運命の番は姉の婚約者

riiko

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第四章 揺れる心

44 運命を…

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 その日の内に計画を友人と立てて、彼の職場ビルの前に三人で来た。礼は大学生になり運転免許をとったので、レンタカーを借りて三人で車の中で待機した。ちょうどここからは会社のエントランスが見える道路に路駐した。

「っていうかさ、ここで待ってて、そいつが出てくるのかよ?」
「え、知らない。でも退社したら、ここから出てくるだろ?」

 俺と礼が話していると、春が突っ込んできた。

「あの、アルファの偉い人ってさ。基本車通勤じゃない? 満員電車とか、乗るかな?」
「「あ……」」

 オメガの春が一番、アルファについて知っていた。俺と礼は固まる。

「ばーかばーか、爽のばーか! お前浅はかなんだよ」
「なんだよ、礼だって、会社の前まで普通についてきたじゃねぇか」

 いつもの通り、バカみたいな喧嘩をしている俺たちを、春がなだめる。

「二人とも、こんなとこでそんなバカみたいな言い合いしていたら、見逃しちゃうよ?」
「そりゃそうだ」
「たしかに。あっ!」

 礼がいきなり声を抑えた。

「な、なに? 礼君、いきなり」
「だまれ、春。ヤバイぞ、爽の姉ちゃんがいる」
「え?」

 俺は車の中から、礼が言う方向を見るとたしかに姉がいた。そして、姉は誰かを待っているようだった。手首の時計を見ていた。もしかして俺の運命と待ち合わせなのかもしれない。

「爽、どんぴしゃだ。姉ちゃん、婚約者と仕事後デートじゃねぇのか?」
「そうかも……」

 鼓動が高鳴る。

 彼が出てくるのをずっとエントランスを見て三人で待機する。しかし思っていた場所からではなく、自分たちのいるところの反対車線に停止した車から、なんともいえない興味をそそられる雰囲気がただよう。

 するとやはり俺が気になる感覚通り、そこには運命の男、加賀美響也かがみきょうやがいた。社外で仕事をしていたのか、反対車線に止まったタクシーから降りてきたところだった。姉は加賀美が会社から出てくると思っているのか、エントランスの方を見ていて加賀美には気が付いていない。

 加賀美は、会社前にいる姉のところに行くのだろう。信号待ちをしていた。俺がそっちを車の中からじっと見ていると、礼がその視線に気が付き、その方向を目で追っていた。

「爽! あいつ、あの男が姉ちゃんの婚約者じゃない?」
「え、あ、ほんとだ」

 礼が俺よりも先に言葉を発して、加賀美の存在を言う。そして春もその言葉にそちらを見て、目視した。二人は加賀美の容姿を事前にネットから仕入れていた。

 俺は急いで車の窓を開けた。本当に何も考えず条件反射だった。すると香りがいきなり車中にいる俺の鼻腔に入り込む。

 窓を開けただけで、近くにいる運命のフェロモンを感じた。春に異変はないことから、やはり運命の俺だけが感じ取れるフェロモンだった。ずっとオメガの機能がおかしくなっていて、あの想像妊娠事件以降、俺にフェロモンが戻らなかったのに、まさかの運命の近くにいただけで俺のフェロモンは正常値以上に戻った。

「はぁ、はぁぁ、あ、熱い!」
「え? 爽ちゃん!」

 隣に座る春が、焦る声を出す。運転席に礼がいる。そして後部座席には春と俺。春が真っ先に俺の異変に気が付いた。笑っちゃう。どんなに抗っても運命は俺を逃してくれない。

「礼君、まずいよ。爽ちゃんのヒートがきそう」
「爽、お前、運命を見て、どうだ?」

 熱い、苦しい。窓を閉めたいのに、もっと嗅ぎたい。そして運命を目視したい。そんな思考が一瞬で頭を埋め尽くす。

「あ、待て、やばい。運命の男がきょろきょろした! きっとオメガを探してる。あいつも苦しそうに見えるぞ」
「え、どうしよう、どうしよう」

 礼が運転席で実況中継をしている。まさか、彼も俺を探している? その言葉に余計にフェロモンが俺から強く出る。

「あっ、こっちに気が付いた!」

 礼は、声を荒げた。そして春は戸惑いながらも俺の開けた窓の扉を閉めた。運命の男が俺に気づいた? 俺は荒い息を吐きながら車の中からそっちの方向を見ると、こちらに近寄ってくるあの男が見える。

「爽、答えろ! どうする? 運命と会うか? それとも隆二のとこに行くか?」

 あ、隆二。そうだ、俺は隆二と向き合うために、ここに来た。心で否定しろ! まだ加賀美には俺のことを見られていない。きっとまだ見つかっていない。でも、運命が近くにいると思って、探している。会いたい、でも逃げなくちゃ! その間に春が俺の太ももに緊急抑制剤を打った。春は泣いていた。その涙を見て、俺は何をやらせてるんだと思った。

「礼、車出して! 俺は運命を受け入れない。それが答えだ」
「わかった!」

 そして礼はすぐに車をだした。運命を見て、二度も俺は、運命から逃げた。春はオメガだから、この辛さがもしかしたらわかるのかもしれない。緊急抑制剤を打っても運命が起こしたフェロモンには効くことなく、そしてこれまでの抑制剤の使用しすぎがたたったのか、抑制剤が体に入ると急にめまいがして、俺は意識が朦朧とした。

「爽! 爽!」
「爽ちゃん!」

 二人の焦る声が聞こえるけれど、自衛本能は意識を遮断することを選んだんだ。俺は瞳を閉ざす前、言葉を発した。

「隆二……」

 そして暗闇の中に、俺の意識は沈んでいった。


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