁ、そう、だと思う。あとね、俺、妊娠したんだ。だから、心配してくれてありがたいけれど、今アルファのフェロモン感じないし、だからアルファが怖くないんだ。姉ちゃんの結婚式でられるよ!」
「え」

 俺は妊娠していると、自然に出た言葉になんだか府に落ちた。俺は、やはり隆二を望んで、隆二の子供が欲しかったんだと。そんな穏やかな気持ちで姉に向き合っていると、姉が大きな声を出した。

「え、ええええ!」
「発情期に、隆二と過ごしたんだ」

 それはやったという意味だけど、恥ずかしいけれど恥ずかしいことじゃない。今度こそ二人で臨んでその期間を過ごしたんだから。

「そ、そっか。それで、つがいは?」
つがいは、もう少し後だと思う」

 自然にそう言えている自分に少し驚いた。そうか、俺はもう隆二で落ち着いている。改めて言葉にしてみると、簡単なことだった。


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