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第四章 揺れる心
43 計画
しおりを挟む姉と会ったその日の夜に、高校時代の友人に会いたいと隆二に言ったら、許してくれた。
そして友人たちに連絡を取り、翌週に彼らの大学が終わった時間に合流することになった。いつもの護衛が俺を待ち合わせ場所のカフェまで連れて行ってくれた。解散の時間がわからないから、終わったら連絡をすると言ったら、素直に従ってくれた。
友人二人は大学生。まだ一年生ということもあり、忙しくしているとのことだったけれど、俺の深刻そうな雰囲気の電話から、二人は時間を作ってくれた。
定期的に会っている高校時代の友人二人。オメガの 春とベータの礼 。二人に今までの全てを包み隠さずに話した。あの運命との出会いからの全てを……。俺の真実を聞いた二人は、呆れた顔をした。
「爽ちゃん、まさかさ。そんなことになっていたなんて、驚きだよ」
「ああお前、アホなのか? バカなのか?」
心配というよりも、怒られた。
「だいたい、お前、何考えてんだよ。妊娠するために男をひっかけるとか」
「だって、仕方ないだろう。それしか姉ちゃんの結婚式に出る方法がないんだから」
礼から、怖い顔でお説教をされる。そして今度はあのとき俺に、妊娠したらフェロモンが出ないと教えてくれたオメガの春が、罪悪感のある顔で見てきた。
「爽ちゃん……僕があの時、言ったから? なんとなく、爽ちゃんが選ぶ道はわかっていたけど、でもまさか本当にするなんて」
「ごめん。春が言ったからじゃない。俺が決めたからだよ。とにかく、俺、確かめたいんだ。運命を初めて確認した日は、おまえらがいてくれたから大事にならなかった。だから、今回も側で見守っていてほしい」
きっかけは春から聞いたことだったけれど、自分で選んでこの道に今いる。
「でも、もうその隆二でよくない? 聞く限り、爽はその男に相当好かれているし、大切にされている。あっちの相性もいい。友人としても、姉の夫になる人よりもクリーンな独身男の方をお勧めするけど?」
礼が真面目な顔でそう言う。
「礼君。オメガにとってフェロモンって凄く重要でね。って、僕は運命に会ったことはないけど、でもフェロモンでどうにかなっちゃうくらいには、アルファの力って抗えないんだよ」
「はいはい、俺にはわかりませんよ。だったら、爽は運命の男と会う前に、隆二と抑制剤なしに向き合って、そのフェロモンとやらに抗わず、隆二とくっつけばいいじゃんか」
「ほんと、そうなんだけど……爽ちゃんはどうしてそこまで悩むの? 隆二さん、いい人そうなのに」
二人は隆二推しだった。たしかに婚約者のいる男を勧めないのは、あたりまえか! しかも姉の婚約者だし。普通に考えたら隆二ほどの優良物件はいない。
「俺もわからないんだ。隆二を求めているのに認めているのに、運命をどこかでずっと想っていたい自分がいるんだ。だから一生アルファと番になることを選ばないし、誰とも結婚しないで、心の奥底で運命を想っているだけならいいかなって、今までバカみたいな考えだった」
「それもう、演歌だな」
礼が呆れた声でそう言った。
「演歌って……。でも隆二と一緒に暮らし始めて、俺は隆二なら運命を克服できる気がしてきた。だから、それを確かめたいんだ。もし運命になびくようなら、隆二を裏切ることになる。でも本当に大丈夫だと思ったら、俺は隆二の全てを受け入れる覚悟ができると思う」
自分勝手な言い分なのはわかるけど、でも俺は確かな俺の何かが欲しいんだ。すると礼は、厳しいことを言ってきた。
「なぁ、爽は苦しんでいる自分に酔っている。それから、姉よりも運命は自分を選ぶとでも心の奥底で思っているんじゃないの? 自分は姉ちゃんが好きだから諦めるけど、でも運命は弟に会ったら弟を選ぶよ、っていうマウント?」
「違う! そんなこと」
「だったらそんな面倒くさい確認なんか飛ばして、隆二と 番になれよ!」
そこで春が口をだした。
「礼君、言い過ぎ。爽ちゃんが必死に僕たちに頼ってきてくれたのに、その言い方は酷いよ」
「悪かったよ。ただ、そんなうじうじするのは、爽らしくない。それに頭で考えすぎて、行動がめちゃくちゃ面倒くさい。やっぱりお前早く運命と蹴り付けたほうがいいよ」
俺らしくない。
確かにそうだった。礼はハッキリ言ってくれた。そうだよ、俺はなに悲劇のヒロインを演じているんだろう。俺は運命との縁を今ここで斬る。
「ごめん、俺、どうかしてた。俺、隆二に向き合ってみる。だから、やっぱり運命に会う」
「「ええ?」」
二人は驚く。
「だから運命に会っても、隆二が良いって思えたら、隆二に戻る。だめなら、やっぱり誰か他のベータの子供を孕む。俺にはそれしか方法がない。細胞が心が運命だけを求めたなら、あんなに俺を好きだと言ってくれる隆二といる資格は俺にはないから、当初の目的通り妊娠するためだけの男を探すよ」
「また、お前は……俺はお前を抱かないからな」
「やめろよ、俺も礼に抱かれたくねぇわ!」
二人でよく高校時代下ネタを言っては笑っていたのを思い出した。こういう感じで、オメガだからといって、変に気を使わない礼だからこそ長年友情が続いた。そして、春が笑った。
「ふふふ、二人とも、バカみたいな話はやめてよ。とにかく、爽ちゃんの気持ちにけじめをつけよう。どちらに転んでも、今後の爽ちゃんの道が決まるなら、僕たちが見届けよう」
「ああ、見届けてやるよ、爽」
頼もしい友人は、最後は俺の頼みを聞いてくれる。いつもそうだった。
「で? 運命と直接会ったら、間違いなくその男に爽が運命の番だと知られてしまうんだろう。そしたら今までの計画がおじゃんだ」
「そう。だから直接は対峙しないけど、こっそり近くで実物を見たいんだ。それでもしヒートがきて、もしも俺の心が運命を求めたら、俺は隆二と別れて他の誰かの子供を産む」
「はぁ、極端だなぁ」
礼が呆れる。
「今までの経験上、身近で見たらきっと俺はヒートに入る。だからそうなった瞬間、バレないうちに退散する。ヒートに入ったら、そこは礼が俺を運んで逃げてくれ」
「俺任せかよ!」
「だって、お前柔道で鍛えぬいたその体しか自慢になることないだろ。俺に使っとけ」
「出たよ! まぁ、いいけど」
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