運命の番は姉の婚約者

riiko

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第四章 揺れる心

40 正当な順番 

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 その日、隆二は会社に戻ることなく俺についていてくれた。きっと妊娠していなかったことに、がっかりしているだろう俺を慰めるためだと思う。

 いつも以上に甘い。

 家でずっとくっついている。

「爽、子供はいつだって作れるよ。そんなに落ち込まないで」
「え、うん」

 落ち込んでいない。

 だって子供は初めからいなかったし、それよりも隆二は信じたの? 

「でもこれで正当な順番にできるね。今度はご両親に つがいの許可をもらいに行こう。それと、結婚の」
「え」
「爽、結婚しよう。本当は結婚してつがいになってから子供が理想的だけど、爽はもう数か月後のお姉さんの結婚式でつがいがいなくてはいけない状況になっているから、つがいが先かな?」
「いや、妊娠が先じゃない?」

 隆二が不思議な顔をする。

「どうして? だってアルファに会うには、つがいになるのが一番の解決法だよ。爽にはもう僕というアルファがいる。それなら妊娠を急がなくてもよくない?」
「隆二は妊娠したから俺の仕事を奪って、ここに連れてきたんでしょ。じゃあ妊娠していないなら、俺は仕事に戻れる? つがいというのも、妊娠したから結婚してつがいって流れだったじゃん。いまさら、そこって必要なの?」

 自分で聞いていて馬鹿らしくなった。こんなに周りから丸め込まれているんだから、もう隆二がこれだけの理由で俺を開放するわけがないことを俺は知っている。それに、今はっきりと結婚しようと言われた。

「それは爽が決めた人生設計で、僕のじゃない。僕は爽を愛している。子供がいようがいまいが、愛しているから爽と一生を共にする。いい加減、そこに向き合ってくれてもよくない?」
「ごめん」

 隆二の想いはずっと聞いていた。それを俺が妊娠していてナーバスな状況というのもあるからか、隆二は俺に求めてこなかった。でも今はもう違う。俺はついに隆二と向き合わなくてはいけないときがきた。

「爽、少なからず爽は僕のことを受け入れてくれているよね?」
「う、うん」

 受け入れている。

 これで受け入れていないわけがない。

 しかし、それには隆二のアルファの香りを確認しなくてはいけないし、本当に俺はあの人への想いがないのかも知る必要がある。たとえあの人を想っていたとしても、結ばれることは絶対にないけれど。もしあの人を想ったままなら、他のアルファとつがいになんてなれない。それはあまりにも失礼な行為でしかない。俺の気持ちに嘘をつきながら、他のアルファと一生を過ごせない。

「隆二、でも俺まだ隆二の匂い、わからない……」
「ああ、そうだったね。アルファのフェロモンを感じないのも想像妊娠のせいだって、先生は言っていたか。でもそれはじきに戻るよ。想像妊娠じゃないと理解した時点で、爽の症状はすべて元に戻るって医者も言っていたし」
「うん。だから、隆二の香りを確かめてじゃなくちゃ、俺は何も言えない」

 言い訳苦しいけれど、今はそうしてこの場を逃れるしかない。隆二は微笑みながら、いつも通り俺の言い訳に流されてくれた。結局俺が妊娠を望んでいるのと、つがい候補がいるということを医者が確認してしまったせいで、過剰に抑制剤を貰うことができなかった。

 どうしようも無い時の処置程度の処方だけだった。

 いつも以上に心もとない抑制剤の量。そして医者からは、想像妊娠で狂ってしまったフェロモンの数値を通常に戻すために、抑制剤の使用を避けるようにとも言われてしまった。

「爽、オメガの機能が戻ってきたら、ちゃんと考えて。それからオメガの機能が戻る前に、心で考えて。フェロモンに左右されない、爽の心で」
「隆二……」

 そして隆二はキスをする。俺も自然と口を開けて隆二を受け入れる。これだけでも、俺は隆二を好きじゃないわけがない。いい加減、隆二がこうやって俺を逃がさないように優しく優しく囲ってくれている内に、それに応えた方がいいのもわかるのに。

 俺は、いったい。

 やはり考えたくなくて、隆二に縋った。悪い癖だけど、隆二は俺が甘えると喜ぶから、たいていのことはこうしていれば隆二は無理を言わなくなる。

「隆二っ」
「爽? スイッ入っちゃった? 妊娠していないなら、抱いてもいい? 正直もう僕は爽を抱けなくて限界だよ。妊娠中なら医者から許可が出るまで待つつもりだったけど、今はもういいよね?」
「んっ、んん、でも、俺、今やっても妊娠しなっ、あん、からっ」

 隆二がキスをしながら、俺の胸をいじくる。その快感をすぐに拾ってしまった。

「さっきも言ったけど、それは爽の事情でしょう? 僕は孕ませるためだけに爽を抱いてない。僕は爽を抱きたいから抱く。愛しているから、抱くんだよ」
「はっ、んん。お前、セフレの時からずっと嘘つきだぁ」

 隆二の唇は、俺のはだけた胸に下がっていった。体を吸われる。隆二の唇を体で感じて、気持ちが良すぎて会話ができる気がしない。

「爽が僕から離れないように必死だったんだよ。恋する男なんてこんなもんだ」
「恋って……あっ! ちょ、ちょっと待て! ちょっとどけ!」

 俺は我に返って、俺の腹まわりを舐めまわす隆二の顔を手でどけた。

「なに?」

 隆二はご馳走を奪われたかのような、不服な顔をして俺を見た。一応、俺の腹まわりへの口づけはやめてくれた。

「なに? じゃねぇだろう。オメガ改革とやらをやっている役員なら、オメガの仕組み知っていただろ? オメガがヒート以外に妊娠しないって知っていたんじゃないの? もしかして、俺が妊娠してないって知ってた?」

 隆二は俺の言葉を聞いて、起き上がり目の前に座った。そして髪をかきあげて、しれっとした顔をする。というか、髪を触る仕草が超絶色っぽくてドキッとした。こういうところだよ、アルファのズルいところは! そんな理不尽な怒りと、隆二の色気にやられた俺は少し鼓動が激しくなった。

「ああ、それね。でもヒート以外でも稀に妊娠することもあるっているのも事実だから、つわりや食べ物の好みが変わったのを見て、本当に妊娠しているのかもって思うようになったんだ。だから、全く疑っていたわけじゃないよ」
「ふ、ふーん。そうなんだ」

 それにしても、そんなにオメガに詳しいアルファも、そもそもオメガ専門医も、俺のただの偽装妊娠を見破れないなんてことあるのか? でも俺の演技も相当なものなら、姉の結婚式でもすんなりと周りを騙せて、義理の兄として接することができるかもしれない。

 運命に気づかれない方法が取れたとしても、俺の態度が挙動不審だったら台無しだ。演技力を今から認めてもらえたのは、これからの未来の安心材料のひとつになったから良しとするか。

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