運命の番は姉の婚約者

riiko

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第四章 揺れる心

45 ヒートのお出迎え

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 ここは何処だろう。意識がまだ完全に覚醒できないでいるけれど、安心する二人の声がするから、大丈夫だと本能で感じていた。

 礼と春が言い争いをしている? そんな声が聞こえてきた。

「でも爽ちゃんは倒れる前に、隆二さんの名前を言った!」
「それでも、まだ爽に確認は取ってないだろう。勝手に爽を渡すわけにいかない!」

 えっと、なにがあったんだっけ? 俺は横になっている? あっ、ここは春の家だ。

「礼君。だめだよ、頭で考えちゃダメ。さっき爽ちゃんが抗っていた姿を見たでしょ。あれが答えだし、受け入れなかったら隆二さんを受け入れるって話だったじゃん」
「でもこの状況、隆二にどう説明するんだよ」

 どんな状況だろう。ああ、なんでこんなに息苦しくて、口の中が渇くんだろう。なんかこう、ねっとりとした何かが欲しい。何が欲しいんだっけ? 目を開くのが億劫で、そして自分の息が切れてはぁはぁと吐息を吐くその呼吸は耳に響く。そこで、また礼と春の声。

「それは……爽ちゃんが説明するよ。僕たちはただ友達が急にヒート起こして助けただけにしようよ。もう恋人の存在も聞いていたし、ここに来たその恋人に友達を引き渡すのは何もおかしくないってば。それにオメガのヒートにはアルファとの性行為が一番効果的だから。爽ちゃんは、もう抑制剤は効かないんだよ。運命が引き起こしたヒートを恋人が収める。それこそ、爽ちゃんの出した答えだから!」

 ヒート、運命が引き起こしたヒート、ヒート、恋人……。

「じゃあ、隆二を爽に会わせていいんだな」

 隆二……隆二。隆二が欲しい、俺が求めるのは、口が寂しいのはいつもの隆二の濃厚な口づけを欲しているから。

「はぁ、は、りゅうじ」
「え? 爽ちゃん。目が覚めた?」
「爽! しっかりしろ。ここは春の家だ。今、家の前に隆二が来た」

 一瞬で今までのことが理解できた。そうだ、俺は加賀美を感じてヒートを起こして、そして礼がすぐにそこから離れてくれた。

「はぁ、ごめん。迷惑かけた。は、あ、おれ、りゅうじのとこ、いく、から」

 いまだヒートは収まっていないようで、体が熱くてけだるい。

「ああ、わかった。じゃあ俺が連れてくから、背負うぞ」
「え、いいよ」

 礼がいつもながら頼もしい肉体を俺に見せてくる。柔道をやっているから、その辺の男より断然ガタイがいい。多分、というか絶対、隆二よりも凄いと思う。脱いだところを見たことはないけれど、シャツから胸筋の形がくっきりと見えているからな。

「遠慮するな。俺はお前にそういう意味で魅力は感じないし。俺は相当鈍いタイプらしいからオメガのセクシーアピールは俺には通用しない。お前苦しくて、歩けないだろ?」
「セクシーアピールなんかしてないわ! 礼のクソつまらない言葉に今はのってやれねぇ」

 声を出そうとするだけで疲れるって、いったいヒートって何なんだよ。それに、俺の体は抑制剤が効きにくくなっているみたいだし、辛い。

「黙れアホ。春、お前は一応来るなよ。爽のヒートでヒートアップしてるアルファの前に、オメガのお前が行って二次被害でも起きたら、俺やだからな」
「うん助かる。僕は正常な状態の時の隆二さんに、今度ご挨拶するからって言っておいて。あの剣幕のアルファの前には出られそうにないから」

 礼は春にそう言った。あの剣幕のアルファとはいったい?

 そして、俺を背負っていた礼が、玄関の扉を少し開ける。一応、俺が隆二のフェロモンを耐えられるかのチェックはするらしい。ドアにはチェーンがかかったまま少しだけ開いた。そこには、初めて嗅ぐフェロモンが漂っていた。いや、多分嗅いだことがある。初めて隆二に会った時、おしゃれな香水をつけているなと思った記憶があるけれど、これが隆二のフェロモンだったのか。抑制剤で完璧に消していたアルファのフェロモンは、香水程度には香っていた? でもフェロモンとしての誘惑剤にはなっていなかっただけらしい。

 いつもの隆二の爽やかで逞しい香り。ああ、これが隆二の香りなのか。なんだ、俺、大丈夫じゃん。何を今までそんなに悩んでいたのだろう。

 隆二の家の香り、そんなところだ。そしていつも俺がそこにいて、心地良かったんだから、それが答えであって、初めからわかっていたことだった。

 ふいにおかしくなって、礼におんぶされている背中で笑ってしまった。すると、隆二の苛立つ声が聞こえた。

「礼君、いい加減に僕の爽を返して。このチェーンを開けないようなら、切る」

 ぞくっとした。

 隆二の声だけど、いつもの優しい声じゃなくて、低くて少し怖い感じだった。それにフェロモンも声に乗るもの? 声だけで妊娠しそうなくらい、体に響く。俺を背負う礼には、俺の息子が当たってしまった。ほんと、ごめん。でももう限界だった。この香りのこの男に抱かれたい。

 頭ではそれしかなかった。

「爽、いけそうか? ってかいけるみたいだな、ソレ」
「……う、ごめん。いけます」

 礼は呆れた声をだした。友人にナニを当ててしまった恥ずかしさったら、ないわ。ヒートに入ったとしても、まだなんとなく理性がある。きっと、隆二の香りを少しでももっと近くで嗅いだら。例えばキスしたら、間違いなくヒートが上昇するに違いない。

「隆二さん、なんであなたがこの家を知ったのかは聞きませんけど、爽を納得させる答えをちゃんと与えてくださいね。爽はあなたに会うみたいなので、ここ開けるから、乗り込まないで下さいよ。この家にはもう一人オメガがいるんで、怖がらせないと約束してくださいね」
「ああ、ごめん。約束する。僕は爽を連れて帰るだけだから、君たちに被害はださない」

 その言葉を聞いて、礼はいったんドアを閉めて、チェーンを解いた。するとすぐにドアが引かれて、隆二がそこに入ってきた。

「爽!」

 礼から俺を奪い取るように、隆二は俺を抱きしめた。力が入らない俺は、隆二の首元の香りを嗅いだ。

「りゅ、じ、抱いて」
「ああ、すぐに。すぐに楽にしてあげるから!」

 隆二の力強い声と腕の強さに、体中がしびれる。俺は友の前で何を言っているんだと思うけれど、もうオメガの機能は待ったをかけられなかった。

「隆二さん、爽、ここのところフェロモンの調子崩れていたらしいから、いきなりそうなった。あなたのことは爽から聞いてる。爽のこと、よろしくお願いします」

 礼が頭を下げて隆二にそう言った。先ほどまでのアルファの威圧は収まったようで、隆二は微笑んだ。と思う。そんな雰囲気を抱きしめられていて感じた。

「礼君、先ほどはすまなかった。それとオメガの春君にも僕のフェロモンを感知させてしまいすまない。後日、謝罪に伺うけど、今は爽のこの状況を早く楽にしてあげたい。だから、失礼するね」
「なんで春の名前まで、まぁいいけど、とにかく頼みます」

 そして俺は車に乗せられた。きっと隆二の仕事用の車。隆二の専属運転手が車を走らせた。後部座席に隆二と二人、ずっとキスをして隆二の口内を堪能していた。

 隆二のキスを求めていた。渇いた心が満たされる。これが俺の答えだとわかった。

 家に戻ると、そこからなし崩し的に抱かれた。自分からもありえないくらい、乱れた。そして俺はそのまま発情期に突入して、隆二をずっと求めた。隆二もずっと俺を求め続けた。

 俺は、もう大丈夫。この男なら、運命を乗り越えられる。そう確信した。


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